二話 五人の武器

「うおぉぉぉ!!」


 そう叫びながら爽はワタツミと海がいる何も物が置かれていない部屋に入った。


「くそぉー……! 途中で転ばなければ……!」


 海に競走で負けた後、爽は部屋の端の壁際付近であぐらかいて座った。


「競走に勝ったお主……名前を発表してくれ」


「海だ」


「お主の武器は剣じゃな。ならわしも剣で戦うとしようかのう」


 ワタツミは自身の目の前に剣を出現させ、それを両手で構えるように握った。


「剣が出現した……それは魔法か」


「そうじゃ。いつかお主らも魔法を扱えるようになるぞい」


「興味ないな」


「お……お主!! この世界で魔法無しはきついぞい!!」


「……どうでもいい」


「まぁ……お主がそう言うならそれで良いと思うのじゃが……早死することになるぞい」


「……早くバトル始めろよ」


 爽は海とワタツミを見ながらそう思った。


「では! 始めるとしようかのう!」


 ワタツミのその言葉で、海とワタツミは互いに真剣な表情で向き合い始めた。


 数分後、海はワタツミを倒した。切り傷を少し与えられた状態のワタツミは床で横になっていた。


「や……やるのう……」


「……神はこんなものなのか?」


「もちろん……手加減しておるわい……」


 ワタツミの体に付けられた切り傷が一つずつ消え始めた。


「直ぐに傷が治るそれも魔法か」


「そうじゃ」


 ワタツミは体の傷を全て消し、立ち上がった。


「素晴らしかったぞい!」


「……あんたら、終わったよな」


 爽はそう言いながら海とワタツミに近付く。


「次俺やるからお前下がれ」


 爽は海にそう指示すると、海は無言で部屋の端に向かって行った。


「お主は確か……武器無しで良かったのじゃな?」


「あぁ!」


「なら……わしも拳で戦うとするかのう!」


 ワタツミは手にしている剣を消した。


「手品みたいだな……」


「さぁ、始めるとしようぞい!」


「あぁ! 行くぜ神!!」


 数分後、爽はワタツミを倒した。何発も殴られた跡があるワタツミは床で横になっていた。


「お主も中々やるのう……」


「本気で良かったんじゃない?」


「今回は試すだけじゃ。もっと強いわしと戦いたかったらいつかそのチャンスを掴むのじゃ」


「チャンスって……?」


「この世界で過ごしていればいずれ分かるぞい」


 ワタツミは殴られた跡を魔法で全て消して立ち上がったその時、爽はワタツミの耳元でささやき始めた。


「ちなみに俺とあいつ……どっちがあんたを倒すのが早かったんだ?」


「それは……あちらの方じゃ」


「えっ……!? 本当か……!?」


「ちなみに今わしと戦うのは一回きりじゃぞ」


「そうか……」


 爽はワタツミから離れ、海が座っている反対側のかどの際付近であぐらかいて座った。


「……悔しいな。いつか直接対決する時が来たら絶対勝ってやる」



 一方その頃、颯・潮・凪の三人は武器が多く飾ったり置いたりしている部屋にいて、三人共に神と戦う時の武器選びをしていた。


「どれにしようか……」


 潮は様々な武器を見ながらそう呟いた時、颯が潮に近付いて来た。


「君は子供か? 年齢はいくつなんだ?」


 颯は潮にそう尋ねると、潮は颯を睨みつけた。


「失礼な! 我は十八歳だぞ!」


「えっ……!? すまん!!」


 颯は謝りながら潮に向けて頭を下げた。


「全く……」


「私は颯!! 良ければ名前を教えて欲しい!!」


「……我は潮だ」


 ふてくされている様子の顔の潮が颯に名乗った。


「私は颯! よろしく!」


 十分程経過した頃、潮は飾ってあるブーメランが視界に入った。


「なんだこれは?」


 潮は視界に入ったブーメランを手にした。


「これは変だな。何の役にも立たなさそうだ」


 潮は前を向いたままブーメランを後ろに捨てるように投げると、そのブーメランは飛んで颯の頭に直撃した。


「あいたっ!」


「え?」


「こ……この武器は……! よし! 私にぶつかった運命だ! これで行こう!」


 颯は自身の頭に直撃して床に落ちたブーメランを拾った。


「あれで行く気なのか……」


 潮は颯の元に近付いた。


「それを投げたのは我だ。すまんな」


「全然気にしてない!」


「……それで大丈夫なのか?」


「大丈夫だ! 心配はいらない!」


 その時、潮の視界に見た目が豪華な斧が入った。


