第5話

変わらない私はずっと同じことを繰り返した。ネットで相手を見つけて、捨てて。あまり干渉してこないほどよい距離感がちょうど良かったんだ。知られたくないけど、知ってほしい。受け止めてほしいって思っちゃうから。だから、必要以上に踏み込む相手は関係を切った。



この日も変わらずやっていたんだけど、たまたまラブホ待ち合わせだった。でも年齢とか色々あってホテルの人と相手が揉めてたの。そしたら、キャバ嬢のお姉さんがこっちきなって店に連れてってくれてジュースくれた。もちろん店は営業時間外だったよ。まだ平日の昼だったし。で怒られた。

「何考えてんの。ばかなんじゃない。別にやんのはいいけど待ち合わせ場所とかやる場所考えなよ。これ飲んだら成人するまで来ないで。」

ちょっと嬉しかった。怒られてるのにね。だって、やってること汚いとか醜いとか言われなかったから。でも場所は気にしなとか、少しだけ私のこと想ってくれた気がしたから。

「はい。」

「はぁ。いい?私達みたいにこういうところにいる人間はね、普通になれないの。普通だけど、普通じゃない。ちょっと分かるでしょ。影の、日なたの道を歩けない私達は、社会は許さない。社会が許さないことは学校も許さない。あなたは退学になるかもしらないんだよ。別にそれでよくても、悔しいでしょ。犯罪じゃないのに。犯罪だとして何が悪いのか。誰に迷惑かけてるのか。犯罪だとして、そんなことをさせてるのはこの社会なのに。だから、賢く生きな。こういうところにいたことがあんたの人生に残ると、偏見とか差別だってあるから。」

そう。社会は許さない。私も社会を許さない。でも、確かに社会がないと私だって生きていけない。分かってる。分かってるから、着いてきた。

「はい。でも、正直もう偏見や差別を受けてもいいんです。人生に疲れちゃったから。」

「ここは逃げ場所じゃないよ。戦う、戦場。生きるために、もがいてもがいて輝いて、お互いの人生の寄り道になるところだよ。だから、自分の未来を捨てるな。未来のために、今を生きるのが辛いから寄り道するのはいいけど、投げやりになって全てを捨てるためはだめ。」

そっか。疲れたから逃げるんじゃダメなんだ。ここは頑張ったる人のための、踏ん張るところなんだ。最後の。頑張らないとだね。こんなに、ちゃんと話してくれてるんだし。私、今、夢がみつかりました。私の夢は、キャバ嬢。それになれなくても、誰かの人生の許されないことを、静かに見守れるような。誰かの人生の未来を守れるような。そんな人になりたい。疲れた時に、支えられる、寄り道にあるコンビニになりたい。こんな出会いで、夢がみつかるなんて、思ってなかった。でも、本当によかった。

「はい。生きます。生きるのが辛いから、今死にそうだから、生きるために抗って頑張ります。逃げるためじゃなく。ジュースありがとうございました。」

オランジーナくらたんだよね。ほんとに忘れられない味になったな。元から結構好きだったけど。

「うんじゃーね。」

もう今は、そのキャバクラがどこにあるかも分からないし、誰かも分からない。けど、大事な出来事で、大事な人。頑張ろうって思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私はわたしの味方じゃない 月詩 @fooo1_hy3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