第24話 新しい装備


 新しい補給物資。

 その中には多くの装備品各種も揃っていた。

 皆の分の防具や服、そして新しい武器なども。

 日が昇ってから、昨日貰った分と今日届いた分を一斉に開封してみた訳だが。

 誰しも興奮した様子で装備を手に取ったり、新しい防具を試着したりと賑わっている。

 だと言うのに。


「……うわぁ」


「駒使い、どうかしましたか?」


 ソーナに声を掛けられ、思わず作り笑いを浮かべて振り返った。


「いや、何でもないよソーナ。結構数は入っていたと思うが、全員分足りそうか?」


「はい、こちらは問題ありません。戦闘服もかなり良い物を頂いて来たみたいですね……本当に、何をしたんですか?」


「まぁ、色々あってな」


 それだけ答えて、再び視線を元の場所へと戻す。

 広間に設置された鏡。

 その中には、やけにゴツイジャケットを羽織っている俺の姿が。

 何というか、年甲斐にもなく派手な服を買ってしまった中年というか。

 無駄にデカイフードとか付いてるし、デカいベルトとか付いちゃってるし。

 異世界モノの主人公が着ているのなら分かる、白宮君とか似合いそうだ。

 でも俺みたいな特徴のないおじさんが着ると、見事に“着られている”感が凄いのだ。


「これは、着なきゃ駄目なのか?」


「前回の様な行動を考えると、着ておくべきかと思います」


 これが新しく支給された駒使いの専用装備……というか制服とでも言えば良いのか?

 防刃、防火、防寒などなど、結構金の掛かった代物らしい。

 黒いロングコート、と言う程長くは無い中途半端な裾。

 体に沿ってジャージによくある白のライン……と言った良いのか。

 どうにも此方に色々と魔術の付与が掛けられているらしく、覗き込んでみれば何やら文字がびっしり入っているのが分かる。

 まぁ、そんな事はどうでも良い。

 それよりも姿形が問題なのだ。

 コレを着て、その辺りを歩き回るのか?

 もう少し大人しいデザインにはならなかったのか。

 思い切り溜息を溢してから、フードを頭に被る。

 いっその事コレで顔を隠して、でかいジャケットが歩いてる様に見せようかな……なんて事を本気で悩み始めた瞬間。


『下手くそ、もっと上手くやれ』


 ふと、いつか見たアイツが笑った気がした。

 思わず目を見開いたが、眼の前の鏡に映っているのは俺の姿のみ。

 だからこそ、幻聴の類かと頭を振ってみたのだが。


『いつまでも逃げるな。そんなだから、全員死なせたんだろう?』


「……え?」


 急に脳裏に蘇って来る記憶。

 なんだ、なんだコレは?

 視界一面に地獄とも呼べる光景が広がっていた。

 赤黒い空に、そこら中に転がる死体。

 敵味方が入り混じり、もはや混沌としか呼べない事態。

 そんな中、俺の仲間達が戦っていた。

 彼等の髪色は、戦場で良く目立つ。

 だからこそ、皆にフードを被る様に指示を出していた筈なのだが……。


『報告せよ、じゃねぇんだよ! どうすんだコレ! おい、“駒使い”! 早く次の指示を出せ!』


 苛立ったケイの言葉が耳に残った。

 指示、そうだ指示を出さなければ。


『二時方向から魔術攻撃! 数が多い! このままじゃ不味いよ、手数でも武器の性能でも負けっ――』


 その言葉紡いだ瞬間、キリの胸を飛んで来た剣が貫いた。


『ソーナ! 伏せてっ!』


 まるで我が身を投げ出すかのように、ロナが相手の攻撃を自らで受けその場に倒れ伏した。

 なんだ、なんだこの記憶は。

 “いつ”の戦闘の記憶だ? こんな戦況に陥る事が、これから発生するとでも言うのか?

 あまりの光景に吐き気を催し、その場に膝をついてみれば。


『うそつき……』


 ソーナの言葉が、やけに耳に残った。

 この戦闘、俺達は“完全敗北”した。

 だからこそ、“次”は上手くやる。

 そう決意して俺は自らの頭に拳銃を押し当て、そして……。


「駒使い! 聞えますか!? 大丈夫ですか!?」


 肩を揺さぶられ、耳元で叫ぶソーナの声にハッと意識が戻って来た。

 別に気絶していた訳じゃない、いつも通り“記憶”が戻って来ただけだ。

 だというのに、気分は今まで以上に最悪だったが。


「大丈夫……平気だ、問題ない」


「とてもそうは見えません! シーナ! ルシア!」


 彼女が医療班の二人を呼びつければ、小柄な二人が駆けつけて来て俺の事を支え始める。

 大丈夫だ、“俺は”大丈夫なんだ。

 そんな事を思い浮かべていれば、鏡の中に居る俺がこちらを睨んでいた。

 服装も雰囲気も違う筈なのに、ソレはまるで“アイツ”の様な口調で。


『いつまでも逃げていると、また取りこぼすぞ? いい加減向き合え』


「……煩い」


「駒使い?」


 不思議そうに此方を覗き込んでくるソーナと医療班の二人。

 彼女達に「何でもない」と首を振ってから、一度諦めて横になろうかと判断したその時。


「旦那! ……って、どうした? 大丈夫か?」


 広間の扉を勢いよく開けたアイガスが、不思議そうに首を傾げているが。


「報告してくれ」


「あ、あぁ……えっと、例の女の子。目が覚めたぜ? 今色々と事情を聞いてる訳だが……かなり怯えててな。話を聞けない事は無いが、救出者兼今後の保護者に早めに会わせちまおうって話になってるんだが。来られるか?」


「問題ない、同行する」


 それだけ言って脚に力を入れ、シーナとルシアから離れたその瞬間。


「駒使い、駄目です」


 意外な事に、ソーナが俺のジャケットの裾を掴んでいた。

 その瞳はキッと此方を睨みながら唇を噛み、とても不機嫌そうに見えたが……何故だろう?

 まるで迷子になってしまった子供の様な、不安そうな表情にも見えてしまった。


「駄目です、駒使い。今の貴方に必要なのは休息です。ですから、どうか……」


 呟きながら、彼女は俯いてしまった。

 その向こうには、同じような表情を浮かべる皆の姿が。

 あぁ、これ程までに心配してもらえる存在になったのか。

 今更ながらそう感じる。

 しかし。


「大丈夫だ、ソーナ。一人預かって来るだけだ。その後ゆっくり休ませてもらうから、心配するな」


 そう言って彼女の掌をジャケットから外してみれば、ソーナの腕は力無く垂れ下がった。


「じゃぁ、行って来る」


 それだけ言って、皆に背を向けてみれば。


「嫌いです、貴方みたいな人は……」


 いつか聞いた様な彼女の言葉が、やけに耳に残るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る