始まり
第7話 コモン王国
4人の意識が戻る頃には、既にXの世界に転移していたようで、視界の真ん中に、2秒間程白い文字で『コモン王国_中央広場_』と表示され、ゆっくりと消えていった。
4人は暫くボーッとしていたが、直ぐに脳が正常に動き出して、急いで互いの安否と周囲の確認をする。互いに何の異常もなく、服装は神から貰った装備に変わっている。元着ていた服は、アイテムボックスという機能の中にあった。仕組みは分からないが、アイテムを押せばパッと手の上に乗ってくる。
今、4人がいる場所は円形の広場の中央らしい。4人は大きな噴水を背にして突っ立っている。広場の外にはレンガで出来た家と、店が並んでいて、中世・近世ヨーロッパのような国だった。ランスが感覚でマップを開くと、コモン王国の大体の形が映っていた。4人はマップのちょうど真ん中にいる。
そこから北が王宮などがある、貴族ブロック。
中央の東が店や組合が多く並ぶ商業ブロック。
中央の北が平民の住宅地になっている生活ブロック。
中央の西が平民にもなれなかった貧民と冒険者の宿がある貧民ブロック。
貧民ブロックは貴族からはゴミ箱等と呼ばれている。貴族ブロックと貧民ブロックは隣ということもあって、偶に貴族が貧民ブロックに向けてゴミをこっそり投げたり、直接冷やかしに行ったりする。
冒険者の宿が貧民ブロックにあるあたり、貴族からはあまり冒険者はよく思われていないのだろう。
「まずは…色々登録やらなんやらするか。まだ、私達冒険者ではないらしいし。」
マップやアイテムボックスなどのいくつかの機能を開く。その中に「クエスト」という機能があったが、「冒険者登録をしてください。」と記されていた。神は手続きやらはしてくれなかった様だ。
「面倒なものだけ押し付けられた感…。」
ランスは粗方の機能を確認し終える。レインも終えたようで、レミィとヴィーネに教えている。
「何処に行くの?」
「ん~まずは此処の宿寄ってく?」
ランスはレミィに訊かれ、少し考えた後にマップの冒険者の宿を指さした。
「いや、あれ、冒険者用の宿らしいし、まずは手続きを終わらせた方がいい。」
「あ、そっか。じゃあ…冒険者組合か。」
次に商業ブロックの方にある冒険者組合を指す。手が滑って冒険者組合のアイコンに触れると、ランスの足元に緑色の足跡が出現した。足跡は東に伸びている。
「あ、触れると道案内が出るんだ。便利~。」
ランスはあの神が嫌いでもこのゲーム世界自体は嫌いではないらしく、とても楽しそうだ。
「ねえレイちゃん。」
「どうしたの。」
ランスの後に続いて歩いていると、最後尾のレインの前にいたヴィーネが足を止めて振り向いた。
「……遅くない?」
何故レインが最後尾なのか、それは別に通学班の副班長のような役割というわけでもなくただ単に、レインの敏捷性が0なのが原因だった。
「手繋ぐ?あ、背負う?」
「多分、手を繋いでどうにかなるようなものでもないし、ヴィーネの筋力だと人持てないよ。」
「ああ、そっか。」
少し残念そうな顔でそのままレインの先を歩く。
「てことでランス。」
「ん~?…て、レイン遠くね?」
レインに呼ばれだいぶ先を歩いていたランスが振り向く。敏捷性が一番高いランスはどう頑張っても遅いレミィ達に合わせることができないらしく、30と平均値あるレミィとヴィーネとも差がだいぶ開いている。
「お前、今すぐ戻って私を背負え。」
「うっそ⁉」
面倒だと思いながらもレインがいる位置まで戻る。思ったよりもすぐに着いたので、そこまで距離は開いてなかったかとも思ったが、明らかに100m以上開いていたので、すべて敏捷性の影響だとすぐに思い返した。
「ねえ、レイン。せめてさ、武器は仕舞ってくれん?」
「仕方ないなぁ…。」
面倒くさそうに武器をアイテムボックスにしまう。
レインからしたら大して重くはなかったのだが、ランスからしたら10㎏程に感じる。
この重さは、グリモワール本体が2.5㎏、グリモワールに入っているMPの質量が2.5㎏、そしてレインのMPの質量が5㎏程ある為だった。所有者には重さが15分の1に軽減するので、レインがグリモワールの重みを感じることはほぼないのだ。
「あ、だいぶ楽になった。」
レインを運びながら冒険者組合に向かう。
1分程歩くと大きな建物に着いた。看板には『冒険者組合』と書かれている。
中に入ると、初心者とみられる冒険者が大勢いた。皆、レミィ達が着ているのと比べシンプルで付与されているバフも少なそうな装備をしていた。
ランスを先頭に受付に行って登録手続きを申し込む。その際、近くで手続きしていた者と受付の者に驚愕の顔が浮かんでいたが、ランス達は気づかずに手続きを進める。
