第16話最古の龍
古龍ヴェルガリア・・・その昔人族と龍族が特に友好的ではなかった時代、龍族の頂点に位置する魔龍を打ち倒したとされる存在。
魔龍から守ってくれたその偉大な龍を崇め、龍族全体と人族の調和を保ったといわれる最古の龍。
恐らくここは山頂なのだろうか、周囲を見回すと木々はあるが、上を見上げると空が見えた。
そのまま振り返ると大きな泉があり、その隣には・・・・・・黒い大きな龍の姿があった。
「・・・黒くて・・・大きい・・・」
魔龍を倒したという事から、純白の神聖な姿を想像していたのだが、どちらかと言えばこっちの方が魔龍というイメージだ。
ということは別の個体なのだろうか、そう思案していた所・・・
「初めまして、じゃな・・・人間よ」
「どうもです・・・初めまして・・・なのです」
頭に響いた声と同じ声がこの龍族から放たれる、麓からこの頂上まで飛ばされたのか・・・?
「あ、私はフィオナ・ウィクトールと申します・・・では・・・」
「まあ待て、外界の時間からは切り離しておる。ゆっくり話でもしようではないか」
外界・・・とは?ここは霊峰山ではないのだろうか・・・
「妾の名はヴェルガリア、お主達が言う古龍と呼ばれておるな。少々脚色も過ぎるようだがの」
「古龍・・・実在してたのですね、そのぅ・・・帰ろうとした私を誘っていただいたのはどういう・・・?」
流石に歴史上に出てくるような存在相手に逆らうなんて大それたことはせず、成り行きに任せる。
しかし前世のゲームで見るのと実物は迫力が違う、四足歩行の2枚の大きな翼の巨体・・・私の背の低さを抜きにしても大きい。
「何、有り体に言えば暇であったのが1つ。お主の存在に興味があったのが1つ」
「400年は確実に生きてるとして・・・その間ずっとここに?」
龍族が長寿とは聞いていたが400年も軽く生きてるのは、娯楽がないたかだか数年で暇をもてましてた時の事を思うと・・・考えたくもないな。
「まあ正確には違うがの、最早些細なこと。千年も一万年も大差はない」
この世界はそんなに長く続いているのか、歴史をミリーに叩き込まれた時の記憶では地球ほどの年月は経ってないのかとも思ったが。
「そうさな・・・妾はこの世界で生まれた龍ではない、お主と同じく元は別の世界の存在じゃな」
なんかとんでもない事を言い出したのだった。
数多の世界を滅ぼした存在がいたという、それがこの古龍ヴェルガリアとのことだが最初は普通の龍族だったという。
龍族がまず普通とは言い難いのではあるがそれはどの種族も互いにそう思っているのかもしれない。
人族からすれば龍族も魔族も獣人も違う存在である、他の種族から見た場合もそれは同じなのだろう。
最初に争う切っ掛けは些細なことだったのかもしれない、次第にその波は波紋の如く広がり続けた。
まあ前世ではそもそも人同士で争ってるのだから、それ自体今に始まったことでもないか。
「この世界に辿り着くまでに何度滅ぼしたかわからんが、誓って此方から手を出した訳ではないのじゃ」
やり返したら力加減を間違え星が消えただけだというが、そんなにヤバいのかこの古龍・・・それはもはや龍とかの次元ではなく神の領域なのではないかと・・・
「妾はアートマ体、言うなれば原初の領域の高次元体じゃ、そしてこの世界の根源領域はコーザルという」
あーと?こーざがどうと少し理解に苦しむ、宇宙と星とかの違いだろうか。
「ちなみに私がその話を聞いて何か意味があるです?人族には荷が重すぎるのですが・・・」
まあ原初がどうとかは分からなくもないけれども、それだけ永く生きてたらそりゃあ暇でしょうがなさそうだが。
暇潰しでこの世界滅ぼされても困るので話に合わせる。
「高次領域の原初がアートマといい、そこから下の界層にコーザル、アストラルと続く」
