第8話 黒鉄奪還戦 各陣営の状況

「ははっ、雑魚ばっかりうじゃうじゃいやがんじゃねェか。……上等だァ」


 星雲はとても久しぶりに乗ったジェット機に、緊張と興奮で震える手を抑えながら、舌なめずりをした。

 夜猫から、出発したとの通話があったことに安心して、上空待機から迎撃に入ろうとしているところである。


「猫もすげぇなァ、この速さで列車の組み立て終わるんだもんなァ」


 つくづく味方で良かったわ、とぼやく星雲。

 ふいに足元のペダルを操作すると、エンジン音が響き、地上の廃墟の隙間をうろうろとしていた機械が一斉に星雲のほうを向く。それと同時に、長距離狙撃砲もちの機械がすぐさま攻撃を仕掛けてくるのを軽やかにかわして、銃撃音と共に数10体の機械が破損して宙を舞う。


「ははっ、絶好ォ調!」


 目は真剣ながらも楽しむ星雲。少々狂気が見え隠れするのは気のせいか。

 ……いや、楽しそうでなによりだよ。




「ふー、意外と上手だねー」

「逆に夜猫さんはどうして整備兵なのにそんな当たるんですか」


 列車組はいまどうしているかというと。

 目的地の廿楽に近づけば近づくほど、機械が増えてきて、長距離専門の海月だけでは対応が厳しくなり、夜猫と風歌も旧式の銃で列車の窓から狙撃を始めているところである。

 ずっと戦場にいるような夜猫たちにとって、戦闘能力は、非戦闘員だとしても求められる。生きるための必要条件は空気、水、食料、強さ、最近はもうそんなもんだ。


「私はほら、器用だから。整備してるのも私だし」

「えぇ……にしても命中率おかしいですよ」

「なんだったら、1丁ふー用に整備する?」

「でも、資源は大丈夫なんですか」

「資源がないより、ふーの身を確実に守れる方が先だよ」

「でも、」

「そもそも整備だけならあまり資源を使わないし、どうせそこら辺に転がってるし」


 と、電車の外をさす夜猫。

 その視線にそって風歌が視線を動かした瞬間に、


「あっ、ちょっと夜猫さん!」


 隙をぬって夜猫が、風歌の持っていた銃を奪い取った。

 そうして手元でかちゃかちゃとやると、すぐに風歌に返す。


「ちょっと、お二人さん、さぼんないでよー!」


 下でわちゃわちゃやっていることに気がついた海月から怒号が飛ぶ。

 そんな海月は遠距離射撃の限界をいくであろうスピードで敵機体を吹き飛ばしている海月だがその顔色は悪い。なぜなら海月は乗り物酔いが激しい。

 くらくらと酩酊している頭で、この射撃の命中精度を保つのだから、さすが今まで生きてきたというのか。


「ごめんごめん」

「すっすみません」


 十発中九発ぐらいを安定して当てる夜猫と、速度が遅めということはあるものの当たっていない弾の少ない風歌。射撃版人間じゃない海月。

 今のところ安全そうだが、彼らの心中はひどく焦っている。

 近接戦闘が得意である二人が今いないため、一定以上近づかれてしまえば戦況はかなり悪化するだろう。

 自称器用な夜猫は多少は戦えるものの、そうすると夜猫がかなり危ないことに変わりはない。


「ちょっと待って!」


 そんなとき海月が唐突に大声を上げた。


「猫、そのまま上あがるってできるー?」

「んぇ、屋根でも狙撃してろって?」

「そうそう、猫止めたらちょっとやばい」

「上怖いんだけど?」

「いいからきてよ」


 ちょっと焦ったような声になった海月に呼ばれ、風歌に下を任せ、渋々と上に上がってきた夜猫。

 当然列車は爆速で走っているわけで、外に出た瞬間の強い風に一瞬手をすべらせ、目を白黒とさせながらなんとか登ってきた夜猫の苦労はといえば、射撃に集中している海月には届いていなかった。

 夜猫の名誉のために一言、夜猫は決して高いところが駄目なわけではない。走行中の列車の上になんの支えもなく立つのが怖いのだ。当たり前のような話だが。


「ねぇ、夜猫。あそこのさ、ほとんど傾いてないビルについてる看板のロゴ見える? 結構遠いけど」

「うぅ、おぉ、ちょ、風怖い。どれ?」


 列車の移動からくる風だけではなく、自然にくる風も混ざっているため非常におびえる夜猫。そのため、海月のさす方向をうまく見れていない。


「あれ、あの、青っぽい看板」

「……あぁぅ、はいはいわかったかも」

「なんて書いてある」

「ミナテ電工……? 違うな、ミナモか」

「やっぱり……?」

「どうした」


 たちまちに海月の顔が曇る。ついで、憎々しいものを見るかのように瞳が剣呑に変わった。


「猫、星雲に連絡をとって。あのビルの中に黒が連れ去られたのか。――もしかしたら、あたいの家族が犯人かもしれない」

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