寝すぎ32 それは、無限の可能性とすべてを自在にし、創造する……かも?

「む、無限の可能性ってどういうことなんだ? それにX級って……?」


「言葉のとおりです。何を隠そう、その自在創造甲マテリアルは、超古代文明で使われていた高密度の流体金属という素材でできています。その特徴は、形態変形。硬軟自在にするそれは、使用者の魔力と想像また創造力次第では、まさに無限の可能性があると言えるでしょう。ゆえに、規格外の意味をこめてX級とされているのです」


「す、すげえ……!? すごすぎるだろ……!? それ……!?」


「ふーん? で、本当のところはどうなの?」


 鷹揚にうなずくその初老の執事の発言に興奮するネルトに、横合いからぱふっと姉パフィールの冷ややかとも言える視線と言葉が投げかけられる。


「は? 本当のところって、どういう意味だよ? パフ」


「ん。ネルおじ。よく考えてみて。いまの話どおりなら、それだけで確実にA級評価。どころか発展性次第では、いまだ世界に数点しか存在しないS級評価だって夢じゃない。なのに、現実はX級。ということは」


 姉の代わりにすぴっとそう答えてから、スピーリアはその青い瞳を初老の執事へと向ける。


「ははは。さすがにS-VIP会員のお二方のお目はごまかせませんな。ですが、パフィールさま。スピーリアさま。誤解しないでいただきたいのですが、いま私の申し上げたことに何一つ偽りはございません。……ですが、あくまでなのですよ」


「あー。要は理論上の仕様カタログスペックってことね?」


「はい。ご明察のとおりです。弊社の人間、配信冒険者。中にはそれなりに名の通った方もいらっしゃいましたが、せいぜい試してできたのは、形状をひとまわり大きくする、わずかに硬さを変えるといった微々たる変化のみ。結論として、おそらく絶大な魔力を保有し、かつその操作に相応の高レベルで長けている必要があるとされています。それこそ、かの名高き英雄冒険者のような……ですが、そのような傑物が野に在るはずも――」


「パフねえ。執事。あれ……!」


「は? 何よ。スピーったら、藪から、棒……に……!?」


「し、執事……? いえ。それは構いませんが、いったい何だ……とっ……!?」


「そうか〜。残念だな〜。これでも全然本来の性能じゃないのか〜。こんなにいろいろできるのに」


 スピーリアに促され、絶句しながら3人が見た先。


 そこでは、両手足に装着した自在創造甲をそれぞれバラバラの大きさに変えたり、一部分を伸ばしたり、カッチカチに硬くしたり、逆にグニャグニャやわもちにしてみたりと。残念そうにつぶやきながら、もはや遊んでいるかのように十全以上に使いこなすネルトの姿があった。


「は、はは……! これは、夢か……? いや、現実だ! ならば、ネルトさまっ!」


「うわっ!? な、何だ……?」


 しばし呆然としていた初老の執事だったが、やがてピシッと立ち直るとゆらりと近づき、興奮した様子で手をネルトの両肩に置く。

 

「その自在創造甲! ネルトさま! あなたに使っていただきたい! いえ! 選ばれた存在であるあなたが使うためにこそ、それはここにあったのです! まさに、この出会いは天啓! 運命に他ならない! もちろん、お代はいただきません! その代わり、当店に武器を買いに来られたということは、信じられないことですが、まだネルトさまは配信デビュー前とお見受けします! ならばぜひ、弊社にあなたとスポンサー契約を結ばせていただきたいっ!」


「「ええぇぇぇっ!?」」


「は、はぁっ……?」


 興奮気味にまくし立てる初老の執事のその提案に姉妹の驚きの声がぱふすぴっときれいにそろった。


 もっとも、当のネルトは。


 ――武器を買いに来ただけのはずなのに、スポンサー契約とか、いったい全体どうなってやがるんだぁ……?


 と、この事態のすごさも異常さも、いま自分が成し遂げた偉業の一つにすらも何一つ気がついてはいなかった。


 ……いまは、まだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る