第9話

 その違和感は会話の内容から感じ取った。


 舞菜との会話を弾ませているうちに、またこの間の同窓会の話題になった。その中で、舞菜の親友だった小笠原の話を俺から切り出した。


「そういえば小笠原は大学院に行っているらしいな」

「小笠原さんが? へぇ〜そうなんだ」

「??」


 俺は舞菜の言葉に一つ疑問を持った。小笠原についてかなりよそよそしい呼び方をしているように感じた。

 高校時代の舞菜と小笠原はかなり近しい仲で、スキンシップが激しかった記憶がある。そして、舞菜は小笠原のことを『紅羽』と呼び捨てしていたはずだ。


「あれ、小笠原って舞菜さんと仲良くなかったっけ」

「小笠原さんは高校で仲良くしてくれたよ。いつも一緒にいたし、仲は悪くはなかったと思うよ」


 まただ。また舞菜さんの言葉が少しずれている。呼び方も苗字にさん付けしたままだ。幼いころからの親友と豪語した小笠原との矛盾がある。どうしてだ?


 ぬぐい切れない疑念を持ってしまった俺はまた舞菜に問いかけた。



 思えば、この言葉が彼女を引っ掻き回すことになってしまった————————。



「小笠原は舞菜さんの小学校からの親友じゃないのか?」

 その言葉に疑問を持ったようで、舞菜は首をかしげた。


 しかし、舞菜は突然、頭を押さえる仕草をした。

「小学校?そんなっ、っっっつ!!」


 突然のことに俺は愕然とした。

「え???????」


「っっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」


 舞菜は歯を食いしばって力みながら、声を漏らす。

 何が起きているのか、俺は状況を飲み込むことが出来なかった。


「お、おい。舞菜さん? ど、どうしたの?」

「っっっぅ!!!」


 次第に大きくなる舞菜の唸り声が外に響いたのか、外から看護師が駆けつけてきた。とても急いで舞菜の横に駆け込み、唸り続ける舞菜に必死に声をかける。


「くぅぅぅっっ!!!」


「舞菜ちゃん分かる? 大丈夫?」


 舞菜は苦しみながら、頭を抱えた手で髪をくしゃくしゃにする。

 

 何が起きているのかわからない俺は、ただただ呆然と立っている事しかできなかった。

 そんな俺は次に病室にやってきた看護師さんから声をかけられた。


「大丈夫ですか? とりあえず今日はどうしようもなさそうなので、これで面会は終わりということでお願いできますか」

「あ、え? はっ、はい」


 俺はすでにキャパオーバーしていて、何も考えることが出来ない状態になっていた。

 ただただ、看護師さんに連れられるまま部屋を出ることしかできなかった。


「うぅぅぅぅっっっぁぁぁぁ!!!!!」


 俺が部屋を出た後にも医者と看護師が何人も走っていったのを見かけた。無力な俺は何もすることが出来なかった。



 何も考えることが出来ない頭が唯一理解できたのは、舞菜が未だ大きな声で悲痛な唸り声をあげている事だけだった。



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