第13話

音が・・・


音がする。


さらさらと、又さらさらと。


振り向くと、そこには真っ暗な闇が広がっていた。


またもとに視線を戻しても、ついさっきまで目の前に広がっていた波のように広がっていた緑の丘は消えていて、俺は闇の中に立っていた。


だからまた俺は振り向いた。


だがそこには道があった。


道は真っ直ぐに伸びていて行きつく先は決まっているかのようだった。


見覚えのある風景だった。


その道なりには、桜にしてはさらに色の薄い花がハラハラと絶えず雪のように舞っていた。


その花の散る音が、俺の耳には絶えず雪が降る音のように聞こえてきていたのだった。


その時、俺は見たのだ。


真っ白な鳥が、その木の間を抜けて飛んでいくのを。


なぜそう思ったのかは分からない。だけどあの鳥は彼女の化身だ。きっとそうに違いない。





ガクンと音がして体が大きく揺れた。


電車が大きく揺れたのだ。


そして俺はしっかりと目を覚ましてしまった。


ドアが開く。人々が流れに乗って降りて行く。


大変だ。追いかけなくちゃ。あの鳥を。


早く降りないとドアが閉まってしまう。


そして俺は飛び降りてしまった。


俺の背後で電車のドアが閉まり、電車は行ってしまった。


だけど俺は右を見て左を見て、人の流れを見ながら、「ああ」と思いながら駅名をゆっくりと見て、そうしてようやく俺はやっと理解した。


電車の中で転寝のつもりで深く眠りすぎ、そして夢を見て、寝ぼけて一つ前の駅で飛び降りてしまった事を。





あまりに間抜けすぎて、俺は放心状態。ホームのベンチに座ると、なぜか物凄い睡魔に襲われて、荷物を抱え込みながら気絶するかのように眠り込んでしまった。


だけど時間にしたら10分も経っていなかったと思う。だけどそれで頭がすっきりしたように感じた。すると俺は恐ろしいことを思い出す。





次の駅は終点で、その駅の近くの喫茶店で、俺は仕事のことで人と待ち合わせをしていたのだった。


ちゃんと電車に乗っていても、実は待ち合わせの時間ギリギリだった。これで完全に遅刻になってしまって、相手をかなり待たせることになってしまった。


俺は頭の中で、何良い言い訳はないかと考えを巡らせていた。


腹痛で途中の駅で下車したとか・・・・


かっこ悪いが、それが妥当なんじゃないかな。


だけど、如何にもという感じで疑われそうだ。実際、嘘だし。


出掛けに母から電話があって・・・と言うのはもっとかっこ悪いな。いい大人なんだし。それは言い訳にはならないだろう。


親父が危篤とか・・・・。


いやいや、ごめん、父よ。


徐々に滅茶苦茶な発想になってきた。


やはり腹痛にするかと思っていた矢先、鞄の奥に沈み込んでいたスマホが鳴った。


ああ、向こうから掛かってきてしまった。


「スミマセン・・・レンラクガオクレテ」と言う予定で電話に出ると、電話に出た途端に、ものすごく大きな声で相手は怒鳴るように言った。


「おい!!!」と。





もう忘れてしまっているかもしれないが、今俺の耳は片方が聞こえず、もう片方の耳は異常に感度が良い。


その耳でこの怒鳴るような「おい!!!」は、かなりドキリとさせるものがあった。


言いたかった事が、まあ嘘だけれど、みんな吹っ飛ぶような勢いだったと言うかー。


だがちょっと遅れて、こんなに怒る人っているのか。


確かに5分10分の遅れではなかった。「ちょっと」の概念は人それぞれだから、一概には言えないが、それでもここまでとはと、俺はドキマギして、ついつい本当のことを言ってしまった。


「すみません。電車の中で転寝をして、夢を見て寝ぼけて一つ前の駅で降りてしまいました。今自分の間抜けぶりにオロオロしていたところです。」と。






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