一章 魔法都市サザエで魔力を宿す

    三話 サギフエとライノに出会う

「盗むか……今日は四月一日……十八歳の誕生日だからな……」


 どこかにいるおじさん声の者はそう呟いた。



 ウニ神殿から外に出た海・爽・颯・潮・凪の五人が遠くに見えるサンゴ町という名の町に向かって歩き始めた頃──


「確か400m先って言ってたな……よし! 休憩のベンチが道中にあったとしても走り続けてやる!」


 爽はそう意気込んで他の四人を置いて行くように走り始めた。


「おい待て! どこへ行く!」


 潮は大きな声でそう言ったが、爽は走るスピードを緩めることなく町に向かっていった。


「五人揃って行かなくていいはず。俺は団体行動が苦手だから俺も一人で行動する」


 海は三人にそう告げて町に向かって走り始めた。


「一人で大丈夫なのかーー!!?」


 颯は走り行く二人に向かってそう叫ぶも、二人共に振り返ることはなかった。


「一人で行動とか凄い勇気だ……」


 凪は海と爽の行動を見ながらそう思った。


「……私は一緒にいるぞ!」


「さすが颯……優しい……」


「颯、お前はとびきり優しいのだったな」


 数十分経って颯と潮と凪の三人はサンゴ町に入り、共に町中を歩いていた。


「転生者に色々案内してくれるボランティア? の人がいる所を探せばいのか?」


「そうか! じゃあこの町に住んでいる人に聞いてみよう!」


 颯・潮・凪の三人は一人のおじいさんの元に近付いて歩き始めた。


「変態!!」


 突然、そう叫ぶ女の子の声が付近から響いた。


「なんだ? トラブルか!?」


 潮はそう言って周りを見渡し始めた。


「あっちの方向だ!!」


 潮は女の子の悲鳴が聞こえたと言う方向を指差した。


「行ってみよう!」


 サンゴ町のどこかで茶髪で帽子を被って身長が150cm程の女の子がと揉めている様子にあった。


「この人がなんかイヤらしい目で私のことを見てきたのよ!」


 爽と揉めている女の子が近くにいるおまわりさんの格好をしている一人の男に向かってそう主張した。


「すみません……美しかったもので……」


「もぅ〜!」


 爽と女の子が揉めている場に一人の身長180m程で執事が着る様な服を着ている男が走って来てその場に現れた。


「すみません……お嬢様はこの通り美し過ぎて当然のことなので……どうかこの男を許してやって下さい……」


 執事の格好の男はそう言って爽と揉めている女の子と話し始めた。その数分後に執事の格好の男が爽と揉めている女の子と話を終えると、おまわりさんの格好の者にも話し始めた。さらに数分後、話し終えたおまわりさんの格好の者はその場から去っていった。


