第8話

雨が龍の歯を濡らす。


いったい何が起きると言うのだ。


それにこの龍の歯は、なんだかドンドン重くなる。


ズズズズ・・・・・


ズズズズ・・・・・・


なんだかこの流れは、ある種のホラーの定番なんじゃないかな。


俺はおそるおそる振り返ってみた。


そして俺は言葉を失った。





俺が歩いてきた後、つまり龍の歯を引きずってきた後に道が出来、そしてそこは緑の道になっていた。


来るときは荒れくれた土くれの丘だったのに。


そしてそこからどんどん緑が広がっていき、俺の後ろが草原になっていっている。


ぐんぐん伸びていく緑、どんどん広がっていく緑。


ハッと思って、しっかりと龍の歯をもう一度見てみたら、まるで水に溶けていくキャラメルのように小さくなっているじゃないか。


小さくなっていくのに重くなっていくと言うのはなぜだ。





その時ようやく俺は気がついたのだった。


そうか、そうだったのか。


重くなり動けなくなっていたのは、俺自身だったんだ。





俺はおそるおそる、本当は見たくないと言う気持ちを抑えながら自分の足を見てみた。


ああ、思った通りだった。


足は樹木のようになっていて、根が大地に伸び始めていた。


さっきまでは何でもなかった。確かに俺は普通の足で、そして歩いていたのだから。でも何でもないと言う方が、間違えていたのだ。その時、既に俺の足は普通ではなかったのだ。


雨が・・・・


雨が、その露骨なメタモルフォーゼの引き金だったのに違いない。





俺はリアル世界でも、察しが良い方だ。


ましてこれは俺の夢の中。そうか、そうだったのかと理解するのに時間など掛かろうはずもないことだった。





「あのジジイ!!!」


俺は叫んだ。


あの歳を取った村人は、さもふと思い出したように俺に告げていたけれど、最初から村人たちは全員分かっていたのだろう。





龍は俺たちが来る前から、歯を抜きたがっていたのだ。


村人たちは、その歯が欲しかった。


土くれを緑に変えることが出来る命のアイテム。


もしかしたら歯のみではなく、抜け落ちた鱗一枚にも力はあったかもしれない。


ただそれを触ったものの運命を知っているゆえに手を出せないでいたに違いない。





俺は更に考えたかった。


まだ考え、知りたいことがあったからだ。


だけど雨に濡れた体が、もうその時間はないと俺に告げた。


樹木化が足から腹へ、そして胸にと迫ってきたからだ。


俺は恐怖に飲み込まれ、叫びたい衝動にかられたが、既に声を失っていた。





そうだ。


これは夢なんだから目を覚ませば良いだけのことだ。


ようやく俺はそれに気がついた。


だけど、どうやって ?





俺は右を見て、そして左を見てみた。


扉なんて何処にもない。


出口なんて何処にもない。


どうやって目を覚ます ?





覚めない夢は現実と同じじゃないか。



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