第4話 牛に引かれて善光寺参り
明けて次の日、俺達は国宝善光寺に行くことになった、ここいらじゃ有名な寺だ。二日酔いで具合が悪いのもあるが、色々あってあそこには行きたくなかったんだけどな。
ちなみにアヌビスちゃんは二日酔いで顔が真っ青だ、他の神様とオリジンちゃんはあれだけ飲んだのにケロッとしている。やっぱり犬は酒に弱かったか。
ちなみに移動は俺のワンボックス車を使う事になった、神様なんだから好きな所に瞬間移動くらい出来るんだろうが。
「なんで、永遠の時間があるのに急いで行かないといけないですの?」
オリジンちゃんのこの一言で地上をトコトコと移動するはめになった、ちなみに長野に来るのにも新幹線だったらしい、しかもグリーン車だった。どうやって切符買ったんだ。
ふと、後部座席に座るイシュタムの姉さんが俺に話かけてくる。
「そう言えばガク、日本にわざわざ来たのに侍を一人も見ていないぞ、日本人として恥ずかしくないのか」
「今の日本に侍なんぞいるか!100年は遅いわ!」
「マジで」
時間感覚が違い過ぎる。ん、コスプレ会場とかなら2・3人はいそうかな。
中央通りのコインパーキングに車を停めて、ゾロゾロと歩き出す。とは言っても普通の人には神様は見えないんだけどね。
しかしオリジンちゃんは違う、厳密には神ではない彼女は隠れる気もないのか堂々と人通りの多い中央通りを歩いて行く。八頭身の抜群のスタイル、サラサラのプラチナブロンド、短めのタータンチェックのスカートから惜しげも無く晒された生足、まだ幼さも残る北欧風の顔立ちに女子校生の制服スタイルは留学生っぽくも見えるか。
おかげで道行く人が皆、振り返る、振り返る。注目の的となっていた、こんな田舎で金髪美少女が突然現れたら当然そうなる、隣を歩く俺としては優越感が半端ない。
わはは、羨ましかろう、ひれ伏せ愚民共、わはは。さあ、オリジンちゃん腕でも組んで行こうか。
「あまり調子に乗るなよ、人間。ウプッ」
「おい、七味唐辛子のオリジナルブレンドだって買ってけ」
「・・・・」
おわっ!!頭の中に直接話しかけてきやがった。吃驚した〜。はいはい、分かってますよ、俺なんかじゃオリジンちゃんと全然釣り合ってないことぐらい、いいじゃんか、少しは良い夢みさせてくれよ。こんな美少女と一緒に街を歩くなんて機会は一生に一度有るかないかなんだから、今だけでもデート気分を味わっても罰は当たるまい。
「あら、エスコートしてくださるのですか、それでは腕を組んだほうがいいですわね」
オリジンちゃんがそう言って俺に腕を組んできた、小ぶりな胸をギュっと押し付けてはにかんだ笑顔を見せる。
まじかーーーっ、ありがとうございます、神様!もう死んでもいい。
「一遍、死んでみる・・・・」ボソッ
ヘルちゃん、冗談です!君が言うと本当にしゃれになんないので勘弁してください、お願いします!
