第18話夢は夢のままがいいかもです



 リアも含め、ウィクトール家の食事を終え部屋に3人で戻る・・・3人というのは私とリア、アイリのことである。

 ミリーとユラは事前に断りを入れていたらしくそれぞれ帰っていった。

「たまには人族の食事もいいものじゃな、折角街に降りてきたのだから食べ歩きでもするかの」

 久しぶりの食事に御満悦のようだった、食べる必要性があるかはまた別の話なのだろう。

「帰ってきたら龍族の人がいてびっくりしたよ!フィオナいつ知り合いになったの?」

 有耶無耶にしたところをぶり返されて少し迷ったが、アイリはあまり深く考えない性格だから普通に答えることにしてみた。

「最近知り合ったのですよ、とても物知りなのです」

「アイリじゃったな、お主もなかなかに強い魔力をもっておるな」

 えへへ、と誉められて上機嫌になって一瞬で曖昧模糊と化す・・・父ノルスに似てあまり細かいことは考えないのは幸いだ。

「龍人様の事はなんて呼べばいいかな?」

 リアと呼ぶがよい、とアイリとも普通に話しているが割と・・・というかアイリは誰とでもこんな感じで目上の相手でも特に取り繕うこともない。

 リアも特に気にした様子もなく軽く雑談をした後。

「じゃあ私寝るね、おやすみー」

 アイリは学院を卒業して冒険者になり、明日は討伐依頼で朝が早いらしく、さっさとベッドに入っていった。


「相変わらず寝入るのが早いのです、もう寝息をたててるのです」

「ふむ、いいことではないか・・・しかし妾と2人の時にその喋り方はしなくてもよいのだぞ?」

 前世の記憶も読める以上、逆に違和感を感じるのかもしれないが・・・ジオでのミリーの反応を思い出すとどっちにしろ変わりはなさそうだ。

「それはジオの時にでもやるからいいのです・・・リアは人族の街に暮らしてた事があるのです?」

 霊峰山から出てくる前に帝都以来と言ってたことから帝国にいたのだろうか、そう思い尋ねてみることにした。

「400年前くらいかの、帝都に神殿があってな。そこでよく参拝されておったわ」

 現人神のような感じだろうか・・・架空の神ではなく、実際にそのような存在が街中に居るのも凄い世界ではあるが。

「先程の話で次元断裂はリアがやったと言ってましたが・・・もしかして勇者と魔王諸共消し飛ばしてしまったのですか・・・?」

 事変で分断されて冷戦状態になったという話は聞いたが、その後の勇者と魔王の姿を見たという話が歴史で出てきてはいないらしい・・・次元断裂に巻き込まれたのだろうということだそうだが。