「じゃあ手続きはお前に任せた。私ちょっと冒険者達に色々聞いてくる。」
「は⁉ちょ…ええ?」
完全にレインに任せる気だったランスは困惑したまま小難しい書類に目を向ける。レインはその間、組合内にいたなるべく経験豊富そうな冒険者に何か聞いているようだ。
__数分後__
「レイン、終わったよー。」
「ん?あ、終わったんだ。」
手続きが終わり、冒険者として正式に活動できるようになった。4人はパーティとして組まれている。
「パーティ…名前とかあるの?」
「うん。ロローゼってなった。」
「ロローゼ?」
「660。皆の誕生日足した。」
「適当だなあ。」
「結構悩んだんだが⁉」
ランスはレインにパーティの紋章ブローチを見せる。
「君達がレイン君のお仲間かい?」
レインの後ろの机にいた鎧を着た冒険者が口を開く。どうやらレインはこの冒険者と話していたらしい。同じ机にその冒険者のパーティの仲間とみられる冒険者もいた。
「この人達は?」
「色々教えてくれた先輩さん。」
レミィがランスの後ろからレインに問いかけられた。
「レオというパーティで活動している冒険者だ。リーダーのギードだ。よろしく。」
「シビィよ。」
「ルキ。」
「ダージです。よろしく。」
ギード達は随分親しげで大分レインと打ち解けたらしい。
「さっき登録したばかりなんだね。」
「あ、そうなんです。」
「ああ、そんな堅くならなくていいよ。」
「あ、そうなん?んじゃ、遠慮なく。」
堅苦しいのが苦手なランスはすぐに丁寧な対応をやめる。レミィとヴィーネは流石に早くないかとも思うが、いつも通りなので口には出さなかった。
「名前…何ていうの?」
ルキが問いかける。
「ああ、そだった。すまん。わい、ランスってゆーよ。」
「あ、れ、レミィです!」
「ヴィーネです、よろしくお願いします。」
レミィとヴィーネは流石に慣れないのか未だ丁寧な口調である。
「貴方達は幼馴染みたいな感じかしら?」
シビィは机に肘をつきながら、酒を嗜んでいる。今は、真昼間なのだが、レオは大分暇らしい。
「そう…だね。私とランスは9歳から、ヴィーネとレミィとは11歳からだけど。」
「僕とレミィは4歳からずっとです。」
「あら、じゃあ大分ずっと一緒にいるのねえ~。微笑ましいわあ~。」
シビィがランス達を順番に撫でる。
「流石に急に撫でるのは失礼じゃないかい?」
ダージが遠慮気味にシビィに言う。シビィはレオの中で権力を持っているのか注意するのは怖いらしい。
「あら、そう?嫌だった?」
「え、いや全くそんなことないよ~。暫く撫でられるなんてなかったし。」
シビィは撫でるのを一旦やめるが、ランスが嫌がっていないと分かるとまた再開した。レインも話しかけた瞬間からずっと撫でられているらしく少し髪が乱れていた。
「レイちゃん、髪結びなおそうか?」
「…ありがとう。」
「あらごめんなさい。ちょっとやりすぎたわね。」
結んでいた髪を解いてヴィーネに託す。
「いや、大丈夫。撫でられるのは普通に好きだし。」
「ふふふ、よかったわあ。娘ができたらこんな感じなのかしら?」
今手が空いているランスとレミィを撫でる。
「娘って…今何歳なんですか?」
「ん?まだピチピチの20歳よ?」
「まだ娘とか言える年齢じゃないじゃないですか。」
「そうね、でも将来があるでしょ?予行練習よ。」
微妙に納得したようなしていないような絶妙なところだが、本人がそのつもりでやっているのならそうなのだろうと、レミィはこれ以上考えないようにした。
「君達、今登録したばかり?」
「そ~難しい話ばっかだった~。」
ルキは持っている斧を握りしめながらボソボソと話す。どうやら、ルキは人と関わるのは苦手らしい。
「お疲れ。」
「レインがやってくれたらもっと早かった筈なんに…。」
立っているのが疲れたのか、ランスは近くの木の椅子に座る。その様子を見て、ギードがそろそろ切り上げると言って、レオの4人は冒険者ギルドから出ていった。
「私達はどうすんの?」
「さっきクエスト?っていうの貰ってきたの。それをやろうかなって。」
ヴィーネが2枚の紙をレインに渡す。
1枚目には『バブルスライム討伐』、2枚目には『パピーリオアルヴォアの樹液塊の採掘』と書かれていた。
「へえ。じゃあもう行く?」
「うん。なんか、そろそろ日落ちそうだし、早く宿代稼がなきゃ。」
レミィはギルドの窓から空を覗く。レミィの言う通り、日は少し西側に傾き色が赤みがかってきていた。
「よし、じゃあ初クエストだ!はよ行こー!」
「わ、待ってランスちゃん!」
The world built by X RPG 形の歪んだ絵 @yugami5027
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