「バスって楽しいわね」

「そうですか?」

確かに、この人ずっと外見てる。スマホみたり本読んだりしてない。前もそうだった。僕もいつもと違ってスマホは出していなかった。前もそうだった。

「誰かの隣に座って、外の景色を見るのって素敵じゃない?」

「そうですね」

「みて、あそこのお花、すごく綺麗」

「うん、とっても」

民家の庭先に咲く花を舞白さんは指差した

「花、好きなの?」

少し得意げに訊いてみたりした。

「だって綺麗だから。詳しくはないのだけれど」

僕はスマホを取り出していじり始めた。

舞白さんは僕がスマホを取り出したのをみてまた窓の外をみた。

「舞白さん、みてこれ、僕も育ててるの」

「すごい、すごい綺麗。こんなに育ててるの?」

「うん、全部僕が育ててる」

趣味ってわけじゃないが、花を育ててる。量でみればそこまで多くはないのだが、種類の違う花をたくさん育ててるから。色鮮やかで、数が多くみえる。手入れはこまめにしているから、全部綺麗。

「あなた、お花好きなの?」

「うん」

「こんなにあって名前覚えられるの?」

「もちろん。名前を知ってるのと知らないのとだと育てる時に差がでるよ」

「なんで?関係あるの?」

「その花について詳しい方が愛情って増える気がしない?」

「なるほど。炉黎くん、いいこと言うじゃない」

「炉黎でいいよ。“くん,,いらない」

「じゃああなたも舞白って呼んで」

「……わかった。舞白さん」

「炉黎?」

「なんでしょうか舞白さん」

「炉黎?」

「舞白…」

「嬉しいわ」

心臓がバクバクいってる。

このバスもうちょっと速く進まないものか。のぼせそうだ

「じゃあね炉黎、また明日」

「うんじゃあね……」

「——」

早く降りろよ。

「——」

くそ

「——」

わかったよ

「舞白………さん」

「ふふふ」

すごい満足そうな顔をしていた。

令嬢に呼び捨てなんて。

小さい声で“さん,,をつけてしまった

まあ満足そうだったからいっか。

そう思い、バスの窓を開けて外を眺める。



次の日の帰り。バスの中。

「今日は呼び捨てできるように頑張りなさいね」

「聞こえてた?」

「当然」

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いちどきりあいす ちゅ @tyu_185

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