073 tr20, death in the afternoon/とある午後の、死
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【AD:2118年, 革命新暦:196年、夏】
「…私も、伝えておきたいことがあるの」
意を決したようにリザが語る。
「それほど大したことじゃないんだけれど。
やっぱり特別棟に消えて行った14の子達の行方が気になってたから、ドラクルとグリゴリにそれとなく探るよう言ってあったの。
あいつら張り切っちゃって、研究員や博士たちに聞いて回ったみたい、それとなくって言ったのにね…
だけど、そのおかげで彼女たちの行方が分かったわ。
『出荷』されたって。
つまり、この施設の外部に連れ出されたって事。
そのままだと健康状態も良くないし、色々実験も施し、それから記憶を消して健康に見えるよう身体も調整して、また別棟の上階…今の話だと外棟経由で出て行くのかしらね。
特別棟はね、研究員たちの上司に当たる博士がメインで研究してる。
例の二人は、自ら進んで実験動物になりに行っている。
そんなに急がなくても、イニシエーションやら何やらでどうせいじくりまわされるのに、何したいのかしらね」
「そういうリザちゃんだって、その義眼はいづれ何か移植するんでしょ?」
「そうね…メンテナンスや交換の手間を考えると、生体移植でメンテフリーのものにしたいわ。
他にも気になる事がいくつかあるんだけど…その前に、ユリアのお話も聞いたほうが良さそうね」
「うん、ありがとうリザちゃん。
私もシーちゃんのお話を今聞いて心当たりがあるの。
スエミさんやトゥリナータッチさんの部屋から聞こえる音は、もしかしたら彼女たちがいるからじゃないかもしれない。
だって、どっちの部屋からも音がするもの。
それならシーちゃんの言った外棟の04は誰?ってなるわ」
「いや、まだわからないよ。
だって候補生以外の番号もあったから」
「それはそうだけど…でもあの二人、結局資料を受け取ってないからシラバスもイニシエーションの対象も知らないはずだし、これからどうするんだろう。
さすがにちょっと一人で彼女たちの部屋を無理に開けるのは怖いし、確かめようもないわ…」
「…そうか、04も他の2名は消息不明になっていたか。
ユリア、辛かったな」
「うん、ありがとうリザ。
リザもそうかもしれないけどね、私たちグループの中で近くに居れば反目しあってても、やっぱり同じ環境で育った仲間なんだよ。
居ればケンカだってするけど、何かあったらちゃんと心配だってする。
特にあの二人、放っておくと危なっかしくてさ…」
「はは、考える事は同じなんだな。
私も他のグループの連中とは普段から反りが合わなかったが、それでもいないと不安だし、心配もする。
結局、同じところで育った姉妹なんだよ」
「僕はグループの子達と仲良くしてたつもりなんだけど、ドベちゃんはどんどん変わって行っちゃって…
やっぱり、これから助けに行くべきだと思う。
セキュリティも甘かったし、きっとドベちゃんや04、14の残りの子だって…」
「待ちなさいシティア、それ以上は言っちゃだめ!
よく考えなさい、その施設から脱出したとして、彼女たちはこれからどうするの?」
「えっ…僕らの部屋に匿う?」
「じゃあ上手く脱出できたとしましょう、首尾よく私たちの部屋に匿ったとしましょう、その後どうするの?」
「えっと…一緒に住む。酷い事されるのは嫌」
「シティア、現実を見なさい。
私たちはあと4年で異世界へ転移される。
奇跡的にそれまで一緒に住めたとして、その先は無いわ。
本当に今だけ、自分が満足すればいいだけになってしまう。
これは貴方の言う愛玩動物と何が違うの?」
「リザ、保留の子達を助けるのはそんなに悪いの?
外の世界に逃してあげるとか、何か方法はあるかもしれないじゃない」
「ユリア、貴女も考えを改めなさい。
外の世界の事、貴女はどれだけ知ってる?」
「えと…森林が広がってて…」
「何故こんな田舎に施設があるか考えたことある?ここは中央からほど遠い、相当の地方よ。
備え無し、考え無しに外に出たところで、良くて近隣農奴村落の慰み者。
そのまま考えれば肉食獣の餌食ね。
ここで保護されていれば、少なくとも直ぐに尊厳を損なわれることは無いわ。
例え出荷されたとしても…きっと直ぐに死ぬことはないわ…。
だ、だから今すぐ、あの子たちに手を出せる事は無い、と思う…。
お願い…少しだけ時間が欲しいの…」
ハンカチを差し出し、少しだけ抱きしめ、気持ちが落ち着くのを待ってから話を受け継ぐ。
「ごめんねリザ、一番つらい役をさせてしまって。
今回偶々内情は判ったけれど、緊急に手を打たなきゃいけない事には見えなかった。
僕も見たときは飛び出しそうになったし、ユリアだって知ってしまった以上直ぐに何とかしたいだろうけど、一番身近なのはリザだよ。
判った。
僕はもっと外棟を調査する。
まだ推測してるだけの事が多すぎる。もっと情報が欲しい。」
「…ぐすっ、申し訳ない、取り乱した。
私は、引き続き研究員や博士の情報を探ろう。
ドラクルやグリゴリだけでなく皆の動向も気になるが、この話は外向きだ。
この期に及んで動きのないヴォルケインやアベル様、博士たちの考えが気になる。」
「私は…何ができるかしら…。
皆の安全を願う?ううん、そんな乙女な事は赦されないわ…
そうだ、定期的に”お人形の会”を開いて、情報交換しない?」
「良い考えだな、課外活動としても不自然さはない」
「うん、僕もリザちゃんの意見に賛成。
進捗が無くてもいいから、定期的に集まってお話ししよう」
…その年の秋、イニシエーションプログラムの活動開始が宣言された。
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