第19話体験してないものは実感もないのです

 学院の授業も終わり、下層街で多めに買い込んだ串焼きの袋を杖に下げ、家に帰宅した。

 何故串焼きを買ってきたかといえば、今日の話もなんか長くなりそうな予感があったためだ・・・リアが来て2日程度だが数百年人と喋っていなかった反動なのであろうか。

 思いの外話し好きで昨日のミリーが加わった歴史話ともなると止まらないのだ、どうせなら何か摘みながらでも聞くとしよう・・・

 ただいまーと母に告げ部屋に行くと既に話は始まっていた。

「・・・ミリーさんが王女様とは知りませんでした・・・ミリア様と呼んだほうがよろしいですか?」

「ミリーで結構ですわ、それでパーティーはお願いしてよろしくて?」

 ユラの勧誘をしつつ、部屋に入ってきた私に軽く手を振る・・・王女の経緯は話した後のようだ。

「・・・王家からのお話を断ることはないでしょう、両親もお受けすると思います」

「リアさんの方はいかがかしら?フィオナの家にいるということで自由に動けると思いまして・・・同行をお願いしてもよろしくて?」

 リアも考える素振りを見せずよいぞと軽く話を受けた、龍人貴族のいるパーティーというのが果たしてこの世界ではどの程度目に付くかは考えないようにする。

「ただし妾は直接戦闘には参加せぬ、まあ余程のことがあれば死なないようにくらいは手を貸そうぞ」

 それで十分ですわ、リアが手を貸すというのがどういう状態かを考えるとほぼ世界の危機と同義ではあるのだが。

「昨日の事変の事もお聞きしたいところですけど、少し気になっていることがありますの」

 ミリーは改まってリアに向き直ると、ユラも一緒にリアの方に視線を合わせていた。

「リアさん、あなたは何者ですの?龍人であっても魔力は見えてもいいはずですのに・・・」

 あなたから魔力がまったく見えないんですの、と・・・言われるまで魔力の性質に関して盲点だったと気がついた。


 私が自分の魔力の『色』・・・性質が見えないのはアストラル体をコーザル領域が抑制している関係で、自身の魔力が覆い隠されている事で確認できないというのが個人的見解だ。

 反対にミリーやユラが私の魔力の性質が見えるのは、アストラル体やコーザル領域を認識できないことで肉体の魔力の部分が可視化されたことによるもの・・・私の魔力が増減していないように見えるのもコーザル領域の抑制部分が不可視状態なのだろう。

 リアに関してはこの世界の龍族ではないからコーザル領域の根源が生み出した魔力を持ってはいないこと、人族からではアートマ体など認識できない故に何も見えない状態である。

「ふむ、そういうことか。妾の魔力に関してはそうじゃな・・・・・・聞いても卒倒せぬと言えるなら話してもよいぞ」

 ミリーとユラが顔を合わせ頷くと、リアは自身の事を話すのだった・・・ミリー達が私に何も聞かないのは連れてきた事で察しているのだろうか。

「妾は古龍ヴェルガリアじゃ、俗に言う伝説の龍ということじゃな」

 流石の2人でも顔を強らばせている、大戦時の伝説的な存在が目の前にいるのだから無理もないだろう・・・私の場合は少し異なるが。

「・・・次元断裂を起こした・・・といってた気がしますが・・・そのような事ができる方が何故フィオナちゃんと?」

「そうですわね・・・龍人貴族を連れてきただけでもかなり衝撃でしたのよ・・・まさか本当に古龍様でしたなんて」

 ちょっと霊峰山行ってくるからの龍人連れで帰ってきた時点で、少し可能性を感じてはいたらしい。

「そうじゃな、大戦でも見たことがない魔導術を使っておるのが気になったとでも言っておくかの。あのレーザーブレードというのは実に珍しい」

 どうやら転生云々は誤魔化してくれたようだ、ある意味で嘘もついてはいないのだろう。

「・・・古龍様でも見たことがないというのも相当ですね・・・」

「妾の見立てでは、大型ゴーレムの時のあれならばアイギスも貫けるであろうからな」

「アイギスを貫けるですって・・・!あれはこの王国に伝わる神器ですのよ!?」

 そういえば以前神器が3つあったと聞いた事はあったが、どうやらアイギスはこのクロウディルにある神器のようだった。

「故に妾が招いたのじゃ、これで意外でも何でもないじゃろ?」

 それはそうですけれど・・・ミリーが呟く一方私自身が一番驚いているのではあるが、あの時使ったレーザーキャノンが神器を貫けるだなんて・・・どおりで何度使おうとしても簡単に使えないはずだ。

「あのぅ、因みにアイギスを使っていた人はどういう・・・」

「クロウディル王国騎士団の元団長、フェリアル・ロウウェンですわね」

 王立トルード剣術学院の卒業生でもあることから学院内に銅像が建てられてるとの事だ、過去の合同戦でのオーラを放つことができたと言われていた残りの1人はその人だったらしい。

「合同戦解散前に、プッド君に何故盾だけなのって聞いたときその名前を聞いた気がするです」

 絶対防御に憧れすぎて盾しか使わないというのも極端過ぎるというのが今の感想であった。


 串焼きを齧りながらミリー達の異世界話を聞いてるとふと懐かしい感覚にとらわれる、この感じはなんだったのか考えていると。

 これは前世で動画もしくは映画を見ている感覚に近い、どこか他人ごとのようで画面越しに見る世界・・・でも私は確かにこの世界にいるんだなと実感する。

 とは言ってもリアの話はこの世界の人達からしても他人ごとに聞こえそうではあるが、龍族や魔族や獣人族の寿命がどのくらいかは知らないが400年も前の事を実体験している種族がどの程度残っているのか。

「しかしリアさんが次元断裂を起こしたのが世界を守る為とは思いませんでしたわ・・・あれは突如発生した天変地異と言われてましたから」

「・・・剣術学院でもそう教わった・・・解明できないことだからそう記載されていたの・・・?」

 リアがいるから歴史がややこしくなったとも言えるしそうでもないとも・・・リアが居なかったら龍族と親睦を深めることもなく、そこを抜けても勇者や魔王との大戦でどっちにしろ滅んでいたのかもしれない。

 そう考えると随分とこの世界の人達は危ない橋を渡ったなと・・・今の状態はそういう意味でとても安定しているのだろう。

「まあ神殿で食っちゃ寝しておったせいで、久し振りに力を使ったら加減を誤ってはしまったがの、世界ごと真っ二つにならなかっただけよいじゃろ」

「・・・フィオナちゃんはよくこの方と2人だけで話せましたね・・・怖くなかったの?」

 なんと言えばよいのやら、それこそもう恐怖の次元ではなかったとしか言いようもない。

「なるようになれ、という感じなのです。次元から違うのをどうにかできるとは思わないのです」

「そういうものですの・・・?」

 自分ができる範囲ならどうにかできるかもしれないが、個人の力でどうにもならないこともある。

 1人の力で世界を相手するなど無謀以前の問題なのだと、ミリー達の話を聞いて改めて思うのであった。

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