夢いっぱい☆




 白い翼。

 これを作るの、結構簡単だったんだよね。

 というか、僕が今こうして髪を白銀にしたり、目の色を青くしたりっていうのも、実のところ魔道具は一切使っていなかったりするのだ。


 ――「翼の色を変えたい? 肉体端末なのだし自分の身体なのだから、意識すれば変えられるはずよ。領域内の自分を書き換えるようなイメージね。髪とか瞳とか、なんなら肌の色だって変えられるわよ?」という大先輩ラトからの助言。


 これのおかげで、なんなら今こうして翼を出している状態でも、意識すれば赤とか青とかに染めたりできるようになったのだ。

 どこまでできるのかとゲーミングカラーの翼とかやってみたけど、なんか趣味の悪いパリピみたいな感じだったからすぐ辞めた。


 こう、無駄に部屋の中にミラーボールとか設置しちゃったみたいな、そんな感じのアレだよ。

 つけてみたら眩しすぎてウザったくなっちゃいそうな、そういう感じ。

 やってみてから普通にげんなりしたもんね。


 で、僕は閃いた。

 色を変えたり操作できたりするのなら、そのノリで身長とか筋力量とか、ちょっとは変えたりできるんじゃないかなって。


 ……何故か、できなかったんだ……。


 ラトにも訊ねてみたけど、なんかシャボン玉の方見て「まあ……いずれできる日も来るでしょうから、今は諦めなさい」とか言われたし。


 やっぱり遅めの成長期を待つしかないのかもしれない。

 肉体端末でも成長するのかって聞いたら、ニグ様も「必要になったら成長できますよ」って言ってたし、多分その内に来るはずだよね。


 ともあれ、そんな僕の翼を唖然として見つめていた3人ではあったのだけれど、眼鏡美人さんがはっと我に返ったように口を開いた。



「……そういう事なら、提案なのだけれど。私たちもキミのお兄さんに用があるの。もし良かったら、探すために協力できないかしら?」



 ふむ……?

 そもそもなんで僕、探されてるんだろ?

 別に僕、無辜の民を虐殺したとかはしていないし、探される理由なくない?


 あ、もしかして学校辞めたから連れ戻すとか、そういう感じ?

 義務教育というか、僕らは学校に行かなくちゃいけないって事になってるから、それをサボるなんてとんでもない、みたいな?


 えー、もう面倒だから学校生活とかしたくないんだけど……。

 うん、断ろう。



「……お姉さんたちが奴らの仲間じゃないって事は、なんとなく分かりました。でも、兄を探している探索者ギルドと呼ばれる組織の目的も不明瞭である以上、協力はできません」


「探索者ギルドは『ダンジョンの魔王』と交渉の席につきたいと言っているの。あの組織はおかしな真似なんてしないでしょうし、協力してくれるならそんな真似はさせないわ」


「そう、ですか……。きっと、あなたはいい人なんでしょうね。でも、僕はそもそも他人を信用できません。それはきっと兄も一緒でしょう」


「――っ、どうして……?」


「どうして、ですか。僕らが受けてきた仕打ちは、あの日々は。人間によって与えられたものだったからですよ」


「……そう」



 多分きっと、だいたいそんな感じ!

 まあ僕にもどの研究所のどんな生活を指しているのか、さっぱり分からないけど。

 なんかこう、重く苦しい過去がありそうな感じだし、そんな感じのニュアンス。


 まあ、だからってここで肯定したからって、かえってどんな生活だったかとか、どこの研究所だったのかとか突っ込まれても困る。

 その辺はまだ決めてなかったからなぁ。


 とりあえず、深く追求されても困るしそっと目を逸らしておく。


 うーん、もう双子ムーブはできたし、そろそろお暇させてもらおうかな。

 なんかちょうどいい感じに絡んでくれたから双子ムーブしたけど、あんまり細かく設定練りきれてないっていうか、ね。


 あと、このムーブ用の装備拾いに行きたいし。



「――ちょっと訊きたいんだけど、いいかい?」


「……はい?」



 言葉を詰まらせているらしい眼鏡美人さんの代わりに、今度は若い男性が声をかけてきた。

 さっきまで黙っていたのに、なんだか少し訝しげな目を向けてきている……?


