第5話クラーケンマンVS破壊の魔法少女

「時東!時東ーっ!!」

和紗が叫ぶ中、乾いた破裂音が何発も響く。触手から解放された魔人対策課の一人と俺に弾き飛ばされた魔人対策課の一人が、ここぞとばかりに反撃に出て、二人並んで俺に銃で集中砲火を浴びせている。

やがて、魔人対策課の二人は、装填されていた全ての銃弾を撃ち尽くす。



「何故、死なない?」

と魔人対策課の一人が呟いたが、聞きたいのは、こっちだった。

俺も俺が何故、死なないのか、わからなかった。

訓練された魔人対策課の二人が放った銃弾は、全弾命中している。

胸部、腹部、頭部、大腿、肩。適格な射撃で俺を殺しに来ている。

が、俺は、何故か倒れてもいない。

撃たれるままに撃たれ尽くしたが、何故か、立っていて、人体にめり込んだ銃弾は、ところてんを吐き出すようにヌルッと体外へ皮膚の空いた穴から排出された。その穴も銃弾を排出すると、一瞬で塞がる。

やたらと熱く痛かったが、その熱も痛みも今は、どこかへと消えた。

これが魔人細胞の力なのか?

俺は、戸惑い、ただ自分の肉体の再生能力に驚いていた。その間に魔人対策課の二人は、銃の装填を済ます。



「この化け物が!!」



魔人対策課の二人は、再び、俺に銃口を向けた。

俺は、どうしていいかわからず、ただ身構える。



「化学の力じゃ魔人は、倒せないわよ」



魔人対策課の二人の後ろから、長身のプロレスラーのような巨体で肌が日本人には、あまりない黒さの人物が二人に声を掛け、二人を制止する。

その人物は、自らの巨体には、不釣り合いなショートの黄色のミニスカドレスを着ていた。生地が足りずに腹筋を露わにしていて、パンツが見えてしまうので、ミニスカートの下にショートスパッツを着用している。盛り上がった太腿と二の腕が余計に大人が無理矢理、子供服を着ているような気持ち悪さを生み出している。

ぷくっと膨れた太い唇には、天ぷら油のようなルージュが引かれていた。

女、なのか?


「おぉ、破壊の魔法少女ピクシークラッシャーが、救援に駆けつけてくれたぞ!」

魔人対策課の二人は、顔をほころばせ、黄色のミニスカドレスの巨体の人物の後ろに下がる。

魔法少女?魔法少女は、15歳から18歳の女性に限られる。信じ難い事実だった。



「あとは、アチシに任せればいいワケ」

巨体の魔法少女は、ゆっくりとした足取りで指をポキパキ鳴らし、こちらに近づいて来る。

その余裕、風格は、まだ10代の少女には思えない程の迫力に満ちていた。



「時東!逃げろ!そいつは、ヤバい!!」

と和紗が叫ぶが、俺の意思に反して、12本の触手がピクシークラッシャーと呼ばれる魔法少女に襲いかかっていた。

それをピクシークラッシャーは、「ふん!!」と拳の一振りで粉微塵にして、弾き消し飛ばした。



「破壊魔法 粉骨砕身デストロイ

とピクシークラッシャーは、ニヤリと笑って、俺に向かって言った。

彼女の両拳には、メリケンサックのようなものが、装着されていた。

あれが、魔法少女の魔力を高めると噂に聞く魔法少女因子増幅機か、と俺は状況に追いつかない頭で考える。

その間に俺の消し飛んだ12本の触手は元の形に再生し、魔法少女に再び、襲いかかるが、ピクシークラッシャーは、意に介さず、「ふん!ふん!」と襲い来る触手を一本一本、粉砕する。



「何してんだ!正義の味方と戦うな!!」

和紗は、珍しくキレた口調で叫んだ。



「触手が勝手に動いて、俺には、どうにもできないんだって!!」



「自分の身体だろ!どうにかしろ!!」

和紗に言われて、俺は集中して、触手を制御しようとしたが、触手は暴走を続け、ピクシークラッシャーと戦い続ける。

破壊魔法で破壊された触手は瞬時に再生し、今度は、触手自身で直接、攻撃せず、壁や道路を剥がして投げたり、道路標識や車を掴んで投げたりして、ピクシークラッシャーに攻撃を加えている。

ピクシークラッシャーは、それを全て拳で受け、

粉骨砕身デストロイ

と言って、粉微塵に破壊する。

この状況から逃げ切るには、どうすればいいだろう?

俺は、あまり賢いとは言えない頭を働かせて、触手と魔法少女が戦う中、考えた。

触手の暴走を止め、逃げる為に俺にできること。

俺の能力。

と言えば、魔導ステップと魔導パワーぐらいか。

触手のことでわかってるのは、強力な吸盤の力、超再生能力。そして……

!!

俺は、閃きを得た。

上手くいくかどうかは、わからないが、とりあえず、やってみよう。

俺は、触手の動きを無視して、魔導パワーを込めた魔導ステップで思いきり、上へと跳躍した。

一気にマンション3階ぐらいの高さまで飛び上がる。

それを追って来るピクシークラッシャー。



「ふん。魔法少女の基本スペックが飛行魔法と知らないワケ?空中じゃ方向転換もできないっしょ!落下してくるところを狙って、アチシの粉骨砕身デストロイの餌食にするってワケ!」

ピクシークラッシャーは、飛行して俺の真下の空中で拳を構え、待ち構えた。

それを確認した俺は、触手を下に向け、ピクシークラッシャーに標準を合わせる。

触手の根元をほじほじと人間の方の手でくすぐった。

瞬間、大量のイカ墨がウォータースプラッシュのように飛び出す。

ピクシークラッシャーは、それをもろに顔面に受けてしまい、視界を奪われ、方向感覚を失い、墜落する。

全て上手くいったと安心し、ピクシークラッシャーの視界が塞がっているうちに逃げようと、触手で地面へと着地した俺に激痛が走る。

見ると、腹部の一部に穴が空き、ごっそりと失くなっている。

「畜生……っ!!内臓、持ってかれた……っ!!」

イカ墨を発射した瞬間、ピクシークラッシャーによる破壊魔法 粉骨砕身デストロイにやられたに違いなかった。



「ふん、どうやら、勝負あったワケね」

イカ墨まみれのピクシークラッシャーが、すでに立ち上がり、こちらをまっすぐに見すえている。

万事休すか……と俺が諦めかけた時、ピクシークラッシャーが、突然にばったりと倒れる。

見ると、倒れたピクシークラッシャーの後ろに和紗が立ち、注射器を持っていた。



「麻酔剤、使っちった。医師法違反、テヘッ♥」

警察の見てる前でなんてことを……と和紗の無計画な行動にあっけにとられるも、よく見ると、魔人対策課の二人も昏睡し、倒れていた。



よくも、まぁ三人も迷いなく……っていうか、なんで麻酔剤の入った注射器なんて持ち歩いているんだ?



俺は、和紗のポテンシャルが末恐ろしくなった。

和紗は、俺に近づき、「それ大丈夫なの?」と訊いてきた。

気づけば、俺の腹部は血だらけだが、大きく空いた穴の箇所が塞がっていた。

もう、痛くも気持ち悪くもない。

俺は、和紗に頼んで、触手に麻酔剤を打ってもらい、また触手が暴走して、魔法少女に襲いかかる前にその場から退散した。

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