第74話 山茶屋建英の秘密

「山茶屋さ、貂彩学園で使ってる健康診断の計測機器ってお前の親父の会社が作ってんだよな?それで女子のスリーサイズとか分かんないのか?」


貂彩学園では、身体測定に専用の機械を導入している。

この機械は、生れたままの姿で専用の個室の中に入る。そしてこれまた専用の計測器具を体に取り付け、胸部のレントゲンのように立ったまま顎を固定した状態でしばらくじっとしていると、身長や体重はもちろん胸囲や腹囲、X線等の検査も一度にできるものである。


なお、貂彩学園は聴力検査や視力検査、握力測定や肺機能に至るまで検査できるものを取り入れている。これは別室で被験者が各自で実施するものにはなるが。


その健康診断の計測機械を製造・販売しているのが、山茶屋建英の父親が経営する会社である。

このことは一部の貂彩学園関係者しか知りえない情報だが、なぜか今年度の一年生のほとんどが知っていた。


「だっしょ、そんなの分かるわけないだろ。」

そう言うと山茶屋建英はさりげなく小さなメモを梨田正一に渡して席を立った。


「なんだこれ、『技術室』。技術室に来いってことか?」

梨田正一は、山茶屋の意図を察したのか、足早に3階の技術室に向かう。

貂彩学園の中等部本校舎は、三階建てになっており、一階には各学年のクラスと職員室・給湯室・印刷室がある。

二階は美術室や理科室、会議室等があり、三階には映像室や技術室がある。


技術室は主にパソコン部屋となっており、最新鋭の3Dプリンターもある。

貂彩学園では技術の授業が中学一年から実施されており、主にプログラミング学習の授業にこの技術室が利用されている。


ガラガラッ


ドアを開けると、入り口から一番遠い隅の席に山茶屋建英が座っていた。

「山茶屋、こんなとこに呼び出してどういうことだ?」

「だっしょ、君はどこまで知ってるんだ?」

「知ってるって、何を?」

「健康診断の計測機械についてだよ。」


「いや、計測の機械が山茶屋の親父の会社が作ってるってことだけだよ。」

「そうか、君がもし秘密を守ることができると約束するなら、取り引きしても良い。」

「取り引きって?」

「君の望む情報をひとつ僕が渡す。代わりに君には僕の頼みをひとつ聞いてもらう。」


「情報をひとつって、例えばクラスの女子のスリーサイズがひとつの情報ってこと?」

「いや、誰か一人の情報でひとつだ。」

「おいおい、それはちょっとひどくないか?全員分だとお前の頼みを14個も聞かなきゃいけないってのか?」


「だっしょ、個人情報ってのはそれほど重要で危険なものなんだよ。ニュースでも個人情報を流出した企業とかが大変なことになってるのは良く耳にするだろう?もしこの情報が外部に漏れでもしたら、僕どころか僕の父親の会社に甚大な被害が出るんだよ。分かるだろう?」

「いや、それは分かるけど、それでもなぁ。お前の頼みってのにもよるんだけど、その頼みってのはどんな頼みなんだ?」


「情報の代わりは情報でってのが基本だ。例えば誰かの秘密や弱みとなる情報とか。」

「そんなの俺に分かるわけないじゃん、分かったよ、女子のスリーサイズはあきらめるよ。」

「だっしょ、もう引き返すことはできないんだよ。」

「え?」

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砂糖元家のデブ執事 西園寺 真琴 @oguchan41

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