「ふんふん・・・簡単な話、あなたに倒せないものなどないと?」
まあそうじゃなと軽く言う、この世界以前の問題だったか・・・人族的にはそもそもこの世界の龍族と魔族でも厳しいくらいだから元からお話にもならないとは思う。
「力の均衡みたいなのもあるです?例えば下の界層が上の界層に勝てるとか・・・」
「高次領域は上にいくほど下の界層に干渉ができる、反対に下からの界層は上の界層を干渉する以前に認識ができぬ」
勝ち目0っすね・・・その一番上の領域にいるなら天敵なんて存在しないだろう。
なるほど、本当に暇潰しなんだなと思っていると。
「そこに例外が存在した、それがお主じゃ」
「はぁ・・・確かに一度死んでこの世界で生まれはしましたが」
転生なんて本当にあるのかなんて誰もが思うが、私はここで生まれ変わった。
少なくとも、生きてるうちには理解などしようがないということなのだろう。
「お主が死んだ際アストラルの高次領域に至って霧散するはずだった魂が意志を持ったまま分離した、それがお主じゃな」
「なるほど、わからん。実感が無さ過ぎるのですが・・・」
でもそれを言うならこの古龍も同じということでは・・・元は普通の龍族とか言っていたが。
「まあ妾もアートマ体の実感はないといえばないがの、お主の場合は少し異なるのだ」
「はあ・・・ん?じゃあ領域的に私はアストラルとかいうやつなのですよね?だとすると・・・」
この世界の界層がコーザル領域なら私は干渉できないのでは?
というよりこの世界の人達は古龍曰わく、コーザル体って事になるのだろうか・・・?
「世界の概念と領域の根源は別じゃ、世界が物質界なだけでどの領域にも生物は存在する」
「?魂とその領域の根源は別ということです?コーザル領域で生まれた魂が後のコーザル体ではないのです?」
「物質界で発生した魂の領域は最初の界層であり故に肉体と呼ぶ、その肉体が朽ちて魂は霧散する」
「死んでからが高次領域に至るかどうかと言うことです?でも魂が霧散するのなら・・・」
そこで少しわかった気がした・・・霧散していない私の魂はアストラル体だという事・・・?なのだろうがそれがなんだというのか。
「簡単な話、下の界層が上の界層に入り込んだということじゃ。コーザル領域に干渉するには妾と同じアートマ体かコーザル体である必要があるのじゃ」
じゃあ私はアートマ体もしくはコーザル体となるはずだが、古龍は私をアストラル体だという。
本来混ざらない領域に別の領域が干渉したということなのだろうか・・・そういえば魔力はどういった力なのだろう?
「コーザル領域から発生したその世界のエネルギー領域の1つなのだろう、妾もこの世界の魔力など使えんしの」
「こう神様が創り出した力とか?と言っても、神様がもはやなんなのかわからなくなってきたのですが・・・」
原初の領域であるアートマ体の古龍が神になるように思えるのだが、この世界に来たと言って創ったとは言っていない。
「コーザル領域にいるコーザル体がこの世界でいう神に近いと言えるやもな、言わば下の界層であるお主はここに存在するだけで喧嘩を売っているのじゃ」
神様に転生させてもらうんじゃなく転生したから神様に喧嘩を売るとか・・・私の意志ではないのですが・・・
「でもそれなら私を消せば事足りるのでは?話を聞く限りアストラルの上の界層なら簡単に干渉できるですよね?」
「妾がいるからコーザル体が近づかんのだろう、変わりに領域がお主に干渉しておる。故にその肉体の魔力は抑制されて使えないのだろう」
「?この世界で産まれた体の力なのに干渉されてるのですか?」
「アストラル体に干渉してる事で同化してる肉体の魔力もついでに抑制されたのだろう、逆にその影響で体の死も免れたみたいだがの」
体の死?肉体に高次領域体が入ると体が耐えられないとか・・・?
