9.深夜の徘徊、迫りくるパーティー

 リゼは交換後にすかさずステータスウィンドウを確認してみる。


【名前】リゼ=プリムローズ・ランドル

【性別】女

【年齢】十二才

【レベル】2

【職業】伯爵令嬢

【属性】風属性、氷属性

【称号】なし

【加護】大地の神ルークの祝福(小)、芸術の神ミカルの祝福(小)、武の神ラグナルの祝福(大)、水の加護、土の加護

【スキル】ルーン解読(固有)、毒耐性(レベル1)

【状態】健康

【所持金】120000エレス

【ポイント】94660000

【メッセージ】「VIP事業登録カードを獲得しました。毒耐性(レベル1)を獲得し、関連スキル毒解析および解毒(レベル1)を獲得しました。ルーン解読(固有)を獲得しました。水の加護を取得しました。土の加護を取得しました。土の加護を獲得し、譲渡しました」


(うん。見た目的にはちょっとだけ充実してきた感じ。土の加護はアイシャに譲渡したのだけれど、自分用も交換することが出来たので交換しておいた。毒耐性は関連スキルがあるのね。親子関係のスキルはスキルウィンドウでしか見れない感じだったよね? さて、育てるには毒……が必要なのかな? どうやって手に入れれば……毒……毒……うーん)


 毒耐性スキルは育てないときっと意味がないため、考えに考えを巡らせるがなかなか答えは出てこない。(本で読むしかないかな)、という結論に達しようとしたときだ。


「お嬢様? 毒ってなんですか?」

「え、あれ、ごめんなさい。もしかして口に出ていた?」

「はい。どうされました?」


 流石に毒を摂取してみたいなんて話をしたら正真正銘の頭のいかれた人物だと思われてしまうだろう。そう思ったリゼは瞬時に頭を回転させる。


「あー、えーっと……料理で、毒……とかを知らないうちに摂取しちゃったりすることってあるのかな~って……あはは……」

「ふむふむ、なるほどです。真面目にお答えすると、ジャガイモのや変色した皮、アジサイの葉、それに一部のキノコや魚なども毒が含まれていたりするので調理段階で細心の注意を払いますよ。意図的に毒物を混ぜられない限りは料理人がきちんと処理していれば、摂取してしまうことはないかと思います」

「そ、そうよね! 私ったら何を考えているのか……でも安心した!」


 リゼはあからさまに笑ってごまかすが、アイシャは毒物に対するうんちくを語り始めていて幸いなことに気づいていないようだった。そこでふと、アイシャが口を開いた。


「そういえばお嬢様、ちょっとしたことなのですが、バルニエ公爵令嬢様のお披露目会ってつい先日に招待状が来たのですよね。普通はこちら側のドレスの準備などもありますし、もっと早めに送ってきませんか?」

「え……確かに……そうね。むしろ、いままでそこまで頭が回らなかったけれど、おかしい気もする……」


 理由は不明だ。まだ会ったことがないとはいえ、何かしらの良くない理由があるかもしれない。しかし、しばらくアイシャと理由について話をしたが良い答えを出すことは出来なかった。

 リゼはとにかく出来ることをこなしていこうと考える。魔法に剣術、そして毒耐性スキルのレベル上げだ。

 まずは身近なジャガイモやアジサイで試してみようと思い立つ。


 その日の夜遅く。

 リゼはというと、私室をこっそりと抜け出して、食糧庫へと向かう。こんな行いは人生で初めてだ。


(あるかなぁ……状態の悪いジャガイモ。もしくは芽の出たジャガイモ)


 忍び足で廊下を歩いていると、角を曲がった先に明かりが見える。執事か従者、下僕の巡回かもしれない。見つかったらおかしな人物だと思われてしまう。しかし、隠れる場所はない。仕方なく窓枠に素早くよじ登り、それなりに大きなカーテンのふくらみに身を隠す。

 人生で初めての奇怪な行動に(私、何をやっているのかな……)となんとも言えない気持ちになったちょうどその時、伯爵付きの従者が横を通り過ぎるのだった。

 心臓が飛び出そうなリゼであったが、気づかれずに通り過ぎて行った。


(あぶない……見つかったら、終わりだった……)


 なお、使用人には執事、従者、下僕という順番で階級がある。一番偉いのは執事だ。


 音を立てないように静かに窓枠から降りると、忍び足で食糧庫へとやってくる。

 スイッチを押すと火魔法を応用した明かりがつく。初めて入ったので、キョロキョロとしてしまう。それからしばらく探していると、目当てのジャガイモが置かれているエリアを見つけるのだった。

