隠れ蓑 あらすじ

 仙台伊達家平士頭の佐藤源之介の妻奈緒が三つ子を懐妊した。畜生腹は忌み嫌われる。佐藤源之介は、三つ子の一人を親戚の木村玄太郎と香織の夫妻に育ててもらう。三つ子の長女は八重、次女は多恵、木村玄太郎の養女になった三女は佐恵だ。

 長女の八重が十歳の夏、冷害による飢饉で仙台伊達家の財政は窮乏し、伊達家は平士頭の源之介に指物の普及を命じた。源之介は指物を修業して平士に指物の作成を指導した。その結果、仙台指物は江戸で評判になり、伊達家は困窮を乗り越えた。

 その翌年も冷害だった。二度の冷害で財政が窮乏した伊達家は平士に暇をとらせた。

 翌年、八重が十四歳の夏。源之介は町人源助と名を改め、妻の奈緒と長女の八重と次女の多恵と共に江戸へ出た。日本橋元大工町に長屋住まいしたが、妻の奈緒と次女の多恵は江戸の水が合わぬと言って仙台に戻ったため、源助と八重は、与力の藤堂八十八と子息の与力見習い藤堂八郎の助力で、父と娘の家族二人として人別帳に記載をすませた。この出会いで、十四歳の八重と十九歳の藤堂八郎は互いに一目惚れしていた。

 その一年後、八重が十五歳の時、母の奈緒と共に仙台に戻った次女の多恵が、口入れ屋の与三郎に騙されて与三郎の女になり、与三郎の盗賊一味に引き込まれたが、源助も八重もその事を知る由も無く、与三郎は八重たち姉妹が三つ子とはまったく知らなかった。

 十八歳の春、八重は与力になった藤堂八郎と再会し、憧れていた藤堂八郎の側室になり長屋で暮らし、長屋の子らに読み書き算盤を教えた。冷害による飢饉の際、父源助は指物で伊達家の窮乏を救ったが、読み書きできぬ仙台藩の百姓は、悪徳商人の不当な証文に騙され悲惨な結果を迎えた。その事を知る八重は、長屋の子らに読み書き算盤を教えた。

 その後、文月(七月)、源助の元に仙台の木村玄太郎が、次女の多恵が商家に奉公して盗賊の手引きをするよう、与三郎から強要されそうだ、と知らせた。

 八重が十九歳の如月(二月)、玄太郎が文で、商家に奉公した多恵が盗賊の手引きを強要され助けを求めている、と知らせた。源助は仙台へ赴き玄太郎と共に多恵を救うが源助と多恵は刀傷から感染症を患い他界した。与三郎は江戸へ逃げ、行方知れずだった。

 八重が十九歳の弥生(三月)、八重は玄太郎の知らせで父と多恵の他界を知り、怨みを晴すべく、読み書き算盤の教授をやめて藤堂八郎と別れ、父源助の長屋へ引越し、玄太郎と長屋の隣人の麻と麻の父八吉の協力を得、三女佐恵と二人で一人の八重を演じ、文月(七月)、以前から八重に惚れている呉服問屋加賀屋菊之助の女房になり、与三郎の盗賊一味に加賀屋襲撃を持ちかけて与三郎を罠にはめるべく謀を企て、与三郎一味を探した。

 だが、八重が二十一歳の弥生(三月)、夜の八重を演じる佐恵が過労で倒れ、二人で一人の八重を演じられなくなった。玄太郎の持参した眠り薬と加賀屋の菩提寺の丈庵住職と町医者竹原松月の協力により、八重が他界したと見せかけて佐恵は静養した後、上女中の多恵に扮して、皐月(五月)、江戸で口入れ屋を始めた与三郎を通じて加賀屋に奉公した。

 主の加賀屋菊之助と祝言をあげる仲になった多恵は与三郎の盗賊一味に加賀屋襲撃を手引きし、与三郎たち一味の加賀屋襲撃を町方に知らせ、文月(七月)二十二日、夜九ツ(午前〇時)、加賀屋を襲撃した与三郎一味は、待ちかまえた町方に捕縛された。この時になっても、与三郎は、多恵が単独で加賀屋襲撃を手引きしたと信じて疑わなかった。

 加賀屋菊之助は与三郎一味捕縛に協力した多惠の身を案じた。与力の藤堂八郎は己の裁量で、多恵は咎められぬと判断し、多恵が加賀屋に戻るのを待てと菊之助を安心させる。

 その後の詮議と吟味で与三郎一味は死罪に処された。また、木村玄太郎と麻と父八吉、丈庵住職と医者竹原松月は、夜盗捕縛に協力したとして、皆がお咎め無しになった。

 そして、佐恵は多恵として加賀屋に戻り主と祝言を挙げる事、八重は吟味与力藤堂八右衛門の養女となった後に藤堂八郎に正妻として嫁ぎ、長屋で読み書き算盤の教授を続ける事の特別な裁きが下り、八郎には早く後継ぎを設けよとの裁きが下った。

 八重は裁きに驚きながらも、父源助と多恵の仇討ちができた事と、御上の温情によって皆がお咎め無しになり、己と佐恵が心寄せる人の元に戻れる事、読み書き算盤の教授の場も与えられた事を、北町奉行をはじめ北町奉行所の役人と町方、そして、此度の謀に協力した皆に、目に涙を浮かべて感謝した。裁きの場で、御白州に座る者たちを見つめる藤堂八郎の視界が涙で霞んだ。私の元に愛しい八重が正妻として戻ってくる・・・。

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隠れ蓑 与力藤堂八郎④ 牧太 十里 @nayutagai

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