「お主のアストラル体の影響がなくともその体は龍族の血と魔力の性質で自壊していたということじゃ、アストラル体の領域が魔力の性質を抑制、コーザル領域がアストラル体を抑制してる事で体の負荷が相殺されてると言ったところじゃ」
それに・・・と古龍は言葉を続ける。
「アストラル領域の存在であるお主がこの世界の魔力の性質を理解したことで、その力の根源であるコーザル領域を認識してしまった、言ったじゃろう?」
下の界層は上の界層を認識できない・・・この世界の魔力の概念を視る際にその魔力を生んだ根源のコーザル領域を一緒に視たと。
見えないはずの界層領域を認識したことでアストラル体に異変が起き、その魔力を通して高次領域の力を引き出せるようになった・・・結果としてコーザル領域のこの世界で発生する様々な現象を直接コーザル領域根源の力で再現していたという。
「要はアストラル体のままコーザル体の力が使えるようになったということじゃの、数多の世界を見てきたがお主みたいなのは初めてじゃな」
だからずっとお主を眺めさせてもらったのじゃ、と・・・唯一気掛かりだったこの子に宿るはずだった魂に申し訳なく思っていたが、俺がいたから魂が生まれないにも関わらず・・・いなかったら死んでいたなんて。
どうかアートマに至っててほしいと初めて祈りを捧げた。
話していたら思っていたより時間が過ぎていた、つい熱中してしまったようだ。
この話を聞いたことで私の魔力の使い方が他の人達と違っていたこともわかった、私が使ってたのはそもそもが魔力ではなかったと・・・・・・あれ、おかしいな・・・魔導師を目指してるのにこの世界の魔力が抑制されて使えないとか。 性質、魔力を生んだ根源の領域に接続して無理矢理それっぽく使っていたのはなんというか・・・
「じゃあこの世界のものは何でも直接生み出せるのです?」
スマホとかゲーム機とかの物質もいけるのかも・・・
「お主のイメージできるものは生み出せるだろうが、複雑になればなるほどそれを創造する肉体に負荷がかかるだろうの」
構造を理解していないと駄目ということらしい、スマホとかどうやってできてるのかさっぱりだから無理と・・・世知辛い。
「現象化も見れば出せるのもその為だったのですね、ブレードも構造とか知らないけど見てきた印象のみで発現してると・・・」
そういえば合同戦でミリーに叩き落とされた時も風で飛ぶではなく減速をイメージしてたから杖が浮いていたと、じゃあ飛ぶことをイメージするだけでいいのか・・・確かに杖だけを手元まで飛ばせていた気がするな。
「あれはなかなかよかったの、不自由な戦闘など妾には経験ないから娯楽として見れたのじゃ」
全部見られてるなら前置きはいらなさそうだった、幼女をずっと眺めていた古龍・・・と気になっていることを聞いてみる。
「妾、という一人称ということはメスなのです?」
まあ神の領域の存在に性別も何もないのかもしれないが、アートマ体に至る前のことなら別だろうと。
「元はそうじゃな、このような黒龍の姿でなくともよかったのではあるが、最初が肝心じゃからな」
雰囲気はでたじゃろ?と可愛く言ったつもりだろうが存在は全然可愛くない・・・気分次第で世界壊せるのはちょっと・・・
「だからお主の記憶にあるイメージも再現はできるのじゃ」
古龍の体が発光し小さくなっていき、人の姿が現れる。
「どうじゃ、お主の記憶の美少女?といった感じじゃろ?」
この世界でブレザーの女子制服を見ることになろうとは、こう・・・性癖を暴露されてるようで少々居たたまれない。
白髪のロングヘアー、赤い瞳、巨乳ですらっとした体型。まあこのビジュアルが嫌いという男もあまりいないだろう。
貧乳がいい人もいるのだろうが、私の周りには巨乳とまではいってないからバランスは取れるだろう・・・何の話だ・・・。
「でも角は隠せないのですね」
「いや、隠せるが龍人貴族がおるからの。このほうが喧嘩を売られにくいじゃろ?」
まあ確かに、美少女だろうが龍人相手にそうそうちょっかいはかけないだろう。
「ん?なんか人前に出るみたいに聞こえるですよ?」
「今日はなかなかに満足な1日であった、400年以来に話に興が乗ったのでな。またしばらく会わないのは反動で退屈が押し寄せてきそうじゃ」
なのでお主についていくと、ある意味で最強の切り札が私の家に居着いてしまうのであった。
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