「我はこれにしよう」


 潮は視界に入った斧を手にし、持ち上げようと力を入れ始めた。


「重いな……!!」


「持てるのか?」


 颯は心配の顔付きで潮にそう聞いた。潮は踏ん張りながらも斧を持ち上げることに成功したが、潮はかなり重たそうにしていた。


「問題ない……」


 颯は少し離れている凪を見た。


「凪!! 武器は決まったのか!?」


 颯は大きな声で少し離れた所にいる凪にそう質問すると、大鎌を手にしている凪が頷いた。


「一緒に行こう!」


 数十分後、颯と潮と凪の三人はワタツミと試しに戦うという部屋に同時で入った。斧を持つ潮がかなり辛そうな表情をしていた。


「颯・潮・凪の三人も来たのう。一人ずつワシの前に来るのじゃ」


「凪! 先に潮にしてやってくれ!」


「まぁ……」


 凪は颯の言葉に対してそう反応すると、潮はゆっくりとワタツミに近付いていった。


「ずいぶん重そうに斧を持っておるのう」


 ワタツミは斧を出現させ、それを両手で構えるように持った。


「お……重い……」


「おもしろいな……! なんであんなに重そうなんだよ!」


 爽は潮の様子を見てそう思った。


「う〜ん……」


 潮は握る斧が手から離れ、斧が体にのしかかった。


「潮は終わりでいいのう」


「えぇ……!? 終わった……!? なんだあいつ……! まぁ子供だからしょうがないか……」


「大丈夫かっっ!!」


 真剣な表情の颯は潮を潰している斧を潮の元から移動させた。


「怪我は無いか!?」


「無いが……重すぎたな……」


「軽いのにしとけよ……!!」


 爽は心の中でそうツッコんだ。颯は潮が持っていた斧を持ち上げ、その斧を部屋の壁際まで持っていって床に置いた。


「凪! 先どうだ!?」


「あぁ……じゃあ僕が行くかな……」


 凪は颯の質問に答え、ワタツミに近付いた。


「ほぅ……次はお主かのう」


 ワタツミは目の前に大鎌を出現させて左手で武器を構えるように持った。


「本気で攻撃しにいって良いぞい。わしは簡単に死なないからのう!」


「……行きます」


 凪はワタツミに向かって大鎌を振るったが、ワタツミにかわされた。


「遅いのう」


 ワタツミは大鎌を振るって凪の背中に軽症を負わせた。


「うっ……」


「まだまだいくぞい」


「……神様は手加減するかもしれないけど……それでも勝てるわけがないな」


 凪はそう思い、大鎌から手を離した。


「もしや降参するつもりかのう?」


「はい……」


「分かった。回復させてやるぞい」


 ワタツミは魔法で凪に付けた傷を消した。


「弱すぎじゃね?」


 凪の様子を見ている爽がそう思った。


「最後は……ブーメランかのう」


「あの……!! 本当に神様に攻撃して宜しいのですか!?」


 ワタツミは木製のブーメランを目の前に出現させ、そのブーメランを右手で持った。


「神をなめるでないぞ。本気で来るのじゃ」


「……分かりました。お願いします!」


 颯はブーメランをワタツミに向かって投げた。しかし颯が投げたブーメランはワタツミに命中しなかった。


「あっ……!」


 ワタツミはブーメランを颯の頭にぶつけた。


「いた……い!!」


 頭にブーメランをぶつけられた颯は頭を左手で抑えた。


「あっけね〜な……」


「さすが神様……!」


 痛がりながら颯は持っていた二つ目のブーメランを手にし、ワタツミに向かって投げた。


「これならどうだ……!!」


 颯が投げたブーメランはすぐに曲がり、颯自身のおでこに当たって颯はうずくまった。


「えぇーー!? 自滅かよ!?」


 颯がうずくまったのを見た爽が驚きの顔になってそう思った。


「……これで五人の今の強さを試すのは終わりじゃ」


「急に終わった……あの三人おもしれー……」


 海・颯・潮・凪の四人は使った武器を元々あった場所に戻した後、爽を含め五人はワタツミと共に床・壁・天井が橙色の通路を歩いていた。


「さっきは黄色だったけどこんどは橙色だな……」


 凪は周りを見ながらそう思った。


「お主等、部屋に着いたらこの世界のことについて少し聞いてもらうぞい。話をした後、一日ここに泊まって次の日で旅立つのじゃ」


「えぇ〜……なんかぁ〜……女の子いなくて俺つらくてぇ〜……女の子に会いたくてぇ〜……神様ぁ……ここに女の子はいないんですかぁ……! いなかったら女の子を召喚して欲しいんですけど……!」


 爽はワタツミにそう頼んだ。


「五人で話しとれ」


「えぇー……」


 爽はワタツミの答えにショックを受けた様な顔になった。


「どんだけ女好きなんだ!」


 潮が爽にそうツッコんだ。


「あぁそうだよ!」


 爽の言葉を聞いた颯は凪に近付き、凪に話しかけた。


「君は女の子じゃないのか?」


「僕は……男です……」


「あっ……ごめん……!」


「あぁそうなのか……我も女だと思っていたが」


「ふん……!」


「あいつは女じゃないって分かっていた様子だが……話さなくても分かっていたのか……?」


 潮は凪の顔を見ながらそう思った。


「俺はよく女性の全身見てたからな!」


「何だその自慢は……」


「……まじで女の子召喚ダメですか?」


「明日まで我慢じゃ」


「くそー……おぉん!」


 数分後、ワタツミと五人はテーブル一台と椅子が五脚ある部屋に入った。


「座るんじゃ〜」


 ワタツミはそう言うと、五人は部屋にある椅子に座り、席が埋まっていった。


「神様は座らなくていいのですか!?」


「あぁ、わしはいらんぞい。お主らと比べてでかいからのう」


「……早く明日にならないかなぁ」


「さぁ! 説明をしようかのう! まずこの世界の名は“海(うみ)„と言うのじゃ!」


 ワタツミはそう言ってテーブルに広げた状態の世界地図を出現させ、ウニ神殿と書かれてある所を指差した。


「わしらが今いる場所じゃ! ウニ神殿と言う!」


「ウニ神殿!?」


 驚きの表情になった爽と潮はそう発した。


「ウニ神殿は過去にウニと言う人が住んでおったからウニ神殿と言う名前をつけられたのじゃ。そしてウニ神殿は海水を除けば世界で一番東にあるスポットなのじゃー!」


「ウニ……髪型がトゲトゲした人だったのだろうか……ってウニ神殿だから道の壁とかウニみたいな色だったんだ……」


「“海(うみ)„の世界は主に一つの大陸じゃ。この世界の海(うみ)は地球のような球体ではなく、うみが横に広がっているのじゃ!」


「丸くない地球みたいなものか?」


「そんな感じじゃのう!」


「丸みのあるお尻……ってそういやぁ魔法はどうやったら使えるようになるんだ?」


「それは魔法都市サザエと言うところに行けばよいぞい」


「また名前凄いな……」


 そう凪は思った。


「ネーミングの話をしようかのう。この世界の名称などはだいだい生き物に関する名前なのじゃ。建物も人名ものう。じゃが、みなが知っている犬や猫などの動物は普通にいるぞい。じゃからまぁほぼ地球の町並みと思って構わんぞい」


「地球の町並みって……地球にも色んな風景ありますよ……色んな女の子いるみたいに……」


「まだ女の子を召喚してもらいたがってるな……」


 潮は爽の曇り顔を見てそう思った。


「あと病気なども普通にあるのじゃ。病気には魔法は効かないから健康には気を付けるのじゃぞ!」


「はい!」


「何でも魔法で治せたら、だらけきった世界になりそうだからね……」


 そう凪は思った。


「あとは……季節に関してはお主らが住んでいた日本通りじゃ」


「日本通り? どう言う意味だ?」


「十二月は寒いってことですか?」


 颯はワタツミにそう聞いた。


「そうじゃ。今日は……三月三十一日で春じゃな」


「ってか、明日から出会いの四月なんだった……!」


「とにかく明日、五人は近くのサンゴ町におる転生者を案内するという仕事に勤めている人に会うのじゃ」


「そういう人がいるのか……確かに急にこの世界に来たばかりの者が町に出されても何をしたらいいか分からなくて戸惑うだろうからな……」


「な〜んで明日まで待たなければいけないんだ……」


「今はもう夕方じゃからのう。夜に町や神殿の外を歩くのは危険じゃ。今日はウニ神殿でみんな泊まるのじゃぞ」


 海・爽・颯・凪・潮はワタツミの話をしばらく聞いた後、ベッドが五台ある部屋に案内され、夜になった頃にその五人がベッドで横になっていた。


「みんな! おやすみ!」


 颯は周りの四人に向かってそう挨拶をした。


「男からのおやすみはいらん!」 


「女性がいなくてイライラしているなぁ……あの人……」


「あー……女子いないのつれー……」


 四月一日の朝、ワタツミと五人は外に出てウニ神殿の入口付近に集まっていた。外は草原が広がっていた。


「やっと外に出れた……!」


 ワタツミは一つの方向を指差した。


「ここから400m真っ直ぐ歩いた先にサンゴ町があるのじゃ」


「本当だ! 町があるな!」


 潮はワタツミが指差した方向に目を凝らしてそう言った。


「気をつけて行くのじゃぞ!」


「神様! ありがとうございます! お世話になりました!」


 颯はワタツミにお礼を言ってお辞儀した。


「ではな」


「説明ありがとうございました神様」


「世話になった」


「あばよ神様!」


 颯に続いて潮・凪・海・爽の順番でワタツミに別れの言葉を送った。


「また機会があったら会おうのう!」


 五人はサンゴ町に向かって歩き始めた。ワタツミは笑顔で右手を大きく振りながら五人を見送った。

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