 なんだろう?

 単純に目が悪いとか?



「キミはお兄さんを探している、と言ったね。その人物は、確かに〝黒髪に赤が入り、キミと同じような顔をしていて黒い翼を使える〟という事でいいのかい?」


「そうですけど、それが何か?」


「それはおかしい」



 ……え?

 あれ、なんかおかしい事あったっけ?



「冴木、どういうこと?」


「丹波さん。確か『ダンジョンの魔王』は、養成校に潜伏していた事を明かした際、〝ダンジョンで死んでいた生徒の姿を借りていた〟と口にしたそうです。つまり、彼の兄とやらが『ダンジョンの魔王』であるのなら、彼は『ダンジョンの魔王』に似ているはずであって、〝『ダンジョンの魔王』に利用されていた彼方颯という少年〟に似ているはずがないのです。――ですが、こちらを」


「――ッ、全く同じ……!?」


「はい。これは彼方颯という少年の高等科入学時の写真データです。あの少年の顔は〝『ダンジョンの魔王』に利用されていた彼方颯という少年〟と同じ顔をしている。この矛盾が、どうにも不可解です」


「……そうね。そうなると、彼方颯少年の弟という可能性もあるのかしら……」


「いえ、彼方颯という少年は特殊な能力などがあるような情報はありません。どちらかと言えば埋没していたごく普通の生徒、という印象だったようです」


「……どういうこと?」



 ……ッスゥーー……。

 いやあ……そういえば僕、学校を出て行く時にそんな言葉を言っちゃったなぁ……。

 忘れてたなぁ。


 ……どうしようかな。

 もう面倒だから口止めというか、処分するか……。


 周囲に人の気配とかないし、今ならすぱっとやれちゃうし。


 いやいやいや、ニグ様にも「もうちょっと考えて行動しなさい」って言われてるし、なんかここ最近静かだけど、簡単に殺そうとするのはあまり良くないっぽいからなぁ……。


 ……よし、こうなったら……。

 僕の得意技、『なんとなくそれっぽい事を言っておくから勝手に考えてね』作戦でゴリ押ししようかな。

 


「えっと、何を言ってるのかいまいち分からないんですが、僕も兄も、それに研究所にいた他のみんな・・・・・も、同じ顔をしてました。同じ顔なんて珍しくないのでは?」


「え……?」


「な、にを……?」


「確かに、僕と兄は〝唯一の成功例・・・・・・〟とか言われていたので、ずっと研究所にいましたけれど、他のみんなはいつの間にか見かけなくなりました。多分、どこかにいると思います。なので、別に珍しくもないと思いますけど、何がおかしいんですか?」



 きょとん顔を徹底して、僕は小首を傾げてそう訊ねた。


 ほら、研究所の人工魔人設定だから。

 別に魔人じゃなくてもいいけど、 研究所でそんなん作るってなったら、やっぱクローン設定って外せなさそうじゃん?

 そういうところって、失敗作は廃棄処分みたいな、そういうダークな感じのノリはあるあるだよね!


 なんか海外で、実際に高位探索者のクローンを作っているみたいな実験が上手くいったとかいかなかったとか、そんなんあったらしいし。

 日本にもそういう謎の研究所とかありそうだよね、実際あるのかどうかは分からないけど。


 そして僕は何も知らない設定。

 つまり、常識を知らなくてもそれは設定通りだからね。


 初志貫徹、というヤツだね!


 ちょっとえぐい話になり始めてる気がしなくもないけど、押し通そう。

 なんか3人とも顔が蒼くなり始めたけど、多分気のせいでしょ。

 もしくは熱中症かな? 知らんけど。


 ともあれ、僕のムーブはこれでいく!



