白勇者風ムーブ、始動




「――私の容姿があれば、私の容姿を目当てに近づいてくるような獣のような馬鹿と、そうじゃない芯のある者を篩にかけるのは容易いわ。だいたいあなた、邪眼の実験台にして荒くれ者とか使っちゃうでしょ。小馬鹿にされたら殺しそうだし。だからそっちは私がやるから、あなたは自分のやりたい事を優先なさいな」



 はい。

 城内散策を終えたあと、秘密結社の構成員の下っ端連中集めで早速動き出そうとしたのにそんな風に言われて、戦力外通告を受けた僕である。


 せっかく色々試しながら楽しもうと思っていたのに、まったく。

 遺憾の意を表明しようと思う。

 遺憾って、なんか文句あるアピールというかブーイング的なサムシングでしょ。知らんけど。


 まあいいけどね!

 だって今日の僕、白勇者風でダンジョン行っちゃうもんね!

 魔王モードとは全く違う、白銀の髪に透き通るような青い瞳だよ!


 白い軍服系装備……ラトに駄目出しされちゃった。

 ああいうの、僕の背丈じゃ似合わないんだってさ……。


 手足の長さが足りてないらしくて、なんかこう、子供が背伸びして無理して着ているというか、コスプレ感が酷いからやめなさいって言われた。

 解せぬ。


 でも自分でも着てみてから姿見で確認して、思ったんだ。

 あ、これ僕似合ってないな、って。


 魔道具装備だからサイズ的には自動的にフィットしてくれるから、丈が余ったり、ぶかぶかだったりはしないんだよ。

 でも、なんていうか軍服っぽい感じって、こう、ラトの言う通り手足の長さがないと、どうしてもちょっと……うん。


 ラトに言われた時は「お? 戦争か?」って思ったけど、実際自分でも納得しちゃったんだよね。


 そんな訳で、今日はこの服装に似合う装備拾いの旅に出ようと思う。


 服装について改めてラトとも相談したんだけど、魔王ムーブ用になっちゃった大鎌と襤褸外套じゃなくて剣とか刀を使うなら、ちょっとタイトな感じであれば黒でもいいんじゃないかとも言われたんだよね。


 悪くないけど、僕は、白系統のものがいい!

 だって白勇者というか、魔王ムーブと正反対にしたいんだもの!


 とりあえず今は、ただの私服の黒いスキニーパンツとスニーカー、黒いシャツに白いロング丈の半袖パーカーっていうラフな服装だ。

 そんな私服感全開な感じで、腰に白い鞘に入った刀を括り付けている。

 確かこの刀を拾ったのって、奈落の入口あたりだったかな。


 この5日間、領域の掌握修行に加えて、密かにこの刀を使ったポーズとか、抜刀と納刀だけは練習しておいたのだ。


 まあ、刃筋を立てるとか引いて斬るなんてできないし、ちょっと何言ってるのか分からないからやらない。

 刀で斬っている風に見せかけて魔法で斬って誤魔化すし。

 めっちゃ速く動かせばバレないでしょ、多分。

 きっと刀とか使ってる本職の人とかが見ても、視認できなければ一緒だよね!

 見た目だけ装備だからいいんだ、別に。


 それと、魔王ムーブとの違いはまだある。

 白勇者の時は、髪の後ろに尻尾みたいに腰上まである長い髪を一房、縛っているのだ。

 なんのためにそこだけ伸ばしてんのか分からないけど、あると揺らめいていてなんか心惹かれるアレだ。


 まあぶっちゃけこれ、翼と同じで〝呪い〟の塊なんだけどね。

 ただまあ触れても〝呪い〟は発動しないようにしているから、見た目も相まって地毛と変わらないでしょ。


 そんな訳で、早速どこに行くべきか考えがてら、掘り出し物的なサムシングとか面白いものとかないかなって暇潰しにビジネス街をうろうろ歩いていたんだけど……。



「――そこの少年、ちょっと待ってくれませんか!?」


「んぇ?」



 片方の手でラトが買ってきてくれたミルクアイスを頬張りながら歩いていたら、突然後ろから声をかけられて振り返る。


 そこには、なんか見覚えのあるような気がしなくもない眼鏡美人さんと、知らない若い男の人たちっていう3人組が立っていた。



「なんですか、お姉さん?」


「……やっぱり、似ている……」


「はい?」


「でも、髪の色も長さも全然違うのに、顔と背だけ……? ねえ、あなた。もしかして、『ダンジョンの魔王』だったりしないかしら?」



 ……おっとぉ……?