 上に置いてあるものはどれも問題なさそうであったが、下の方や落ちてそのままになっているジャガイモはアイシャの話のとおり、芽が出ていたり、皮が変色していた。


「あまりにも腐っていそうなのは避けるとして……あと、変色した皮はなんとなく嫌な予感がするから、芽の部分を切り取って全部持って帰りましょうか。また巡回があるかもしれないから急がないと」


 リゼは用意してきた袋に芽を切り取り、洗った後に詰め込むと、私室に向かって急いで戻るのであった。なんとか私室まで戻ってくることが出来て一安心した。バレずに済んだのは不幸中の幸いだ。

 部屋について息を整えるとアイテムウィンドウで持ち物を確認してみる。


『ハンカチ 備考:フォルチエ店のハンカチ。材質は絹』

『ジャガイモの芽(四十五個) 備考:新鮮 ※毒レベル1』


「あっ! これは! 毒のレベルが表示されている。たぶん私のスキルレベルと同じだから食べたら解毒してくれる……のよね。一つ食べたくらいでは死なないだろうし、試しに食べてみましょう。何かメッセージがあるかもしれないから、ステータスウィンドウを出しておいて……」


 リゼはステータスウィンドウを開くと、ジャガイモの芽を一つ口に入れてみる。


「おいしくは……ない……」


 ステータスウィンドウに目を移すと、新しいメッセージが追加されている。少し気分が悪くなりながら息を止めてなんとか食べ終わる。スキルの成長のため、我慢だ。


【メッセージ】「ジャガイモの芽(毒レベル1)の解毒に成功しました」


「きた! 成功! よーし、十個ほど食べちゃいましょう!」


 それから十個のジャガイモの芽を食べ終えたリゼは、毒というよりも、芽を大量に食べたせいで胃もたれがひどく、ベッドに横になった。


(う、つらい…………。でも、スキルレベルを上げるために頑張って毎日食べないと。いまは自力でまだ頑張れるからスキルポイントを交換するのはポイントがもったいないし。そうだ、アイテムボックスに入れておけば新鮮な状態を保てるかも。アイテムボックス、開いて!)


 すると、視界の一部が少し歪んで見える。手を入れると、たしかに空間のような場所が広がっていたので袋ごとジャガイモの芽を入れておいた。


「アイテムボックスって、アイテムウィンドウの補助的なスキルだから、アイテムウィンドウに別タブが表示されて中身を見れたはず」


 中身を念のため確認しておこうかと考えたが、眠すぎていつの間にか眠っていた。夢でジャガイモの芽を永遠に食べ続けるという悪夢を見たが、目覚めは良かった。スキルの解毒効果を確認してから眠ったからかもしれない。

 

 そして、意識しなければならないことがある。そう、――いよいよ明日はバルニエ公爵のパーティーなのだ。

 とはいいつつも、いつも通り魔法の練習に騎士と剣術の練習を行い、キュリー夫人の授業もこなすのだった。夕食を済ませ、湯浴びをしていると、アイシャが話しかけてくる。


「お嬢様、ドレ公爵家のラウル様についてずっと聞き回っていたのですが、ついに情報を仕入れましたよ」

「聞かせて聞かせて!」


 待っていましたと言わんばかりに前のめりになる。相手がどういう人なのか、〈知識〉をもってしても知ることが出来なかったのでアイシャの情報を楽しみにしていたのだ。


「剣術が大の得意で、勉強も出来る優秀な方らしいですよ。すごい人みたいですけど、お嬢様は興味なしですか? ありですか?」

「流石にパートナーをつとめてくださる方だし、興味はある……怖い人じゃなければ良いのだけれど……! 剣術って、騎士になるわけでないのなら、あまり極める人がいないのが実情よね。そう考えると珍しい方なのかもしれない。あ! でも魔法には興味なし?」

「本当にお嬢様は魔法が大好きですね。普通の貴族の方でしたらまだ魔法の練習はされていないかもしれません。やるとしても学園入学前の十四歳くらいからではなかったです? 確か、各貴族の自主的な教育に剣術はありますが、魔法はなかったような……」

「そうよね~。でも剣術はすごい方なのよね。お父様が選ばれた方なのだし、お会いするのが楽しみね」


 しかし、剣術が得意だということは、敵に回せば厄介なことになりかねない、という不安も少し芽生える。


(うん……多少は不安もある。でもドレ公爵令息については粗相そそうをしなければきっと問題ないはず。ゲームにも出てこない方だし、警戒レベルは少し下がる。それよりも明日はエリアナのお茶会をなんとか乗り切らなくちゃ。招待状をギリギリで送ってきたということは、すでに私に対して何か思うところがあるのかもしれないし)


 明日のことを考えて少し緊張している彼女であるが、何事もまずは睡眠が大事、と早めに眠りにつくのだった。

 いよいよ、エリアナのお披露目会だ。

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