第17話龍族の友人?ができました

 太陽も隠れ月が登り始めた暗い空を、杖に2人で乗って飛びながら霊峰山を見下ろす。

 この世界の神域にして足を踏み入れた者がいないとされるその山も、主が居なくなると普通の大山に戻るのだろうか。

「妾はどこにでも干渉はできるからの、神域としては残しておいたほうがよいじゃろう」

 まあどちらでもかまわんがの、と言うのは神域でなくなった場合は周囲の魔物に影響を与えるようになる、一応配慮はしてくれているようだ・・・神域の無い状態が本来は正常な気がしなくもないが。

「ちなみに翼を持つ龍なら飛べるのに私の杖に乗っているのは・・・?」

「なんとなくじゃ、わざわざ不自由に飛んでるのはどんな感じなのかとな」

 話を聞いた後だと私は飛ぶのに杖を使う必要がないのではないかと思わなくもないが、何年もやっていると癖みたいになる・・・というのは少し違うか。

「だってこっちのほうがかっこい・・・」

「巨体の龍が飛来するのと人が飛行するのとで印象も変わる、お主のそれはいわゆる風情というやつなのじゃろ?」

 そういうわけでもないのだが・・・まあミリーが見たような暴風を纏って飛んだりすると傍迷惑だろうし、ただ浮いてるだけだと不気味に感じられるだろう。

 この体なら一番それっぽいだろうと・・・普通に男の体だったら違う選択をしていたのかもしれないが。

「鎧を転送させたみたいに自分を転移なんてこともできるかもです?」

「アストラル体は抑制されているのだから付随している本体は無理であろうな、肉体外の物を意識で動かす事はお主がやってる通りじゃな」

 杖だけを手元に飛ばしてたり鎧を意識だけで呼んだりできていたのもそういうことだったらしい、肉体を意識だけでは浮かせれないし瞬間移動のようなことはできないと・・・そういうことか。

「王都に着いたようじゃな、人族の街も400年振りなのじゃ」

 さておき制服姿の龍人をどう説明するか頭を悩ませるのであった。


 暗くなった王都の街は各々の家の灯りと街灯、玄関先のランタンなどの淡い光で包まれている。

 前世の世界と違い日の出日の入りは規則的で朝も夜も時間が変わることがなく、時計の機能はより明確な役割を持つ。

 月が出始めた辺りで王都に向かったからまだ夜になってからさほど時間は経っておらず、街中に人影もちらほら・・・隣の龍人貴族に視線が向けられるものの・・・見慣れない服装に目を惹かれただけとも思える。

「ここが我が家です・・・といっても知ってるですね?」

「うむ、もちろん来るのは初めてじゃが、王都も含めての」

 家を見上げている白髪の女学生・・・に見えるがなんとも不思議な光景である。

「とは言ってもなんて紹介するです・・・?伝説の古龍です、というのは流石に」

「まあ妾はどちらでもいいが・・・信用する人族がいるとも思えんのう」

 この世界の常識でも冗談にしか捉えられないだろう・・・けども、そのままヴェルガリアと名乗れば人に聞かれた際に不届きもの扱いされる可能性がなきにしもあらず。

「呼び名はリアでどうです?毎回ヴェルガリアと言うのも面倒・・・なんでもないのです」

「リア・・・それで構わぬのじゃ、ただ略しただけにも感じるがのう」

 少なくともこの女性を古龍と認識する人もいないだろうと家の玄関を開ける、ミリーとユラの靴があるからまだ部屋にいるのだろう。

「ただいまなのです~」

「お邪魔するのじゃ」

 夕御飯の支度をしてたであろう母マリナが駆け寄ってくる。

「もうフィオナったら、友達ほったらかしにしてどこに・・・・・・」

 マリナが目を見開き腰に一瞬手を構えかけた、ある意味こんな反応をしたマリナは初めて見た気がする。

「そう身構えるでない、危害など加えんのじゃ。初めましてなのじゃ、妾はリアという」

 マリナは姿勢を正し挨拶を返す、私とリアを交互に視線が数度行き来すると。

「もしかして家の娘・・・何かやらかしてしまいましたか・・・・・・?」

 うーむ・・・私が何かした事前提なのが引っかかるが、そこまで家に迷惑かけた記憶は・・・恐らくないはず。

「生まれた時からやらかしているとも言えなくもないが、そういうのではない」

 ただの友人じゃ、龍人貴族といつ知り合ったのかというのは有耶無耶にする。


 二階にリアを案内し部屋に入るとミリーとユラが話を止めて振り返る。

「やっと帰ってきまし・・・?」

「・・・龍人貴族の方・・・?」

 急に飛び出したと思いきや、龍人を連れ帰宅したともなれば困惑するかと思っていたが・・・以外に冷静な反応の二人だった。

「・・・初めまして、ユラ・ブライトといいます・・・」

「ミリー・シュタッドと申しますわ・・・・・・王都の貴族の方ではないですのね?」

 ミリーは王家の人間で龍人貴族には面識もあるのだろうがユラの方は・・・ブライト家も貴族という事であれば対面する機会はあるかもしれないか。

「妾はリアじゃ、しばらくここで世話になるのじゃ」

 二階に上がる直前、マリナにリアを滞在させていいか聞いてみたが、普通に許可がでた・・・寝る場所がないからしばらく私のベッドに一緒でということになった。


 ミリーとリア2人の話をユラが同じテーブルの席で静聴、私はベッドの上から静観という感じで見ている。

「リアさんは歴史に詳しいですのね、若い龍人のように見えますけれど」

「龍人貴族でも比較的若年の者はそれなりに居るであろう?ミリーの方もよく勉強しておるのじゃ」

 勤勉じゃのう、と素直に感心しているようだった。

「まあ色々脚色も多いみたいじゃが、魔龍ヴェルトールと呼ばれておるようじゃが・・・むしろあやつの方が元々の白龍じゃな」

 黒い魔龍が実はヴェルガリアなのじゃ、と話がこと歴史に突き進んでしまい私とユラはついていけてない状態である。

「城の書物庫にある歴史書でもそのようなことは・・・1000年も前の話ですと正確な事が記載されてるとも限りませんのね」

 龍人の言う話だからか特に疑う様子もないみたいだ、しかし10歳の頃からとはいえミリーは歴史になると饒舌になる・・・と思ったが割といつもの事だったか。

「魔王の派閥が別れている部分はその通りではあるのう、人族の元で暮らす上で残された魔族達が話したようじゃな」

「次元断裂事変の後も色々あったみたいですわね・・・そもそも次元断裂事変がなぜ起きたのかも未だ不明ですもの」

 天変地異が起きたらしいとなっており、それがどう発生したのかは解明されてないとの事・・・現在が魔海になっているせいで詳しく調べるのが難しくなっているのも要因なのだろう。

「なんじゃそんなことか、あれはわ・・・古龍ヴェルガリアがやった事じゃな」

 原初の領域のアートマ体という話を聞いた際、脳裏にちらついてはいたのだが・・・唐突に現実を突きつけてきた古龍様なのであった。

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