寝すぎ27 盗難防止魔法と、姉妹のいたずら。(姉)……いま解除……たから!

「ふーん。なるほどな。登録制に管理責任、おまけに盗難防止魔法付与、か。武器一つ持つのに、ずいぶんややこしい手続きが必要になったんだなぁ。〈果ての先〉の時代ってやつは。ま、それだけ平和ってことか。で、いまから俺の武器を買いに行くわけだけど、そう言えば、パフとスピーの武器って、どんなのなんだ? 俺も少しだけつきあった今朝の訓練の様子からすると、ふたりとも剣……だよな? 戦いかたはだいぶ違ったけど」


 街の郊外。少し離れた場所で降り目的地までの道を三人で並んで歩く中、送迎のリムジンの中でまたも左右からあ〜んされながら姉妹に教えてもらった武器に関する知識を再確認しながら、冒険者服に着替えた真ん中のネルトがふと思い出したようにそうつぶやく。


 それを聞いた挟んでその左右を歩く白い制服を着たパフィールとスピーリアの娘姉妹ふたりは、しめし合わせたように数歩下がってすすす、とネルトから少しだけ距離をとった。


「いまの聞いた? スピー。オジサマったらやっぱりあたしたちのこと、パパやママから何も聞かされてないみたい。それどころか、いまだに何も知らないみたいだし……」


「ん。パフねえ。それはしかたない。ネルおじが起きてからまだ今日で三日め。それに、その間の時間ほとんどわたしたちといっしょにいたから」


 その妹の言葉に、少しだけ眉根を寄せていた姉パフィールの顔がパッとほころぶ。


「……そうね! ほとんどあたしたちと一緒だったものね! なら、仕方ないわね!」


「おーい? さっきから姉妹ふたりして、何の内緒話してんだぁ?」


「ふふっ。なんでもないわ。それより、オジサマ。あたしたちの武器、だったわよね? 気になるんなら行く前に見せてあげてもいいわよ? そうね。ちょっとそこの公園にでも寄っていきましょう」


 公園の噴水の前。並んでベンチに座るネルトと妹のスピーリアからパフィールは少し離れた位置に立つと――


「ふふん! よーく見なさい! オジサマ! これが冒険者学校卒業記念にパパから贈ってもらったあたしの愛剣・ほむらよ!」


 ――ヴンッと所有する個人収納空間ロッカーからその右手で取り出したのは、その瞳と同じ色の、全体が赤くまるで燃えるような美しい片刃の長剣。


 パフィールはさらにその場でヒュン、ヒュンと軽く振って美しい赤い軌跡を描いてみせる。


「おー! これがパフの……! すっーげえ綺麗だし、すっげえサマになってるな!」


「んふふ! ありがと! ……なんなら、オジサマもちょっと持ってみる? 大丈夫! 盗難防止魔法ならいま解除……たから!」


 何かいたずらを思いついたような、ぱふっとしたパフィールの笑み。だが、それには気づかずにネルトは剣に手を伸ばす。そして――


「おう! ありがとな! って、うおぉあっ!? ……こなくそっ!」


 ブォン……! ブォン……!


 ――ほんの一瞬、持った腕をガクンとさせながらも、すぐに持ち直して重々しい音をさせてその場で振りまわしはじめた。


「……おお、重っ!? おいおい、パフ!? こんな重い剣、あんな軽々振ってたってのか!? 言っちゃ悪ぃけど、あの力自慢のハワードの血をひいてるとはいえ、マジで人間離れしすぎだろ……!?」


「……あの、〈重力グラビティー〉の盗難防止魔法で本来の10倍の重さになってるのに、あたしの焔を平気でブォンブォン振りまわすオジサマにだけは、ぜーったい言われたくないわ……」


 驚きうろたえながらも10倍の重さを元気にブンブン振りまわすマジ人間離れしたネルトに、パフィールはジト目であきれ、ちょっと引き気味な赤い瞳をぱふっと向けるのだった。

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