 配信の映像だと僕の顔がアップで映っていないみたいだから、髪や目の色が違えばなおさらに気付かれる可能性は低いはず。


 実際、僕の情報でアップにして解析してみた系のネット記事とかだと、僕の顔は分かりにくくて、それを基にイラストで描いてあるようなものも色々あるけれど、それも色々ありすぎてどれが信憑性あるものなのかなんて一般人には分からないはずだ。


 眼鏡美人お姉さんなこの人も、どちらかと言うと半信半疑というか、違うって判っているけれど一応訊いた、みたいな感じかな? 


 完全にバレてないっぽいし、せっかくだからここは、白勇者風ムーブ設定続行でいく!



「えっと……、すみません。『ダンジョンの魔王』? ってなんですか? ダンジョンに魔王なんて出たんですか?」


「……えっと、知らないのかしら?」


「え、すみません、ちょっと聞いたことがないです……。その魔王? って、そもそも人間なんですか? ダンジョンって、魔物のいるところですし……あっ、もしかして犯罪者とか?」



 きょとんとした顔で訊ねてみれば、眼鏡美人お姉さんも他の二人も困惑した様子で固まり、互いに顔を見合わせた。


 ――そう、これこそが僕の白勇者設定!

 そもそも世情に疎くて『ダンジョンの魔王』なんて存在すら知らない、という設定である!


 いやぁ、ちょっと白勇者設定について、有識者ラトにも監修してもらったんだけど、その時に言われたんだよね。


 とある研究施設から逃げ出したっていう設定でいるなら、白勇者はビジネス街に潜伏していて世情に疎いまま、兄である魔王ムーブ側を探して潜んでいる少年という設定にした方が、誤魔化しも徹底できるのでは、と。

 だから、受け答えはとことん「知らない」を突き通し、そもそも『ダンジョンの魔王』も知らない世間知らずをアピールしろ、と。


 いやあ、さすがラトだね。

 僕が考えつかない点とか、設定の甘さとかをしっかりと補強してくれるもんね。



「……本当に知らないみたいね。でも、顔立ちは瓜二つだし……」



 僕の顔を知ってる……?

 あれ、どっかで会った事あるんだっけ、この人。

 んー……、他人の顔なんていちいちしっかり記憶してないんだよね、僕。


 けど、魔王ムーブ側で会った事がある相手ならこっちのムーブが捗る!


 という事で、僕は後方に跳んで腰の刀の柄に手を沿えるように身構えた。

 腰だめに刀の鞘を左手で持ちつつ親指で鍔を押して鯉口をきり、右手は柄のちょっと上に触れない程度に浮かせる。


 ふふん、練習通り。

 ラトのスマホで動画まで撮って練習したから、ちゃんと使える風に見えるはず。



「――ッ!?」


「……僕の顔を知っているという事は、あなた達……、あの研究所の人間ですか?」



 僅かに殺気を飛ばしながら、咄嗟に身構える若い男性二人と眼鏡美人系なお姉さんを訝しげに見つめつつ、腰を落とす。



「待ってちょうだい! 研究所とやらが何かは分からないけれど、少なくともそんな機関との繋がりはないわ!」


「……信用できません。だいたい、ならば何故僕の顔を知っているような事を口にしたのですか?」


「それは……。お願い、説明させて――」


「――動かないでください。それ以上近づくというのなら、僕はあなた達を敵だと判断します」



 キリリとした表情で言い放ってみせれば、足を踏み出そうとしていた眼鏡美人さんが動きを止めた。

 そんな彼女に対して、若い男の一人が僕から目を離さないようにしながら、そっと耳打ちする。



「丹波さん。どうも俺には……」


「えぇ、私もそう思っていたわ。そもそも『ダンジョンの魔王』であるのなら、隠す理由がないわ。邪魔だと思うなら正面から打ち砕けばいいし、それができる実力を持っているもの。それに、あの刀……あんな武器を『ダンジョンの魔王』が使ったという情報はないもの。どうやら、あの子は『ダンジョンの魔王』とは別の人物みたいね……。ただ、そうだとしても顔が一緒というのは気になるわ。それに……」


