第7話 吸血鬼と人間

「はい!?す、すいませんがもう一度言ってもらえるかな」


「決して悪気は無かったんですよ、ただあの時はちょっと慌ててしまったと言うか。ガクさんが死んでしまうのが嫌だったといいますか、つい……」


「つまり」


「ごめんなさい!!ガクさんを私の眷属にしてしまいましたーーーーー!!!!!」


オリジンちゃんが見事な土下座を見せる、昼間に良庵上人がやってたの見てたから覚えたのかな。

うん、なんか想像してた流れと違う、愛の告白かと思ったら、罪の告白だった。

ちくしょー、美少女からの告白期待しちゃったじゃんかー!!もう少し夢を見ていたかったよ、だって男の子だもん。

いかん、期待が大きかった分落ち込みが激しいぞ。


「わ、わ、ガクさん、そんなに落ち込まないで〜。そ、そんなに悪い事ばかりじゃないですよ。そ、そう、すぐに怪我が治るとか、夜でも凄く良く目がみえるとか」


落ち込む俺を勘違いしてオリジンちゃんがワタワタと必死に慰めてくる。いかん、いかん、いらん誤解を与えてしまった。


「いや、違うんだオリジンちゃん。眷属になったことに落ち込んでるわけじゃないんだ」


「えっ、そうなんですか。でも勝手に人間辞めさせちゃったし、そういうのヤダって人も多いじゃないですか。」


「う〜ん、見た目変んないし実感湧かないんだけど、そんなに人間にこだわりがあるわけじゃないかな。それより弱点とかあるの?十字架がダメとか、陽の光で燃えて灰になるとか。注意しなきゃいけないことは聞いときたいな」


「すいません、ちょっとそれが分からなくて。なにせガクさんで二人目の眷属なんで」


「二人目?30万年でそれしかいないの?一人目は今何してるの?」


「30万年って言っても人間が出できたのなんかつい最近ですよ。アヌビス達はお友達ですし、一人目は今どこにいるかわからないんです」


「失踪したの?」


「はい、2000年位前だったと思いますが、ジャンプすれば月まで行けるかなと言って、ピョーーンと行ったきり帰ってこなくて」


「そいつアホだな」


「あの子は少し頭の弱い所がありましたから、回ってる地球から真っ直ぐ月になんか行けるわけないんですけどね。ちゃんと軌道計算してないから、たぶん方角ずれちゃったんだと思います」


「それ戻ってこれるの?しかし困ったな、弱点とか分からないと生活しずらいな。いきなり死んじゃう事態もありうるしな」


「それは大丈夫だと思いますよ、一応私の眷属ですし、100万回くらいは死んでもへっちゃらですよ、多分ですけど」


「なんか童話になりそうな回数だね」





父さん、母さん、俺人間やめました、猫になりたいです。







明くる日の朝、俺は神社の境内で陽の光を恐る恐る触る、山間から差し込む陽の光にそお〜っと脚を伸ばしてみれば、そこから灰になるようなことはなかった。あ、昨日の善光寺帰りも平気だったわ、すっかり忘れてた。


「よし、陽の光クリア!」


なにせ自分の弱点がわからないと安心して生活が出来んし、二度もうっかりで死ぬわけにはいかない。ニンニクも朝飯の時に試したが問題なく食べられた、朝から大量の餃子を作ったせいで女性陣には評判が悪かったが、いたしかたあるまい。後、十字架も試したいが割り箸で作っても効果あるのか?



「なぁ、ガクがやってるのって吸血鬼が苦手なものじゃないのか?」


いつのまにか後ろにいたイシュタムさんが、一升瓶片手に話しかけてくる。えっ、だって吸血鬼でしょ。



「ああ、ご主人は正確には吸血鬼じゃないぞ。わたしら相手に血吸うから便宜上吸血鬼って言ってるけど、ガクが思ってるようなドラキュラなんかとは別物だ。大体、神である私達が只の吸血鬼なんぞに従うわけなかろう」


なんですと、ちょっと頭がこんがらかってきたぞ。


「じゃあオリジンちゃんは何者なんだ」


「さあ?わたしらが生まれた時にはすでにいたからな、もしかすると宇宙人かもしれんな」


「あれ、地球生まれじゃなかった?たしかモロッコだとか」


「その場所に落ちてきただけかもしれんぞ。それだけご主人の存在は規格外なんだよ。オーパーツもいいとこだ」


ふむ、確かに30万年も生きてるなんて生物としてとんでもない話しだよな、あながち宇宙人説も有りか。


「あら、なにを人の話題で盛り上がってますの」


「やあ、オリジンちゃん、おはよう。って昨日は寝てなかったんだっけ?」


「朝だからおはようでいいですわ」


朝風呂に入っていたオリジンちゃんがやって来た、濡れた髪をアップにまとめて浴衣を着ているんだが、うなじが見えて色っぽい。それに口調がまたお嬢様に戻ってる、よっぽど気に入ってるんだな。カラコロと下駄を鳴らしながらイシュタムさんの隣に座った。


「で、ガクさん。弱点は見つかりましたの?」


「いや〜、イシュタムさんに言わせると、なんか見当違いのこと試してたみたい。オリジンちゃんはなんか苦手なものないの?」


「苦手なものですの?あ、毛虫は嫌いですわ」


「それ嫌いなだけでしょ、そういうんじゃなくて、これやったら死んじゃう〜みたいのは有る」


「そんなものありませんわ」


ありゃ、言い切られちゃったよ。弱点無いのか。じゃあ眷属である俺も大丈夫なのか?まあ随分と寿命は長くなるみたいだし気長に調べるしかないか。


「それより、今日はどこに遊びに連れてってくれますの?」


首を傾げながら聞いてくるオリジンちゃん。やばいな、オリジンちゃんを見てると不安が消えて、楽しみになってきた、我ながら順応早すぎだよな、でもこれから一生、いや、死ぬことなく一緒にいられるかと思うとワクワクしてくるから不思議だ。

さて、今日はどこにこのお嬢様を連れ出してやろうか。







後から思うと、この時の俺はオリジンちゃんの眷属というのを少し軽く考えすぎていた。反省

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