「さぁオイカワ! あの人をやっちゃって!」


 爽と揉めている女の子は執事の格好をした男に向かってオイカワと呼び、右手で爽を指差した。


「サギフエ様……この場は平和に終わりましたので乱暴はしません。サギフエ様は美しいです。なのでこれからも男達のいやらしい目は我慢してください」


「でもこの人は明らかに変態丸出し、ド変態だったわよ!」


 サギフエと呼ばれた女の子はそう言いながら爽を指差した。


「ごめんなさいぃ……もし宜しければ俺とお付き合いしてくださいぃ……!!」


「なんでよ!? だめに決まってるじゃない!」


「あーー!! 異世界最初の失恋ん゙ん゙ん゙ーー!!」


「変ねあなた……ってあなた異世界から来たの……?」


「はい……」


「それなら早く言いなさいよ……あっちの三人も?」


 サギフエは爽の後ろを人差し指で三回指差した。爽の背後には颯・潮・凪の三人がいた。


「再会はや……」


 凪は心の中でボソッとそうツッコんだ。


「くそぉ……見られてたか……異世界なら簡単に彼女出来ると思っていたのにぃ〜!」


「早速失恋でもしたか」


「あの! 私達はこの世界に来たばかりなんです! この世界に来たばかりの人に色々教えてくれるボランティアの方がいると聞いて、その方にはどうやったら会えますか!」


「あなた達……名前は?」


「あぁ、我は潮だ」


「私は颯です!」


「僕は凪」


「あ……爽です」


 爽・颯・潮・凪の四人は名乗った。


「やっぱり変な名前ね。異世界から来た人は」


「この世界は名前が生き物だから……逆に僕達が変なんだろうね……」


「あなた達、私の家に少し住んでいきなさい。私達こそこの世界に来たばかりの転生者にサービスをする人だから」


「えぇーー!! あんた等がそうなのか!?」


 潮は驚きの表情でそう叫びながらサギフエとオイカワを指差した。


「正確には転移だけどね……」


「お邪魔して良いのですか!?」


「いいわよ。来なさい」


「俺も良いですか……?」


 落ち込み気味の爽はサギフエにそう聞いた。


「えぇ、あなたもおもてなしされると良いわ」


「やったー!! ありがとうございます!!」


 爽は両手を上げて嬉しそうにそう言った。


「一人昨日から住まわせている男がいるけど仲良くお願いね」


「え?」


「昨日から我達とは別の転生者を住まわせているのか」


「そうよ。その男も変わった名前だったわ。確か名前は……ライノね。会ったら喧嘩なくお願い」


 爽・颯・潮・凪の四人はサギフエに案内され、サギフエが住むという家の門の前に来た。その家は付近に並ぶ民家と比べてかなり大きめだった。


「家がかなり大きめだな……!」


 そう言った潮はサギフエの家を羨ましそうに見ている顔だった。


「私は町長の娘なのよ」


「サギフエ……町長の娘なのか!?」


「そうよ。だから早く入って」


 サギフエは爽・颯・潮・凪の背中を押すように掌で叩いた。


「そんなに家に入れたいのか……?」


 凪はサギフエを怪しむ様に見ながらそう思った。


「女の子が住む家……緊張してきた……」


 そう思う爽は鼻息粗めだった。


 その後、爽達はサギフエの案内で広いテーブル一台とたくさんイスがある部屋に入り、爽達四人はテーブルの前のイスに座っていった。


「すごいな……! 防犯カメラとかが何台もあるし……」


 潮は天井に付けられたいくつもの防犯カメラを何度も見ながらそう言った。


「私の家はね。凄くセキュリティが固いの」


「さすが町長の家……」


 数十分後、器に乗ったいくつかの食べ物がオイカワの手によって広いテーブルに置かれていった。


「執事達が作った料理よ。食べなさい」


 潮の隣の席に座るサギフエは周りの人達にそう指示した。


「いいんですか!? 私達お金を持っていなんですが……!」


「と言うかこの世界のお金の単位なんだ!?」


「それはマリンよ。あとさっきも言ったでしょう。私は転生者を案内するサービスをする人よ。遠慮はいらないわ」


「サギフエは優しいな!」


「優しいと言うかなんというか……キャラに似合わず親切過ぎる……本当に怪しまなくていいのか……?」


「何を怪しんだ目をしてる凪!」


 潮は凪にそう指摘した。


「……別に」


「私はね、人の食事シーンを見ているのが好きなの。だから絶対に遠慮しないでちょうだい」


「いや〜! 良い女の子ですなぁ〜! 朝ご飯まだだったから早速いっただきまーす!」


 爽はテーブルに置かれた箸を持って目の前の食べ物を食べ始めた。


「平気そう……」


 凪は爽が食べている様子を見てそう思った。颯・潮・凪の三人も執事達が作ったという料理を食べ始めた。


「美味しいです!!」


「美味しいけど怪しい……もう遅いか」


「さすが町長の執事だ……」


「いつかサギフエちゃんの手作り料理食べてみてぇ〜!」


「爽うるさいわ」


 二十分程経過した頃、サギフエに見守られながら爽達四人は食事を終えた。


「そうだサギフエ。もう一人いるとか言っていたが、その人は食べに来ないのか?」


「あぁ……ライノのことね。朝ご飯には起きてって言ったのにまだ寝ているのかしら……呼びに行くわ」


 サギフエはとある部屋の前に来て扉を三回ノックした。


「入るわよ」


 サギフエは部屋に入るとベッドで布団を掛けて寝ている男が一人いた。


「ライノ起きなさい!!」


 サギフエは寝ている男の体を揺すった。


「あぁおはよう……」