「――っ、まさか……!」


「……そんな、馬鹿な話が……!?」


「おいおい……、嘘だろ……?」



 うん、嘘だよ☆


 というか僕だって嫌だよ、僕と同じ顔の人間がいっぱいいるとか。

 もうそうなったらニグ様に絶対違う顔にしてもらうんだ。

 ついでに身長とかも伸ばしてもらうんだ。絶対に。


 まあそんな事はともかく、とりあえず、なんかそれっぽい感じで驚愕してくれてるし、いけるいける。



「僕らと同じ顔をしている仲間がいるなら、場所を教えてもらえませんか? 兄さんもきっと、探しているはずですから」


「え……?」


「ど、どういう事だい?」


「兄さんは僕らの仲間を探しに行くと言ってましたから。もしもこの国に僕らと同じ顔をしている仲間がいるなら、兄さんはきっとそこに現れると思いますし」



 ――――つまりこの世界には、僕がたくさんいる!


 ……なんかそれってどうなんだろうね。

 なんとなくこの世界が大変なことになりそうな気がしなくもなくもないけど。

 誰がオリジナルかで殺し合う的なサムシングが始まるのかな。


 あ、でも協力してくれるなら黒魔王ムーブと白勇者ムーブで対決場面とか作れちゃいそうだけど、そういうことできるかな?


 それはそれでちょっと面白い演出ができそうだぞ……?

 僕がいっぱい夢いっぱい……?



「……っ、つまり、彼方颯という少年も何らかの形で研究所を脱していた一人だった、と……?」


「そういう事か……っ! それで彼方颯が死んでいるのを確認して、その存在に成り代わっていた……!」


「てっきり『ダンジョンの魔王』が化けていたのかと思いきや、この子たちはクロ――」


「――冴木ッ!」


「っ、いえ、すみません。ですが、生体データが一緒だからこそ、それができてしまっていたという事か……!」



 お? なんだ?

 なんか納得してくれたっぽいぞ? だいじょぶそ?


 ふふん、作戦通り。

 これが『なんとなくそれっぽい事を言っておくから勝手に考えてね』作戦。

 なんか生体データどうとか、なんかよく分からないけど、なんとなく納得してるっぽいし、結構使えるな、これ。


 あー、でも一応あとで有識者ラトにも相談して詰めておかないとだね。

 ここ数日、ニグ様とか忙しいみたいで反応もあんまりないし、こういう時に相談できるのはラトぐらいだしね。


 でも、よくよく考えれば実際にそういう研究所あったりするのかな。

 なんか日本でもそんな研究所みたいな、実験みたいな話とかあったりしてもおかしくないぐらいには、まことしやかに囁かれてるもんね。


 ――はっ、隠された研究所巡りを白勇者でやって、そういう所の悲しき怪物みたいなのを探して仲間にしたら、秘密結社感マシマシなのでは……!?

 それにそれに、そういうトコの子を拾って居場所を与えてあげる系結社になって、「あそこは、僕を助けて、受け入れてくれた場所なんだ!」みたいな流れ、胸アツなのでは……!?


 うん、よし探そう。


 秘密結社の主要メンバーはそういう系で固めよう。

 そんな秘密結社のリーダーがミステリアスとか、もうこれ映画化待ったなしのレベルで胸アツだよね、知らんけど。



「……ともかく、皆さんは兄さんの居場所も知らないみたいですね。じゃあ、僕はこれで」


「――っ、待って!」



 制止の声を聞こうともせず、僕はその場を飛んで去っていく。

 さーて、隠れて一回〝銀の鍵〟で帰ったら、早速ラトに相談して協力してもらわなきゃ!






◆――――おまけ――――◆


ヨグ「( *◉ω◉)!?」

ニグ「え、どうし……なんですか、これ……」

ヨグ「ꉂꉂ( *ノ∀<)ノ゙ʬ」

ニグ「えぇ……? ちょっと慌ただしくして目を離しただけなのに、なんでこんな明後日の方向に……? え? さすが諧謔……? いえ、まあ、えーと、そうですけど……」

ヨグ「(๑•̀ㅂ•́)و✧」

ニグ「もっとやれ、じゃないですよっ!? あっさり殺さなくなったのはいいですけど、これじゃあかえって問題が大きく……!」




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