「研究所、と言っていましたね……。もしかしたら、あの少年は『ダンジョンの魔王』の正体について、何か知っているのでは……?」


「……私もそう考えているわ」



 ふふふ、ふふふふふ……いいね!

 そうそう、そうだよ、踏み込んでおいで!

 今のところ僕は敵対するつもりなんてないからね!



「分かったわ。このままでいいから、少しだけ話を聞いてもらえるかしら?」


「……分かりました。ですが、今は信用していません。もしも何かおかしな真似をしたら……」


「安心してちょうだい。私たちに敵対する意思はないわ」



 眼鏡美人さんがすっと手をあげると同時に、同行していた二人の男性がその場に座り込み、武器を少し離れたところに置いてみせた。


 おぉ、なんだろう、交渉場面って感じですっごくいい。

 そんな事を考えている内に、お姉さんは自分たちが『大自然の雫』の人間であることや、『ダンジョンの魔王』という存在のこれまでの経緯をゆっくりと説明した。


 あー、そっかぁ。

 眼鏡美人さん、あのイキり男性さんの時にいた人かぁ。

 どうりで見覚えがあるような気がしなくもなかった訳だね。


 で、どうやら彼女たち、僕が学校を出て行った時の騒動を知っているらしい。



「――それで私たちは、探索者ギルドから依頼を受けて、この東京第4特区に来て『ダンジョンの魔王』を探していたの。そこで、『ダンジョンの魔王』に瓜二つのあなたを見つけて声をかけさせてもらった、という訳ね」


「……僕と瓜二つ……? あの、質問させていただいても?」


「えぇ、構わないわ」


「もしかしてその『ダンジョンの魔王』は、僕とは正反対の黒い髪に、赤が入ったような、そんな色の髪をしていませんか?」


「……それは……。あなたは何か思い当たる知り合いがいるのかしら?」



 おぉ、そこで即答しない辺り、何かを確信して僕に問いかけているっぽいぞ!?

 いいねいいね、盛り上がってきた!


 僕はここぞとばかりにキリっとした表情を浮かべて、改めて口を開いた。



「……僕は、兄を探しているんです」


「――っ、そのお兄さんが、まさか……」


「はい。僕とは真逆の色の髪、そして、先程の話に出てきた黒い翼――この能力もまた、僕と真逆のものを持っています」



 そこまで言って、僕は背中から白い翼を広げてファサァッとしてみせた。

 その光景に、眼鏡美人さんも、そして話を聞いていた若い二人も、大きく目を見開いたまま口を開けて固まっていた。


 ……うーん、リアクション満点だよ、キミたち!






◆――――おまけ――――◆


しそー「うわぁ……」

うおー「やりたい放題やってやがるな……」

おーが「見事に騙されてて草生える」

しそー「ラトとかいう女のせいで、行き当たりばったり感が減ってやがるな……」

うおー「……そうか? コイツ、ノリと勢いでいきなりコレやってんだぞ? この後どうするとか、何をどう持っていくとか考えてねェだろ」

おーが「おまいう」

しそー「それはそう」

うおー「」

しそー「あれ、でもコイツ、学校を離れるとき、ダンジョンで死んでいた彼方颯の姿を使ってるとか言ったよな? なのに同じ顔って、普通に考えたらおかしくねぇか?」

おーが「ぁ……」

うおー「……やっぱ何も考えてねぇだろ、コイツ!」

おーが「相変わらず行き当たりばったりかよwwwwらしいっちゃらしいけどww」

しそー「どうする気だ、アイツ……?」





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