「ライノ……いつまで寝てたの?」


「ごめん……むにゃむにゃ〜」


 ベッドで横になっている男はゆっくりと起き上がった。


「あなたも歯をみがいて朝ご飯を食べなさい」


「朝ご飯?」


「そう、朝ご飯を食べ終わったら今家に来てる四人と魔法学校に行ってもらうわよ」


「魔法学校? 分かったー」


 数分後、サギフエは爽達が食事をしていた部屋にライノを連れて戻って来た。


「昨日私の家に来たライノよ」


「よろしくね」


 ライノは爽達四人に向かって挨拶すると、颯がライノの元に近付いた。


「よろしく!」


 颯はライノに向かって右手を差出した。ライノも同様に右手を差し出し、颯とライノは握手した。


「そうだサギフエ、このあと我達はどうしたらいいんだ? 暮らしのアドバイスをくれ」


「あなた……子供のくせに凄く偉そうに喋るわね……」


「これでも十八歳なんだ! みんなと同じ年齢なんだぞ!」


「へぇ〜……十八歳は私もよ」


「あ、僕も十八歳」


 サギフエとライノは自身の年齢が十八であることを明かした。


「同い年だったのか! みんな同級生だ!」


「みんな同い年なのね……仲良くやっていけそうだわ。ちなみにオイカワは三十代後半よ」


「……サギフエお嬢様。そろそろ私はピラニア様の所へと向かいます」


 オイカワはサギフエにそう告げた。


「ピラニアって誰だ?」


「あなたやっぱり偉そうね……ピラニアは私のお父様よ」


「つまりこの町の町長か……あの執事は町長の仕事の手伝いもすると言うことか?」


「えぇ。オイカワは執事だけでなく町長のお仕事もお手伝いするのよ」


「凄い執事なんだな」


「他に執事的な人は……特に女性の方とかいる?」


「えぇもちろんいるわ……」


「狙おうとしてるだろ爽」


「ちっ……バレてるか……」


「勿論」


「ねぇみんな。ご飯を食べ終わったから今から魔法学校に行って魔力を宿しに行かない?」


 サギフエはそう提案すると、爽は勢いよく立ち上がった。


「おぉ!! ついに魔法を覚える場所に行くのか!!」


「そうだけどあなた……イヤらしいことを考えてないでしょうね」


「もちろん考えてます!」


 そう言った爽は鼻息粗めだった。


「サギフエ、どんな所なんだ?」


 潮はサギフエにそう質問した。


「魔法都市サザエって所にあるのよ。簡単に言えば神秘的な都会ね」


「サザエか……美味しそうなあんこ売ってそうだな……」


 潮はそう呟いた。


「私もそろそろ魔法を覚えようと思っていたの。みんなで一緒に行きましょう」


「おっしゃーー!! 行くぜーー!!」



 一方その頃、一人の海はサンゴ町の町役場の入口付近にいた。


「君! 地球から来た人だよね!」


 海は背後からそう言う女の子の声が聞こえて振り向いた。


「なんだお前は」


 海は3メートル離れた先に身長150cm程の女の子が自身を見ていることに気付いた。その女の子は海と同い年くらいで、髪の色は白で少し短めだった。


「まず魔法を覚えたら? その方が絶対いいよ!」


「この世界で魔法はそんなに重要なのか?」


「うん! 魔法都市サザエにある魔法学校に行こう! 無料だから! 魔力宿してないとどこも雇ってもらえないよ!」


「そうか……興味無かったが行くしか無いようだな」



 数十分後、爽・颯・潮・凪・ライノはサギフエの案内で神秘的な街に来ていた。


「ここが魔法都市サザエか〜」


「いや〜それにしてもワープ施設って便利だな〜」


 爽がそう言った理由は、爽達がサンゴ町にあるワープ施設と言う名の建物からワープをして魔法都市サザエを訪れていたからであった。


「青い建物が多くて神秘的だな〜!」


 周りの建物を見ながら颯はそう言った。


「ここはサンゴ町とは逆で世界で一番西にあるスポットなのよ」


「一番西がサザエで一番東がサンゴか!」


「そうよ颯」


「魔法学校はどこ?」


「……ライノ、案内するから」


 数分後、サギフエ達は魔法学校と呼ばれる建物の入口の前に辿り着いた。魔法学校は天井が見えない程の塔だった。


「たっかーーいな!」


 颯は魔法学校を見上げながらそう叫んだ。


「天井が見えぬぞ……!」


「魔法学校はこの世界で一番高い建物なのよ。1キロあるわ」


「1キロって……」


 凪は思わず声を漏らす様に小声でツッコんだ。


 その後、サギフエ達は魔法学校の中に入った。入口から少し離れた所に受付嬢がいる受付場があった。


「まず受付をしましょう」


「俺が行くぜ!」


 張り切った様子の爽は受付場に向かった。


「多分……いや絶対受付嬢目当てだな……」


 潮は爽の期待に胸を膨らましている時になる様な顔を見てそう思った。


「魔力を手にされたい方ですか?」


「はい!」


「何名様ですか?」


「六名様です! あなたかわいいですね!」


「全員年齢十八歳以上ですね。こちらの教室に向かって下さい」


 受付にいる女の人は爽達を見てそう告げると、爽に教室の場所が書かれてある紙を渡した。


「スルーされたな……さすが受付。スルースキルが素晴らしい」


 潮は受付嬢を見ながら心の中でそう褒めた。


「魔法って十八歳以上にならないと使える様にならないのか!?」


「えぇそうよ。子供が無闇に魔法使うのは危ないじゃない。それくらい察しなさい」

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