第41話 屋敷での話し合い
彼ら彼女らはともかく、食事を済ませて食堂を出ると、クラージュの屋敷に向かうことにした。
しかしソフィアは、そうもいかないようだった。
「あの、」
「どうした? ソフィア」
「わたしは、明日までに終わらせないといけない薬草の調合とか、仕事が少し残っているので、ここで失礼します。ほんとはお話の続きが気になるんですけど」
「うむ、分かった。無理をすることはないからな。また明日にでも、話の結果を伝えるとしよう」
「そいつは、わてが請け負いやしょうか?」
「これはこれで、そのときに考えることにしよう」
そうしてソフィアとフェデルタは、ここでいったん彼らと別れることになり、クラージュたちは郊外にある彼女の屋敷へと向かった。
* * *
クラージュ・フォルティスの屋敷に着いて彼らを出迎えたのは、白髪で小柄な老齢な男性だった。
その身なりからしてただの使用人ではなく、執事であろうことが想像できた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。おっと、失礼いたしました。クラージュ様。お客様とご一緒でしたか」
「カッセ、大したことではないぞ」
「いずれにしましても、お客様ということはお食事の用意が必要ですね」
「気にするな、カッセ。食事ならひとまず済ませてきた。ひとまずはお茶だけでかまわない。あまり煩わせてもしょうがないだろう」
「左様でございますか?」
屋敷で勤める執事、カッセ・フェアヴァルターはクラージュの連れてきた客人をみまわした。
「それにしましても、ずいぶんと様々な顔ぶれでございますね」
「まあな、今日はいろいろとあったものだからな」
それから中へ入ると、玄関ホールのすぐ隣にある大広間へ案内された。
いかにも食事や来客の接待向けといった雰囲気の部屋で、テーブルの一番奥にクラージュが座った。
あとの各々は左右の席に着くことになった。
クラージュがいるほうからグノシー、ロクァースとジャスール、それに向かい合うようにしてチュダック、コルテシア、アシエが席に落ち着いた。
「さて、まるで会議みたいな格好だが、まあ、楽にしてくれ」
「こりゃ、連合軍と魔王軍との平和会談やな」
「おっとリベルタ、お前さんのそいつはジョークか? なかなかきついこと言うじゃないか」
「チュダック君、この程度は優しいほうだ。こやつの軽口には真剣に付き合わないほうがいい」
「そうなのか? まあ、軽口なら俺も大概かもしれないけどな」
それから慣れた手つきでマッチとタバコを取り出した。
「なあ、タバコ吸ってもいいか?」
「べつに私は構わないが、今ここに灰皿はないぞ」
「おっと、そいつは不便だな」
そのとき、カッセが部屋に入ってきた。
「失礼いたします。もしかするとご入用かと思いまして、灰皿をお持ちしました」
「こいつは驚いた。なんて気が利く執事なんだ」
「どうやら必要なお方がいらしたようですね」
「そうなんだ。ちょうど吸おうとしていたところなんだ」
チュダックは灰皿を受け取ると、早速タバコに火をつけた。
「あたし、タバコの匂い嫌いなのよね」
ジャスールがぼそりと愚痴をこぼした。
「別にいいだろ。一本だけだけだぜ、キツネの嬢ちゃん」
「あー! だからキツネじゃないってば。このブサイク犬頭!」
「な! ったく、俺だって犬じゃねえし!」
するとロクァースがサッと立ち上がった。
「ジャスールも、チュダックはんも、言い争いはあきまへん」
それからロクァースは窓際まで行き、窓を開けた。
「ここんところは風が心地よい季節やで、これでお相子にしてどうや?」
そしてロクァースが席に戻ると、クラージュは仕切り直すように咳払いしていった。
「では、チュダック君、」
「ティザーって呼んでも構わないぜ」
「まあ、とにかく。君の話を聞くとしよう。探し物とやらの詳しいことを」
「じゃあ、どこから話すとしようか」
「チュダックはん、本題を簡潔に話すんがよかでっしゃろ。まあ、お三方の冒険話も聞きとう思うけどな。そないは後回しでもいいでっしゃろ。な、クラージュはん」
「まずは例の探し物とやらについて、具体的なことを是非とも聞きたいところだ」
「じゃあ、そうだな」
すると今度はアシエが小声で口を挟んだ。
「ティザーさん、本当によろしいのでしょうか?」
「ああ、レザールはほんとに心配性だよな。あんただってもう義理も義務も果たす相手なんていないじゃないか。魔王さんは死んじまったし、南部連邦はあのザマで、要塞もこんなことになっちまって」
「なんなのこの人たち、話をもったいぶるわね」
「ジャスール、静かにせや」
「んでまあ、俺が探しているのは〈扉〉だ。一応は封印されているけどな」
「扉だと?」
「だがな、ただの扉じゃないぜ。俺が作り出した、とっておきのとんでもねぇ〈扉〉だ」
「ふむ……どんな用途に使うものなのだね?」
「異世界へ
「異世界……か。さっき君は、封印されたと言っていたが、その扉とやらは実際に機能する代物なのか? 異世界とは、私としてはいきなり言われたところで信じがたい」
すると先ほどまでの、けだるそうだったチュダックの顔が真剣なものに変わった。
「こうみえても、実験は成功してるんだ。あの苦労が報われた日のこととは、今でも鮮明に思い出せるぜ。一言では言い表せない。最終仕上げの大電流の衝撃で吹っ飛んだときはどうなるかと思ったが、ただの石板だったものの先に光が見えた! ありゃすげぇ体験だったぜ。まあ、要塞陥落で放棄せざるを得なかったけどな。そして……まあ、とにかく機能するものだし、表に施した封印を解けば使い物にもなるはずだ」
「ふむ。」クラージュはチュダックの喋りに少々圧倒された。
「それでひとまず、探しているものとやらの具体的なことは分かった。だが、どうしてだ? 今更になって探し出そうと考えているのは」
「それがちょっとばかしの問題をみつけちまったもんでね。理論的な部分で」
「問題? それは大事なことなのか?」
「もしも俺の計算に間違いがなければなのだが、あの〈扉〉をなんとか始末しないと、世界が崩壊しかねない」
世界の崩壊などと口にしながらも、チュダック自身の口調は、さも大したことではないかのようだった。
「異世界とこちらの世界との接点のせいで、空間に僅かな
クラージュたちは、話の内容がさっぱりといった感じでポカンとしていた。
「えーと」グノシーが口を開いた。「それは、世界の危機ってことなの?」
「ああ、そうだな。放っておくと、どうなるか分からんな」
「せやてチュダックはん、簡単に言いはるけど、世界が崩壊って、どういうことや? そりゃ、大ごとでっしゃろ?」
「まあ、そうだな」
チュダックの受け答えをみて、クラージュは苦笑した。
「にしても、世界の危機が本当だとして、それについては、ずいぶんと
「そうか? まあ、よく言われるぜ」
ちょうどこのタイミングで、カッセと使用人がやって来て、手分けしてお茶の準備をはじめた。
話しの小休止といった感じになったが、クラージュたちはまだ、話の内容半信半疑だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます