第32話 春が来た
春です。
意気揚々と参られた王太子殿下ことグラジオラス第二王子殿下、こちらに滞在中の呼び名はジオとして現在我が家のサロンに何故か王太子婚約者であり我が夫の前婚約者のオフィリア公爵令嬢がニコニコと腰掛けている。
「いやぁめでたいね」
「ありがとうございます?」
何度も通信魔道具で繰り返された祝いの言葉をまた受ける。
「私もお手伝いしますのでお身体を大事にしていきましょうね」
オッフィさまの笑顔が眩しいね。
私の妊娠を知って急遽オッフィさまがジオさまに付いてくると言い出した時はどうしようかと悩んだものの、現在浮かれまくっているジオさまへの抑止力としてオッフィさまをどうしてもと国王陛下から押し切られてしまった。
正直、私はしがない辺境の田舎領地の元子爵の伯爵でしかない。
王家やら序列一位の公爵家やら荷が重いのよ。
「悪阻はもういいの?」
「はい、先月くらいまでは寝込む日もありましたが」
「あまり無理はしないようにね」
私とオッフィさまが話す隣ではジオさまが今後の予定をクリスと話し合っている。
「ジオ、悪いがこれを全てというのは無理だ」
「な、何故です?」
「時間も足りないが、我が家だけの判断で出来ないものや他国を巻き込むものは受け入れられない」
ふと、ジオさまが出した計画書に目を移す。
「魔塔の協力で作られた技術や輸入しているものに関しては、我が家だからというものが多いので無理ですね、とりあえずは上下水道の設備と、あれ?道路ですか?」
私は計画書を見ながら許可範囲を決めていると、ジオさまが領都に通し直した道路についての疑問点をあげているのに気づいた。
「何か特殊な仕掛けがあるだろう、あれ」
おや?と私が片眉を上げたのにジオさまが気付いて不敵に笑う。
「クリスは気付かなかったんですけどねえ、確かに多少のことはしていますよ」
私がサロンの壁際に立つセバスに声をかけ資料を取りに行かせる。
そう、クリスは気付かなかったというかジオさまが見過ぎなんだよね。
セバスから資料を受け取り図案化したものを三人に見せた。
「道の中央が少し盛り上がっているのか?」
「排水溝?に雨水が流れるようにしているの?」
「え?あの溝ってそういう?」
最後、クリスは気づきましょうよ。
「不要に雨水を溜めて不衛生にしないためのものですね、この排水溝はそのまま下水道に繋がっていて浄化槽を通して海に流れていきます」
「排水溝の定期的な掃除を貧困層向けの事業の一つに?ああ、確かにこれなら……」
うんうんと頷き合うジオさまとオッフィさまに私が改めて話をする。
「カルバーノ領だから出来たことが大半です、ほぼ何もないから作りやすかったり設置しやすかったり、王都のような大きな街ではこれを施工するとなると、立ち退き含め計画の前段階から難しいものも多くなりますよ」
そう、発展もしてなければ村でしかなかった、なんなら道は畦道かという体たらくの人口も少ない田舎領地だから、多少強引にでも出来たこと。
今更王都の幹線道に手を入れるなら一大事になる。
「この辺りは国家事業になるだろうね、うん、実現するにしても何も知らなければ出来ないしね」
まあ、貪欲なほど向上心と好奇心があるのは嫌いではない。
「それで、落ち着くまではお休みしていただいて、来週からジオさまにはサミエルに付いて頂いて、オッフィさまはカタリナと行動していただくということでよろしいですか?」
「ん?私は兄さんとではないのかい?」
「クリスは私と領地の経営に加えて商会の外交部の仕事がありますから」
クリスは現在諸外国との窓口でもあり、新しく交流を始めた国の商会に関しての取引がある。
ここに国の手を入れられては堪らない。
あくまでも商会という小さな取引にしていまわなければならない、国家間の外交は私たちとは別でやってくれ。
要は巻き込むな、だ。
「サミエルとの仕事も多いが、今はリオの仕事の引き継ぎもあるからね」
そう、妊娠発覚後からは出産を見越して今まで私一人でやっていた仕事をクリスに引き継いでもいる。
領地内の運営は各領主に任せられている、ここに監査などのことでもない限り国が口を挟むのは越権行為になりかねない。
「それは残念だなぁ」
シュンと肩を落としたジオさまが少し気の毒ではあるけれど、仕方ないので諦めてください。
それから暫くは領都の案内などをしながら商会や衛兵詰所、傭兵隊への顔合わせなどに加えてジオさまが連れて来た護衛騎士数名や侍従との打ち合わせなどに追われてあっという間に時間は過ぎた。
そしてこの春、サミエルとカタリナの婚約披露会を行ない、以前までも王都での社交はサミエルが私の名代として行っていたけれどこれからはそこにカタリナが加わることになる。
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