うむ、この3神の前では迂闊に死んでもいいとは言えんな、覚えておかねば。
オリジンちゃんと腕を組んで、愚民共の嫉妬の視線に身を焼かれながら仁王門にたどり着く。オリジンちゃんもニコニコと機嫌良く、俺を引っぱりまわして色々と質問してくる。すると遠く本堂の方からバイクの音が聞こえた、バリバリと排気音を響かせながら、観光客でごった返す長い石畳を疾走してくる一台のスーパーカブ。
「うわー、なんだ!」
「きゃーー!!」
観光客が我先にと参道から逃げて行く。仁王門の下でズシャーーッと横滑りにドリフトしながらバイクが止まる。一人の僧侶が緋色の法衣をはためかせながら門前に降り立つ、仁王門で仁王立ちだ。
「喝ーーーーーーっ!!!!!私の目の黒いうちは邪悪なる物は、ここを通さん!!!」
あちゃー、やっぱり来ちゃったか。忙しい奴だから留守してることを祈ってたんだが、居ちゃったか〜、しかたないなぁ。
「
「あれ、学ちゃんではないか!えっ、なにそんな美少女と腕組んでるの?犯罪だよ?警察呼ぼうか?」
「呼ぶなーー!!」
良庵さん、最高位の証である緋色の法衣に身を包んだこの人は、善光寺大本願のトップである上人だ。
公家の家系に生まれた彼女は35歳の若さで上人の位に付いた、善光寺最年少の上人である。175cmの長身にボンキュッボンの抜群のプロポーション、切れ長の瞳にスッと通った鼻筋、スキンヘッドながらその美貌は少しも霞むことはない。しかし性格がとても悪い、スーパーカブの改造車に乗った破戒僧が彼女である。
まったく、人を性犯罪者のように言いやがって。
「誰が犯罪者だ!俺が美少女と腕組んでたら警察呼ばれるんか!」
「えっ、そうだよ。だって学ちゃん失恋教の信者さんじゃん、そんな学ちゃんが美少女女子高生と腕組んでたら、そりゃ通報ものだろ」
「あんたと一緒にするな!そんな宗教に入った覚えは無いぞ!!」
ブチッ
「だれが失恋教の教祖だと、警策くらわすぞ!!!」
「ガクさんは失恋教の信者さんなんですの?」
ほらみろ、貴様の所為でオリジンちゃんまでそんな世迷い言を言い出しちゃったじゃないか。このクソ尼。
「いえ、俺は「今」彼女が居ないだけでそんな怪しげな宗教には入ってません」
「20年も彼女居なけりゃ入信の資格は十分だぞ、学ちゃん」
「うわーーーー!しょうがないじゃん、小さい頃から転校多かったし、いろんな神社たらい回しさせられるし、そんな彼女を作るヒマなんて無かったんだよ〜!」
「えっ、20年異性の方とお付き合いがなければ入信ですの。え〜っと私も入った方がよろしいですか?」
「「はっ?」」
いや、オリジンちゃんの時間感覚で言うとどうなんだろう?分母の数が大きすぎて見当がつかない。30万分の20は一瞬のことじゃないかな。
えっ、今彼氏居ないの!本当に!俺にもワンチャン有る?
ゾクッ。
おわぁ、なんか怒りの波動が後ろから溢れとる。
「おい、人間!いつまで待たすのだ。このキンキンとうるさい尼さんは何なのだ」
「ん、やはり邪悪な気配がする。そこかっ!!!」
良庵上人が懐から
ゴッ!
「痛っ!!」
スコーンとアヌビスちゃんの額に独鈷杵が命中する。神様の癖になに簡単に当たってるんだよ、避けろよ!まだ二日酔いが残ってるのか。
アヌビスちゃんが怒りの形相を浮かべると途端に膨れ上がる神気、うぉーーーーっ凄まじいな、犬のくせにさすがAクラスの神様だ、一気に空気が鉛のように重くなる、視界が歪む程の濃密な神気。
やばい、普通の人じゃこんなの耐えられないぞ!案の定、周りで俺達を面白そうに見ていた観光客が、神気に当てられてガクンガクンと次々と気を失って倒れる。
「ちょ、犬。待て待て、ステイ!ステイ!」
「な、なんじゃこの霊気は!!こ、こんな巨大な霊気が存在するのか!」
ここまできてようやく巨大なアヌビスちゃんの神気に慌て始める良庵上人。
まったく、見えない人は怖いもの知らずで困る、しょうがないので懐から天照ちゃんに貰ったハリセンをごそごそと引き抜いてアヌビスちゃんと良庵上人をスパパーンっと引っ叩く。
パパーン!
