その頃の王子 598話

 アリアは、ヒラタの領主一家と養女として過ごしている。

 レイシアは俺の姉と一緒に里帰りをしている。


 つまり、婚約すべき二人の女性が王都に、俺の近くにいないということ。


 今のうちに俺がやるべきことを進めておかないと。

 俺は、騎士団の練習場へ向かった。



 訓練を見ると、以前と本気度が違って見える。

 団体行動・模擬戦・魔法訓練。全て一つ皮がむけた様に力強く、きびきびと行われていた。


 新設された、近衛兵によるパーティー会場警備訓練。


 元オヤマーのメイド、ノエルによるオヤマー式メイド術。レイシアの使う戦闘術とかなり似たスタイルの、何というか……暗殺に最適な戦闘術をどのように対処するか。


 実戦形式で行われる訓練を見ながら、これ、学園で行われているレイシアの訓練と同じだよね、と苦笑いをしてしまった。


 そうだな、学園のレイシアチームと戦わせてもいいかもしれない。

 きっと、レイシアの仕込んだ生徒の方が強いだろうから。


 向こうは一年以上仕込まれているからな。実戦経験の違いは出ることだろう。

 まだまだ鍛えがいがありそうだ。


 そう思いながら見ていると、俺が引き上げたガーンがやってきた。


「アルフレッド王子殿下。お待ちしておりました」

「ああ。勝手に入らせてもらった。知られると訓練が止まるからな。いつもの状態を見たかったんだ」


 ドンケル先生、いやコードネーム暗闇、彼に変装させてもらった甲斐があった。

 俺は声を潜めるように命じ、昔話を始めた。


「それにしても、レイシアたちと戦った頃は騎士団もひどいものだったな」

「あの頃につきましては、自分も苦々しく思っておりました」


「まあ、それが分かったから、お前にまかせたんだ。期待している」

「は。光栄の至りであります。殿下、ご紹介したいものがおります。まあご存じではあるでしょうが」


「誰だ? 許可する」

「来なさい。エース」


 見覚えのある少年が出てきた。エース? ああ、生徒会にいる特別奨学生。


「なぜここにいる? エース」


「は、殿下。自分は……」

「ああ、普通に話せ。学園にいる時と同じでいい。ガーン、お前もだ」


 そう言うと、二人はほっとしたように息をついた。


「アルフレッド先輩。僕はターナー出身の法衣貴族の息子です」

「ターナー? レイシアの領地か」


「はい。僕は学園に入る前はおごり高ぶった子供でした。領主子息のクリシュ様が、僕たちに勉強を教えてくださるのに反抗して騒いだり」


 ああ、あの弟。そんなことしていたんだ。


「その時レイシア様に目を覚まさせて頂いて」

「待て、レイシアが何をしたんだ」


「決闘で、ボコボコにされた……とか」

「……ああ、ありそうだね」


 目が合った。何だろうこの分かり合える感じ。


「そのおかげで、心を入れ替えることができました。そして、学力だけでは他に対象者がいたにも関わらず、僕が特別奨学生に選ばれたのです」


「ああ。あまり偏ったらいけなかったからな。騎士コースからの推薦でも、他の学年は負けていたしな。それで三年生の君が推挙されたらしい。勉強も上位に食いつきながら、騎士コースでも上位にいる人材は貴重だ」


「そう伺いました。ですから、クリシュ様、レイシア様に報いれますように、免除された学費で休みの間アパートを借りて、こうして騎士団の訓練に参加しているのです」


「殿下、エースは特別奨学生の権利を騎士団との訓練だけに全部つぎ込んでこうしてきた。その意気込みを伝えようと思ったんだ」


「そうか。頑張っているな」


 それにしても、レイシアのまわりはどうなっているんだ? 

 まあ、こんなにやる気のあるやつだとは思わなかった。生徒会では……まあ、周りが高位貴族ばかりだから雑用押し付けられていたんだろう。発言などできないよな。


「よし、エース。学園で俺がコーチング・スチューデントをしている騎士コースに来い。俺が参加を認めてやる。いいですよね、ドンケル先生」


 まったく、存在感消してみているなんて。ほら、エースが驚いているぞ。


「せ、先生、いつの間に」


「こんにちは、エース君。そうですか、レイシア君とそのようなことが。ふふふ。よろしいですよ。私とアルフレッド君が鍛えてあげましょう。その代わり、学問もトップを目指しなさい。同じターナーの女子に追いついていませんよね。もちろん騎士コースでは一番を目指すのですよ。君は総合力で評価されただけですから。来年奨学生から外れたら許しませんよ」


 すまん。本気で育てる気だ。まあ、頑張れよ。レイシアと弟を敵に回すよりはましだと思え。本当にあいつらときたら。


「では、励むことだ。俺をがっかりさせるなよ。訓練に戻れ」


 エースは、素敵な笑顔で戻っていった。



「さて、別室で話をしましょう。いいですね、ドンケル先生、ガーン大隊長」


 貴賓室に移動し、人払いをさせた。


「帝国はどうなっている、暗闇」


 面倒なやり取りは無駄だ。分かっているだろう?


「はい。キャロライナ殿下の婚約者、第三皇子ライオット様のおかげで第二皇子派が焦りを見せております。第一王子派であるライオット様が我が王国と懇意になれば、武力派は弱体化しますからね」


「それで、いろいろ画策していると」


「ええ。情報によれば、レイシア様を第二皇子の側室に向え、魔導兵器を開発させるのはどうかと考える輩も出てきております」


「レイシアの情報が漏れているのか?」


「騎士団にもおりましたでしょう、あなたの元上司ですよ大隊長」


 ああ、レイシアがぶっ飛ばした。


「まあ、そんなにいじめるな。どうしても潜り込むのがエージェントというものだろう。王国からも送り込んでいるしな。教会も信用できないし」


 レイシアまで巻き込まれたか。


「まあ、騎士団、軍部といがみ合っている所ではない。平和な時にじゃれ合いしているのはいいが、ここから先はどう動くか分からない状況だ。国内の小競り合いとはわけが違う。非常時と覚悟を決めて、お互いのプライドより、国の安定のため協力するように、特に情報の共有は必須だ。俺が認めたお前たちが、軍と騎士団の懸け橋となり、我が国と民を守ってくれ。これは命令であり、俺からの願いだ。頼む協力してくれ」


 伝わったか? 信用してるぞ。


 こんなこと、レイシアにもアリアにも知られたくない。できれば、姉もただただ普通に幸せになって欲しい。


 俺が国を守る。そのためにはお前たちの力が必要だ。


 そして、長い長い話し合いが行われたが、ここでは秘密にさせてもらおう。

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貧乏奨学生レイシア 閑話集7 王子・王女(王家) みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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