「言っておくが妾が介入したのは最後だけじゃ、人族の歴史では妾も参戦してるみたいになっておるのじゃ」

「違ったのです?煮えを切らして次元断裂で消し飛ばしたとかじゃ・・・」

 失礼かもとは思ったがアートマ体の力なら寧ろこの世界ごと消し飛ばせただろうし・・・加減していた上での結果だろうか。

「逆じゃ、あやつらの全力衝突の余波でこの世界が消し飛ぶのを次元を裂いて防いでやったのじゃ・・・アイギスが抑えてなかったら妾も間に合わなかったやもしれぬ」

「アイギス・・・?こうなんか絶対防御の神器・・・みたいなのです?」

「そうじゃな、あれが抑えたから妾がひとまとめに次元の彼方へと力を受け流す程度で済んだと言えるの」

 神器という言葉に少し浮き足立ってしまう、やはり勇者が使っていたのだろうか・・・あやつらというのが勇者と魔王なら別の人物なのかもしれない。

「それで結局、勇者も魔王も死んじゃったのです?」

「勇者は死んだであろうな、神器である聖剣ディケオスィニがコーザル領域に接続していただけじゃからな」

 なるほど・・・これはあまり聞いてはいけなかった話なのかもしれなかった。


 リアは饒舌に過去話に興じており、止め所が無いまま進んでいく。

 せめてミリーが居る時にとも思ったが、高次領域の話が混じるともなればそれはそれで説明が難しくなりそうだ・・・

「魔王に関してはどうなのです?こう魔剣とか持ってて強そうなのですが」

「まあ魔王も2人おってな、旧魔王の方は死んでおる、後継者である新魔王は転生を果たしておるようじゃ」

 勇者は死んで魔王が転生してるとなると・・・もしかしてこの時代で大戦が起きるのでは、と思わず勘ぐってしまうな。

「魔王アーシュラルドが人族との戦いを避けようとしておったのじゃ、分断後に残った魔族というのがアーシュラルド率いる新魔王派と呼ばれておる」

 なるほど、人族とどうやって分かり合ったのかと思っていたが、争いを避けるという話を人族にして共生できたみたいだ。

「じゃあ転生していても人族を攻撃はしないということです?流石に戦争にはなってほしくはないのです」

「まあそれが災いして聖剣と魔剣、旧魔王の魔槍との全力衝突になったわけじゃが・・・魔槍ヴェルトールを暴走させ人族も魔族も一掃しようとした所で、聖剣と魔剣の力を放った結果・・・」

 妾が寧ろ世界を救ったのじゃ、ということだが・・・その反面、魔海も生まれたわけか。

「元に戻せなくもないが、あれで人族と魔族の争いが止まっておるのだから放置したのじゃ」

「そういう側面もあるとは思うですが・・・かといって抑止力になっているのを無くせば別の問題が発生すると」

 高次領域があろうと、この世界内の力の均衡はそれとはまた別・・・ということなのだろう。

 まだ話が続きそうだったのでいったん止めてもらい、今日は寝ることにする。

 そういえばリアに睡眠は必要なのだろうか?とも思ったが普通に眠りには入っていた。

 悠久の時をずっと起きていても退屈なのだろうか、人族には分からない感覚なのだろうと思い私も眠る。


 合同戦以降私は学院のマスコットみたいになっているのだが、前世での各地方の着ぐるみの人達もこんな感じだったのだろうかと思いつつ教室で弁当を食べていると。

「フィオナは卒業後はどうしますの?」

 ミリーにそう聞かれ改めて考える、特に進路が決まっているわけでもないけれど・・・無難に冒険者でいくのもいいかもしれない。

 肝心の魔導師も魔力上限値の壁で初級止まりなのが痛いところ、資格と技術はこの世界でも別らしい・・・魔力自体使えてもいないという現実からは目を背ける。

「魔導師冒険者でいくしかないのです、なんならミリーも一緒にどうです?」

 宮廷魔導師確定の人に聞くのも野暮だろうと思っていたら・・・意外な答えが返ってきた。

「最初からそのつもりですわ、宮廷魔導師になると王都から出にくくなりますもの」

「え?宮廷魔導師を断るつもりなのですか?」

 王女との二人旅もやぶさかではないけれど、国王様が許してくれるのだろうか・・・いやまあ最悪切り札もあるにはあるが。

「お父様を説得するのにリアさんの力を借りられれば、龍人貴族の方がついていれば安全と判断する事が狙い目ですわね」

 危ない危ない、私の切り札はリアが古龍ヴェルガリアなんですと言うとこだった・・・それで済むのであるなら問題を大きくする必要もないな。

「じゃあユラも誘うです?ミリーの王女護衛という形ならブライト家を説得できそうなのです」

 剣士貴族の騎士団や近衛騎士の進路も同時に確保ということであればいけるだろう。

「授業が終わったらユラと一緒にフィオナの家に行きますわ、作戦会議という程の事でもありませんけれど・・・」

 作戦会議関係無く私の部屋に集うのはいつもの事だが・・・というのは突っ込まないようにしたのであった。

 

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