第36話 3階層5、白銀の双剣


 3階層を地図を見ながら進んでいたら1階層でレメンゲンを見つけた時のようにエリカの地図にも俺の描き写した地図にも載っていない側道を見つけてしまった。

 2匹目のドジョウを求めて俺とエリカはその側道の中に入っていった。


 その側道はレメンゲンの時同様、地図を延長しながら歩いて10分ほどで行き止まりになっていた。


 正面の岩壁は何かの結晶で覆われていたが前回の黄鉄鉱の結晶は立方体だったが、この結晶はそれとは形が違うし、もう少し黄色が濃い感じがした。


 エリカがリュックからランタンを取りだして火打石と打ちがねで火口ほくち点火して辺りは明るくなった。

 黄金にも見えなくもない結晶がキラキラ輝いた。


「きれい!」

「これは黄銅鉱だな」

「銅なの?」

「これを何とかすれば銅が採れる」

「エド、よくそんなこと知ってるわね」

「なんとなく、知ってるんだ」

「ふーん。エドのロジナ村って鉱山が近くにあったの?」

「いや」

「ふーん」

「前回はうまい具合に大ウサギが突っ込んでくれたから孔が空いたけれど今回はそう都合よく大ウサギが現れそうにもないから、何とかしてこの先に坑道がないか探りたいな」

「穴を掘るような道具はないけど、前回は手で穴を広げられたから、頑張れば手で穴が空くかも」

「よし。それじゃあ試してみるか。エリカはランタンで俺の手先辺りを照らしてくれ」

「分かった」

 俺はリュックを置いて、結晶で覆われた前面の岩壁を掘った。

 思った以上に壁は簡単に掘れ、犬になった気持ちで掘っていったらどんどん穴は大きくなり、本当に向こう側に貫通して穴が孔になってしまった。

「やっぱりこの先があったね!」

「うん。期待が膨らむな。

 孔を拡げて向こう側に行ってみよう」


 気合を入れた俺の両手によってすぐに孔は人一人通り抜けられるほど拡がった。

 俺はエリカからランタンを受け取ってそれを前に突き出し孔をくぐってその先の空洞に出た。

 すぐにエリカも俺に続いてこちら側にやってきた。


 前回同様、抜けた先の空洞は坑道で、前回同様目と鼻の先に石室の入り口があった。

「あったねー」

「だな」

「お宝あるよね!?」

「おそらく。行ってみよう」

「うん」


 ランタンを掲げて入り口を入るとそこはやはり奥行きが5メートルほどの黒っぽい石でできた石室で、正面の壁の手前には台が置かれ、その上に長短2本の剣が抜き身で置かれていた。

 剣身は俺のレメンゲンの逆で白く見える。銀ではないのだろうが白銀という言葉が俺の頭に浮かんだ。

「やっぱりあった!」

 エリカが大きな声を上げた。

 台に近寄ってみたところ、レメンゲンの時は台の上に文字が書かれていたが、今回は何も書かれていなかった。

「長短2本の剣って、エリカのためにあつらえたような感じだな」

「どーなんだろ?」

「ダンジョンに意志があるのかもな」

「そんなことあるの?」

「いや、分かんない。そう感じただけ。とりあえずエリカ、持って振ってみろよ」

「うん」


 エリカが長剣を右手に、短剣を左手に持って軽く振った。

「何だか、初めてなのに手になじむ。いい感じ。

 あっー! どちらの剣の根元にも文字が彫られてる。でも全然読めないなー」

「どれどれ。

 レメンゲンの時、台の上に書かれていた文字はカクカクした文字だったけど、この2本の剣に刻まれた文字は似てるようで、あれとは系統が違う気がする」

「そーだよね。わたしもそんな気がするもの」

 剣に刻まれた文字なので、どこかに持っていってそれなりの人に見せれば解読できるかもしれない。ギルドに戻ったら当てはないかエルマンさんに聞いてみるか。


「それはそうと、エリカが持ってみて調子がいいみたいだからエリカのものにしなよ」

「いいの?」

「当たり前だろ。俺にはレメンゲンがあるんだし」

「これって売ればかなりの高値で売れるはずだよ」

「その分エリカがその剣で稼いでくれよ。期待してるぞ」

「うん! 分かった」


 エリカが再度両手の剣を振っていたら、気付かぬうちに台の上に鞘が2つ現れていた。双剣用に間違いないのだが、2つの鞘はどちらもレメンゲンの真っ黒い鞘と対照的にツヤのある真っ白な鞘だった。正直カッコいい。

 エリカは2本の剣をその鞘に納めて両手で抱いて持った。

「ところでエリカ、剣を手にして何か声は聞こえなかったか?」

「何もなかった」


 悪魔と契約せずにダンジョン産の剣が手に入ったということは幸運だった。悪魔が複数現れたらややっこしいから、これもレメンゲンの力かもしれない。まあ、ここは素直に喜ぼう。


「あとは、何か特別な力を感じるとかないか?」

「今のところは何も」

「実戦で確かめてみよう。次にモンスターに出会ったらエリカがたおしてくれ。俺はエリカが危なそうになったら助けに入る」

「分かった」


 ひとあたり部屋の中を見回して、何もないことを確かめた俺たちはリュックを置いた元の場所に戻った。


「エリカ、今までの剣は俺が持っていようか?」

「わたしのリュックに入るから大丈夫」

「分かった」

 エリカは今までの2本の剣を外して自分のリュックに入れて、新たに手に入れた2本の剣を剣帯に吊るした。


 ツヤのある白い鞘が高級感を演出してカッコいいぞ。

 かくいう俺のレメンゲンの真っ黒な鞘だが、カッコいいんだがなんだか禍々しさが漂ってきてるんだよなー。迫力も出てきたような。


「元の道に戻って、先に進もう」

「うん」


 側道から元の坑道に戻って俺たちはその先に向かって進んでいった。

 それから30分ほど更なるドジョウを求めて歩いて行ったのだがさすがに地図に載っていない側道は見つからなかった。


 その間一度大ムカデに遭遇したが、エリカが長剣を一閃しただけでケリが着いてしまった。エリカに剣を実戦で使った感想を聞いたが、相手が弱すぎて何も特別なことは感じなかったとの返事だった。こればかりは仕方ない。今までの剣でも楽勝だったわけだからもう少し骨があるモンスターじゃないと新しい剣の効用など分からないだろう。


 効用と言えば俺の左手の指輪だが、一体何なんだろう? 今となってはほとんど気にならなくなっているのだが困ったものだ。


 次に大ウサギ2匹に遭遇した。

「エリカ!」

「任せて」

 エリカが双剣を鞘から抜き放ち近づいてくる大ウサギに向かって駆けだした。

 バックアップの俺もレメンゲンを抜いてエリカに遅れぬように駆けだした。

 エリカは大ウサギのジャンプを巧みにかわしながら長剣と短剣をそれぞれ一閃して大ウサギの首を落としてしまった。

 お見事!

「エリカ、今のはすごかったな」

「そう? 2匹ともなんだか手ごたえないというか、動きが鈍かったというか」

「俺にはそうは見えなかったぞ。2匹とも今までの大ウサギと変わらない動きをしてた」

「そうだったー?」

「うん。おそらくそれがエリカの双剣の力なんじゃないか?」

「あー。そうか。そうなのかもしれない」

「きっとそうだよ」


 エリカの双剣の力が分かった。なかなかのものだ。


 俺たちは獲物の血抜きをして俺のリュックに詰たところで昼休憩に入った。俺のリュックはもう一杯なので休憩が終われば引き返すことになる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る