第22話好かれない動物好きは苦悩するのです

 この世界にも牛や豚といった動物は存在する、魔物も元は野生動物が突然変異をして生まれたものみたいだが・・・大きな違いは触媒結晶のベンタルミナを内包しているかどうかである。

 ユラとアイリと共に東大森林へと足を向けた所、小規模火災現場を目撃、水の槍で鎮火した時そこにいたのは・・・

「わあぁ、なんか可愛いのがいるー!」

 アイリはその可愛いもの・・・狐のように見える動物に少し興奮しているようだった。

「・・・かわいい・・・けど王国付近では見かけたことのない動物だね」

 王国以外には存在しているようだ、王都でもペットを見かけたこともあるがウィクトール家では飼っていなかった。

 母マリナが動物は好きだけど近づくと警戒されて懐かれなかった、なんて話も食卓で聞いたような気もする。

 恐らく龍人の血が影響してるのかもしれない、現に・・・

「グルルルルッ」

 私を凄く睨みつけているように感じる、さっきの水の槍大量照射か龍人の血のどれで刺激したかは分からないが。

「私は嫌われてるかもです・・・ちょっとショックなのです」

「・・・火を消した時の水の槍で攻撃されたと思ってるのかな?」

 悪気がなかったとはいえ怯えさせた・・・という風にも見えないので、単純に私を警戒しているのだろうか。

 少しマリナの気持ちがわかった気がする、猫とか普通に撫でてた事あるから余計悲しい。

「そうなんだー、なんかフィオナのあすとら何とかがどうっていってるんだけど、私にはわかんない」

「え」「・・・あすとら・・・?」

 アイリは急に何を・・・もしかして動物の言葉が分かるのか?

 この狐・・・のように見える生き物はアストラルの事を言ってるのだろうか、一応魔力を確認すると普通に魔力は纏っているようだった。

「・・・アイリさんは動物の声でも聞こえているの?」

「?動物は喋らないよ!・・・あれ、でもこの子から声が聞こえてる気がする!」

 アイリも何故声が聞こえるのか分からないようだ、私とユラにはただ唸っているようにしか感じられない。

 耳先と尻尾の先が赤い以外は白い狐だが、私達3人に対しての視線のそれは確かな知性を感じられる。

 特に物怖じせずアイリが近づくと肩に飛び乗り、落ち着いてる姿を見ると気のせいかもと思いたくなるが、私への警戒を解く様子はなかった・・・


 ギルドに狐の事は伏せて報告し、一度帰宅することにした。

 ユラとアイリの後ろに付いて歩きながら眺めていると、どうもユラには警戒していない事から狐が私に近づこうとしないのを余計に感じる。

 アイリが玄関の扉を開け帰宅を告げていた。

「おかえり~・・・あら?アイリ、その肩に乗せているのは・・・?」

「大森林で虫に集られてたみたいなの!飼っていい?」

 アイリは本当に直球である、というより飼う前提で連れてきたのかと驚いている。

 その狐はマリナを私程ではないようだが警戒している・・・母娘揃って動物に好かれないのはもはや遺伝なのではないかと思わざるを得ない・・・

「私はお世話できないわよ?・・・この子警戒してるみたいだし・・・」

 どこか寂しげに言う、猫や犬に懐かれない人の気持ちをこんな形で理解することになるのも複雑な気分だ。

「あ、特に食事が必要とかじゃないんだって!」

 食事が必要ではない?それって動物ではなく・・・普通に変わった柄の狐にしか見えない事から魔物の類でもないようだが。

 部屋に入るとミリーとリアが出迎える、とミリーがアイリの肩に乗っている狐に気がつくと。

「見慣れない動物ですわね、王国圏内に生息している動物でもないようですけれど・・・」

「そやつは霊狐じゃな、獣人族が使役しておる幻獣じゃが・・・お主ら大森林に行ってたのではなかったかの?」

 ことの経緯を2人に話すとミリーの表情はひきつっていた、虫型が多かったというのを想像したのだろう。

「私に懐いてくれたのかな、私の魔力の波長?が合うんだって・・・よく分からないけど!」

「え?その子言葉が話せるんですの・・・私(わたくし)には普通の鳴き声に聞こえますけれど」

 アイリには隠しスキルみたいのでもあるのだろうか?とリアの表情が目に入る。

「なるほど、獣人国におったがここまでやってきたと。霊狐自体は獣人国では認知されておるが・・・特定の人物にだけ話し掛ける個体は聞いたことないのう」

 リアでも知らない事があるのが少々以外だが、全能のアートマ体といえど全知とは違うということなのだろうか・・・表情的には何か知っているという感じがしなくもないが。

「・・・その霊狐?使役してるというのはどういうこと?」

「獣人と契約して魔力を共有することで契約者の魔力を高める、変わりに普段は魔力を糧として存在を保つ・・・みたいな感じじゃな」

 いわゆる共生関係じゃな、というと常時魔力の供給をしてもらい必要に応じて契約者がその力を使う・・・サブタンクみたいなものかと思案したら狐に睨まれた。

「もしかすると、勇者パーティーに協力していたと呼ばれている獣人の方もその霊狐の力を使っていたのかもしれませんわね」

 勇者パーティーに協力してくれる獣人族もいたらしい、そういえば聞いたことがあったようなないような。


 400年前の大戦時に勇者パーティーが分断する状況になったという話があり、その理由に2体の大型ゴーレムが関係している。

 旧魔王軍が造りだした強化特殊型と軍隊型らしいが、帝都に向けられた軍隊型に対して勇者パーティーに同行していた宮廷魔導師グスト・カーセルと獣人族セリア・ファシルの2人が対抗したとのことだった。

 以前私が倒したのは強化特殊型みたいだが、軍隊型だったらあの場で抑えるのは無理だったのかもしれない。

「も、もしかしてその霊狐はその時の個体ということです?」

 勇者が居たときの伝説の幻獣とかかっこいいじゃんと思っていたが・・・

「いや、違うみたいじゃの。こやつからコーザル領域の力を感じるのじゃ」

「え?じゃあコーザル体ということなのです?」

「2人して何の話をしておりますの・・・?こーざる?」

 とミリー達は高次領域の事は知らないのだった、とはいえ私も把握しかねているのだが・・・リアもそれとなく話を逸らす。

「特殊な個体ということじゃな、あくまで接続はできるといった感じじゃな」

 コーザル体ではないけどコーザル領域には接続できる・・・私と似たようなものだろうか?

「・・・言葉が分かるのもそういうこと?」

「うむ、霊狐は賢いとはいえ普通は喋りはせぬ。アイリがその霊狐に触れた時点で契約は完了してるようじゃしの」

 そうなの?とアイリが霊狐を抱えて話しかけている。 幻獣との契約とか主人公っぽくてかっこいいが残念ながら私は対象外だったらしい。

 霊狐はどうも私とリアに反応していることから、アストラル体とアートマ体に警戒してしまっているのだろう。

 しかし契約で繋がっているということは、アイリはもしかしてコーザル領域の力を使えるようになるということなのでは・・・?

「そうだ名前、んー・・・レイちゃんでどうかな?」

 本人は特に気にした様子もなく、霊狐・・・レイと名付けた狐を前にはしゃいでいるのであった。

 

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