第34話 サクラダ劇場2


 俺とエリカはサクラダ劇場に入っていき、出入り口先のチケット売り場で代金を払った。

 代金はひとり銀貨1枚だった。安くはないが今の俺たちにとってはそれほど高いわけではない。俺もビッグになったものだ。


 チケット売り場の先の扉を開けたらそこが観劇場になっていて、長椅子が並べられ、その先の舞台前、一段低くなったところに10人ほどからなる楽団が待機していた。

 席はそれなりに混んではいたがエリカと並んで中ほどの席に着くことができた。ざっと見渡したところ観客の8割が女性で2割が男性だった。男性は今日の武術大会予選の見物に行っているのだろう。


 席についてしばらくしたら、街の鐘が聞こえてきた。

 今までざわついていた場内がすぐに静かになった。観劇マナーはしっかりしているようだ。

 舞台照明は天井の明り取りからの明かりを磨いた金属板で反射させるというダイナミックなものだった。人力で何でもやってしまうのだから観劇料が高くなるのはやむを得ない。


 舞台の上では照明の中に、3人の男が現れ父親が亡くなったので遺産を分けようという話になっていた。

 長男と次男で遺産は分けられてしまい、3男は一匹の猫だけを渡され家を継いだ長男の下で使用人として使われることになった。その3男は今日からおまえの寝床はここだと言われた納屋の中で途方に暮れていた。


 なんだか、まんまのような気がしないでもない。


 その3男のところに、遠目にもかわいく見える女の子が扮する3男が貰ったというか押し付けられた猫が、3男に向かってブーツと布袋をくれと頼み込む。

 袋はすぐに用意できたが、ブーツを猫にやってしまうと自分のはく靴がひとつしかなくなってしまう。

 それでも猫はブーツが欲しいとせがむので、3男は自分のはいているブーツを猫にやり、自分は孔が空いて捨てようと思っていたブーツをはいた。

「けっしてあなたに損はさせません。数日待っていてください」

 そう言って猫は布袋を持って、走り去ってしまった。

 猫に騙されたと思った3男は途方に暮れたが後の祭り。



 3男の下を走り去った猫は、街を離れて草むらに入っていきそこで1匹のウサギを捕まえ袋の中に入れた。


 猫はその袋を持って駆け出した。猫の走っていった先には旗の立てられてテントがあり、その国の王さまが椅子に座っていた。


 王さまは狩りをしていたのだが何も獲物をしとめていなかったので苦い顔をしていた。

 猫が王さまの前に進み出て、

「わたしはバラカ侯爵の家来の猫でございます。これを王さまに献上いたします」

 そう言って袋に手を入れ中からウサギを取り出した。

「おう。これはかたじけない。何か褒美をとらせねば」

「いえいえ、褒美などはいただけません。それでは失礼します」と言って走り去ってしまった。

 王さまはブーツをはいたおかしな猫だと思ったが、すぐにそのことは忘れてしまった。

 それから、半時ほどすると王さまに献上したいものがあるとまた猫が現れた。

 今度は珍しい薬草が入っていた。

 薬草を献上した猫はそのまま駆けて行ってしまった。

 このところ胃の調子が悪く食欲がなかった王さまだったがその薬草の匂いを嗅いだだけで胃の痛みが取れて食欲が戻ってきた。

 そういったことが何度かあり、王さまはバラカ侯爵のことを気にかけるようになった。


 最後の贈り物をした猫は3男の下に取って返し自分についてくるように頼んだ。

 ちょうど仕事が一段落したところだったので3男は猫の後についていった。


 猫は街を出たところに流れる小川の前で、汗を流さないかとしきりに3男に勧めた。3男は仕事で汗をかいていたこともありその場で裸になって小川に入って水浴びをした。

 ここがこの劇の見せ場だったらしく3男が服を1枚1枚脱ぎ捨てていくたびに場内からため息や息を飲む音が聞こえたような。

 確かに3男は美形男子だ。それが目当てで女性客が多かったのか。妙に納得した。

 隣に座るエリカの横顔を盗み見たら、何だか顔を赤くしているようなしていないような。


 この世界にはわいせつ物陳列罪などないので当然アレは隠されてはいない。そのかわり猫が3男の服を隠してしまった。

 水浴びを終えて岸に上がったマッパの3男。服を探すが見つからない。そこに城に帰る途中の王さまの馬車が通りかかった。

 裸の男をいぶかしんだ王さまが馬車を止めさせ、家来に3男を連れてくるよう命じた。

 そこにしばらく姿を隠していた猫が現れ、王さまの乗る馬車の前に進み出た。

「あれは主人のバラカ侯爵で山賊に襲われみぐるみはがされたものです。わたしは何か着るものの代わりがないものかと探しているところでした」

「バラカ侯爵か。これ衣服があればバラカ侯爵に渡してやれ」

 王さまの家来が衣服を一そろい、マッパのバラカ侯爵に手渡したところで王さまの馬車は帰っていった。


 そこで、幕が下ろされ休憩時間になった。


「エリカ、今までのところ、どうだった?」

「わたしの知っているお話とは少し違ったけど、こっちの方が好き!」

 好評のようだ。女子は美形男子のあられもない姿を好むということか。男が美女のあられもない姿を好むのと一緒ってことだな。

 この芝居の演出なら、第2部で美形女子扮する猫のマッパシーンを拝めるかもしれない。

 期待大だ。


 15分ほどの休憩の後。

 王さまからもらった立派な衣装を着た3男が城に招かれていた。

 そこには王女さまもいて、3男は王女さまに一目ぼれをし、王女さまも3男に一目ぼれした。


 しかし、長男のうちの納屋で暮らしているようでは到底王女さまと結ばれない。

 城から帰った3男はため息をつくばかり。

「お任せください」

 そう言って猫は3男の下から、森の中にある巨人の城に向かった。

 猫の後ろにはネズミの兵隊が数百付き従っている。


 巨人の城に攻め込んだ猫たちに対して巨人は最初悠然と構えていたが、非常にうっとうしい。段々腹が立って地団太踏んだら床が抜けてしまって地下に落ちてしまった。

 その上から猫とネズミの軍団が石をどんどん投げ込んでとうとう巨人を埋め殺してしまった。


 猫に連れられ城に入った3男は、城の中で金銀財宝を見つけ大金持ちになってしまった。

 猫は財宝のうちめぼしいものを袋に詰めて王さまの城に行き、バラカ侯爵が王女さまを娶りたいと、財宝を王さまに献上した。

 王さまもバラカ侯爵ならと思っていたので王女との結婚を二つ返事で許した。めでたしめでたし。




 猫に扮していた美形女子のマッパシーンがなかったにもかかわらず、日本でやっていたくだらないテレビなんかよりよほど面白かった。銀貨1枚の価値はあった。


 芝居の評価はそんなとことだが、芝居のあらすじは、まんまの劇だった。以前に地球からの転生者だか転移者がこの世界にやってきている可能性がさらに高まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る