寝すぎ52 みんなで和気あいあい! ――そしていまふたたび、譲れない理由のそのために。

 ポーーーン。


 陽の光がそそぐ下。


 天高く、屋上プールの機能で新たに形成された〈水泡球アクアボール〉が額の上に構えた、水着のハワードの無骨な二つの手のひらで打ち上げられる。


「ははっ……! いったい、いつぐらいぶりだろうね……! こうして屋上プールでみんなで一緒に遊ぶだなんて……! それもこれも、いまや家族同然になった君が娘たちを見守ってくれていたおかげだよ……! ありがとう……! ネルト……! 僕の親友……! そしてあらためて、配信冒険者デビュー成功おめでとう……! 配信へのコメントはしていたけど、ぜひこうして会って直接伝えたかったんだ……!」


 ポーーーン。


 落ちてきた水の球を今度はネルトが二つの手のひらでまた打ち上げる。


「へへっ……! それだけじゃねえとは思うけど、わざわざ伝えに帰って来てくれて、ありがとよ……! ハワード……! 家族同然とまで言ってくれて、うれしいぜ……! まあもっとも見守るどころか、むしろ俺のほうこそ、パフとスピーに助けてもらってばっかりだったけどな……!」


 どこかバチバチと対決バトルめいていたネルトと娘姉妹とだけのときとは違い、二人の両親ハワードとフィーリアが加わったいまは、みんなで〈水泡球〉を落とさないようにポーンポーンと優しくやりとりする和気あいあいとしたとても穏やかな時間が流れていた。


 そう。じっくりと水着姿を堪能する――目の保養的意味でも。


 ポーーぱふぷるんっ。


「あたしたちに助けてもらってばかりって、そ、そんなことないわよっ! オジサマっ! 家族同然のオジサマがいて、あたしたちはすっごく助かったし、何よりすっごくすっごく楽しいもの! いまもっ! ね! スピー!」


 ポーーすぴぷるるんっ。


「ん。パフねえの言うとおり。わたしたちはこの5日、家族同然で仲よく楽しく暮らしてきた。お風呂だって何度もいっしょに入った。だから、ハワぱぱやフィーままが心配することは何もない。……もちろん、こうして帰ってきてくれたことはうれしいけど」


 バシャシャシャシャッ!


 ――ちょっ!? おまっ!? いま、それ言っちゃうの!? 的なスピーリアの爆弾こんよく発言に、思わず固まる父ハワードと(別に何も悪いことはしてないけど)下手人ネルト、ついでに頬を赤らめた姉パフィールがガクンと水の中で体勢をくずしかける。


 ポーままぷるるるんっ。


「あらあら。パフとスピーったら、本当にネルトさんと仲よくなったのね。うふふ。そういうことなら、次は私たちもいっしょに入らせてもらおうかしら?」


「ふぃっ………!?」


 おっとりと頬に手をあて微笑むフィーリアを硬直したネルトが凝視する。


 その黒の水着ビキニにつつまれた豊満な女神のような肢体。そしていま、ネルトの脳裏によぎるのは、その奥の魅惑の――


 バシィッ!


「……っとぉっ! おいおい。こいつはどういうつもりだぁ? ハワード?」


 ――突如として死角から高速で襲いきた水の球を、視線を向けることなくネルトはやわらかく包みこむ魔力で手のひらを覆うことで受け止める。


「……ああ、すまない。つい、ね。いまは見てのとおり手袋が手元になかったものだから……!」


 そこまでを言い終えると、ハワードは投げ終えた体勢からゆらり、と背筋を伸ばす。


「驚きはしたけど、パフとスピーは暫定とは言え、もう大人だ……! だから僕は、本人の意思を尊重しようと思う……! けれど、ネルト……! いくら親友の君でも……! たとえフィーリア本人が許したとしても、愛する妻の秘め肌をさらすことなど、夫として、僕個人のわがままとして許容できない……! だから……!」


 そして、ビッ……! といつかのように、まっすぐにネルトにその指が突きつけられる。


「ネルト・グローアップ! 僕、ハワード・ピースフルはいまふたたび、君に決闘を申しこむ! そう……! 愛するフィーリアとの混浴を賭けて……!」


 青い瞳の中、静かに熱い闘志を燃やすハワード。


「……………マジで?」


 こうして、絶句するネルトをよそに、至極しょーもな……本人たちにとっては譲れない大切な理由による英雄冒険者相当同士の決闘がいまふたたび始まろうとしていた。

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