「「むきゅ!」」
「落ち着け、二人とも!!まったく、良庵上人もいきなり攻撃しない。誰に向かって独鈷杵投げたか分かってるんですか!」
「アヌビスちゃんも大人気ない?人間ごときの攻撃で怒らない、神様でしょ!」
「「だって〜」」
「だってじゃ有りません。周りの迷惑を考えなさい!」
「「はい」」
シュンと小さくなる美人の尼さんと、耳が垂れ下がったアヌビスちゃん。すると
「ふふふ、あーはっはっは」
「はは、なかなか言うじゃないか小僧」
「ふふ・・・・」
オリジンちゃんとイシュタムさん、それにヘルちゃんの3人が笑いだした、なんぞや。
「ふふ、神に向かってハリセンって。そんな人間初めてですわ。やっぱりガクは変わってますわ」
へっ、不味かった?やっぱり神様ハリセンで叩くのは不味かったかな、神罰下っちゃう?でも俺の中では神様も日常的に見えちゃうものだから、ついいつもの感覚でやっちゃったんです。
すいません!反省しますから神罰だけはご勘弁を。
「別に怒ってませんわ、むしろ嬉しいですわ。私達にこんなに普通に接してくれて、他の方達はオドオドしてるか緊張してるかで、まともに話すことすら出来ませんもの」
「な、なあ、学ちゃん。この方達はいったい何者なの?」
良庵上人がコソコソ寄って来て俺に聞いてくる、フワリと品のいいお香の臭いが香ってきた、この人普通にしてれば美人さんなんだがなぁ。
「ああ、紹介しよう。この金髪美少女はオリジンちゃん、始まりの吸血鬼さんだ。あと3人ここに居るんだが、あんたが独鈷杵投げつけたのがアヌビスちゃんでイシュタムさんとヘルちゃんと言う神様も隣に居る。いずれも冥界の神様だ、失礼のないようにな。あ、もう遅いか」
良庵上人の顔がサァーッと青ざめていく。
「あ、アヌビス様ってもしかしてエジプトの?それに後2人も神様がいらっしゃる上に吸血鬼?」
「ああ、エジプトにマヤ、それに北欧。オリジンちゃんに至っては30万年の時を生きる神殺しの吸血鬼だ」
「あら、殺してなどいませんわ。ちょ〜っと血を吸うだけですわ」
心外とばかりに頬を膨らませるオリジンちゃん、可愛いけど君が吸ってるの神様達の血だからね。
わなわなと震え、石畳の上でジャンピング土下座を決め平伏する良庵上人。
「も、もーしわけ有りませんでした!!知らなかったとは言え神々の皆様にご無礼をーーーーっ!!!」
「かくなる上はこの頭丸めてお詫びいたします。」
いやあんた、すでに坊主頭だろうが。
「ここで悲しいお知らせです・・・。さっきアヌビスが発動した神罰が上空に残っててじきにここに落ちてくる・・・」ボソッ
ヘルちゃんが空を指差しながら、物騒な事を口走る。つられて空を見上げれば、なるほど空がタールをぶち撒けた様に真っ黒に染まり、今にも垂れて落っこちて来そうだ。おいおい、あの一瞬でどれだけ神力が出せるんだあの犬耳娘は。
「アヌビスちゃん!キャンセル!早く神罰キャンセルして、善光寺がタールで真っ黒になっちゃう!」
「ちょ、ちょっと待って。今日は二日酔いで力加減がうまく・・」
わたわたと慌てながらエイとかヤーとかやってるが、真っ黒い空はどんどんと迫ってくる、キャンセルが効かないのか、オイ。今度からおまえには絶対に酒は飲まさんぞ犬耳!!
そうこうしてるうちに黒い空は寺全体を覆う様に落っこちてきた。
トプン。
「あ、これ死んだわ」
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