074 tr21, spetic bites/腐敗の咬合

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【AD:2118年, 革命新暦:196年、秋】



最初の”お人形の会”以降、表面上は平穏な日々が続いた。

僕は外棟への侵入を繰り返し、設備の配置や警備の周期に詳しくなった。

リザは凸凹コンビを使い、彼らの進捗を確かめながら僕たちに関する計画を探っている。

ユリアは名目とはいえ趣味で始めた人形を作るため、なんと07のアーちゃんと仲良くなってスケッチを重ねているみたい。

彼女も思うところがあるようで会に出てもらった方がよさそう、というのがユリアの意見。


「アーちゃん、隣いい?」

「あっ、シティア。ちょうど良かった、私も話したかった。

 アンタ、別棟の上の階へ行ったって本当?」

「うーん、その話はランニングでもしながらか、どっちかの部屋でした方が良いと思うけど」

「この体力バカが…いいわよ、今晩そっちの部屋に行ってあげる」

「僕の部屋なら、ドラクルとグリゴリに気を付けてね。

 いつも見張ってるみたいだから」

「人気者ね」

「モテはつらいよ、ははは」

「またいい加減なことを…」


「入っていいよ、大変だったでしょ?」

「全く気持ち悪いわねアイツら、よっぽどヒマなのかしら…」

「自由時間は自己裁量だからね。それで話って?」

「別棟の上階の話。

 アンタまさか、ヴォルケイン様に会いに行ってるんじゃないでしょうね」

「まさか、全然違うよ。

 そういえばケーにいちゃん、しばらく見ないねぇ。

 アベル様は相変わらず表に出ないけど」

「そう、ならまあいいわ。

 じゃあ何しに行ってるわけ?時々行くのを見かけるし」

「んー、聞くと多分戻れなくなるけど、いい?」

「構わないわ。ユリアにそれとなく聞いてる。消息者関連なんでしょ?」

「そこまで知ってるなら教えてもいいかな。でも絶対に職員や他の候補生、特にドラクルとグリゴリには悟られないように。いい?」

…コクコク

「それからユリアのほかにリザとも情報共有してるから、出来れば皆いる時に話した方がいいかな。

 リザには確認しておくから、次の”お人形の会”に出てもらえる?」

「分かったわ。

 実は私もね、その関連の情報に心当たりあるの」

「まだ方針も決めてないから、慌てなくていいよ。

 じゃあ、またね」



「いらっしゃい、二人には説明しておいたから早速始めようか。

このスケッチブックを見て。

 これは、別棟の上にある渡り廊下から先にある『外棟』の全体図。

 あそこの壁、実は外側が建物になってて、施設内部においておけないような研究設備とか実験エリアは向こうにあるんだ」

「…まさか」

「うん、アーちゃん以外の07は向こうに居た。

 15才で候補生になれなかった子達も『保留』って名目で隔離されて、あんまり良くない扱いを受けてる。

 グループによっては結構な人数を押し込んでる部屋もあったし、身体もボロボロ。

ドベちゃんなんてヨダレ垂らして指も曲がったまま治療してもらえてないようだったし、悔しくて泣きそうだったよ…

 ついでに建物の外も調べたら、立派な道路と近隣集落はいくつかあったけどそのまま逃走は出来ないね。

 それから頻繁じゃないけど自動追尾式の警備システムがあるから、皆先走らないでね」


「貴女、結構無茶してるのね…

 私の方もいくつか。

 シラバスと同時にイニシエーションって言われるプログラムがあったでしょ?

 あれがようやく始まるみたい。

 内容も判ったわ。

 通常学習の前後にイニシエーション室へ入って、四方八方から針みたいな機械から電磁波を当てて脳の神経を焼き付けるシステムみたい。

 シナプス末端の伸長方向を補正する、だか、階層同士の新規回路を構築する、だったかしら。

 グリゴリが早口で捲し立ててたから、私の理解はこの程度ね。

 ドラクルからの話では、そのシステムの構築で一部消息不明者を実験体として使ってたみたいで、そこに14も含まれてたって話。

 『出荷』の件と合わせても整合性はあるけど、そんなに人数必要なのかしらね」


「…ちょっとゴメン、混乱してる。

 え、じゃあアタシのいた07グループも皆いるの?」

「人数までは把握してないけど、10人近くいたかな。

 女の子たちは比較的マシな扱いだったけど、それでも頻繁に職員は性の捌け口にしてたみたい。

 男の子は…暴力を受けた痕の残る子が多いし、実験後も治療していないようなすごい子もいた…

 僕らのいる環境はうんと恵まれてるって、改めてわかった。

 そうだ、04にスーちゃんもトゥリちゃんも居たよ」


「うん、私も実はシャスちゃんシスくんと仲良くなったから、一緒に彼女たちの部屋を開けてみたの。

 シャスちゃんは鍵開け上手ね」

「いつの間に…あ、もしかしてお人形の細工の話で?」

「そうそう、最近二人は独房から解放されたでしょ?

 出てきたときにその話を振って、使った細工人形の出来栄えを見てもらうついでに来てもらったの」

「そっか、そっちも仲良くなってよかったね」

「うん、話してみると案外悪い子達じゃないのよね。ちょっと臆病で自分から動けないだけで。

 それでね、お部屋の方は…サルがいたの」

「えっ、サルって10のエテ公?」

「うん、あいつ、部屋に忍び込んでは自慰に耽ってたみたい…寒気がする」

「あいつ、なぜか年中性欲爆発してるよねぇ」

「女の子の方見る時は必ず胸をじーっと見てからニヤニヤして視線を落とすし、それに何か普通の人間とは違う感じがする」

「生物的に人間の敵よね」

「同感」

「嫌われたもんだね…ここのメンバーでアイツと意思疎通できるの、僕だけか。

 そのうち、どうやって忍び込んでるのか聞いておくよ」

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