ある二人のお話
それからの話をしよう。
……とはいっても、これから話すのはとても取り留めのないどこにでもあるようなお話。
そうだな、例えば俺の両親だって経験してきたであろうようなそんなあり触れた日常を、俺達は歩んできたのだから。
それが、俺にとっては幸せだった。
彼女もまた、そう思ってくれていたら嬉しかった。
勿論、俺達は何度も語り合ってお互いがお互いにどのような考えを持ち、どのような思いを秘めているのかをちゃんと確かめ合ってきた。
それで些細な事で怒鳴り合いになり、喧嘩して、泣き合って、そして仲直りした。
ああ、本当に。
俺達は長い年月の先にある二人組であるというのに、どうしようもない程に普通であった。
……その事が、とても俺にとっては嬉しかった。
10年。
俺は大人になり仕事をするようになった。
20年。
俺と彼女との間に子供が出来た。
30年。
卒業式の歌で彼女と一緒に涙を流した。
40年。
子供が彼氏を家に連れて来た。
50年。
……
「流石に、うん。私は幸せでしたよ?」
彼女のような長命種であろうとも、1000年という年月は長かった。
長すぎたと言っても良い。
彼女ほどの年月を生きて来た生物は恐らく他にいないだろうし、それでも生物として時間には勝つ事が出来ない。
病院で、まるで眠るようにして息を引き取った彼女の手を、俺はずっと握りしめる事しか出来なかった。
ああ、本当に。
俺は、これからどうやって生きていけば……
60年。
子供達の家で生活をするようになった。
70年。
杖を突きながらでも、歩く事が出来なくなった。
最近、忘れる事が多い。
そういえば、俺が愛していたあの子の名前はなんだったっけ……
恐ろしい。
時間の流れが恐ろしい。
大好きな、大切だった君の事。
その声、その姿、君の笑顔がどんどん色あせて行ってしまう。
神様は残酷だ。
それでも貴方が天国というものを作ってくれているのならば、俺はそこで再び君と出会えるのだろうか?
最近は、君の事を夢で見る事も減って来た。
……夢を見てきた。
その時、君は今も生きていて、一緒に年を重ねていて、玄関でぽつんと腰を掛けて空を見上げていた。
俺は、そんな彼女の事をじっと見つめていて、いつ話しかけて良いものかと悩み、そしてそうしているうちに目が覚める。
ああ、どうしてあの時話しかけられないのだろう。
君は、君は――
俺と一緒に生きて、幸せだったかい?
それから、10年の月日が経過した。
俺はあの時、彼女が眠っていた病室で横になっていた。
寂しくはない。
時折孫を連れて子供達がやってきてくれる。
それに、後もう少しすればきっと、彼女と一緒の場所に行く事が出来るのだ。
「テレサ」
1000年の恋。
1000年の想い。
俺は、君の気持ちに応えられただろうか?
ちゃんと、君を幸せに出来たのだろうか?
それでも、ああ。
孫達の笑顔を見ると少し思う。
彼女の意思、彼女の面影は今もこの世界に残っている。
これからも代々受け継がれ、薄れていき、それでも残っていく。
そうだと嬉しい。
彼女と俺の思い出は、きっとこの世に残り続ける。
そして――
▽
ねえ、君。
「君は、誰?」
あは、そっか。君は忘れちゃったんだね。
「いや、その」
ううん、何でもない。私は誰でもない、貴方とは初対面の筈だよ。
だけどね……うん、強いて言うのならば。
ずっと昔から、貴方の事を愛していました。
◆
少女は戸惑う少年の手を引いて走り出す。
時折振り返っては花のような笑顔を浮かべる。
そんな彼女の笑顔を見て、「俺」は、きっと――
魂の「幸い」を、得たのだ。
年上の美少女が1000年生きるタイプの人外だったんだが カラスバ @nodoguro
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