第6話 装備と転移
足音がしてから10秒ほどで、また神の姿が4人の目に映った。
『決まったみたいね。』
神は変わらず機械のような、感情のない声で喋る。
「…今度は何の用?」
ランスは無意識に声が低くなる。勝手な理由で転移させられたのが、無性に腹が立つのだ。
『プレゼントを渡そうと思って。開けてみて。』
神は、ランスの不機嫌には目を向けずに、4つのプレゼントボックスを出した。神が手を動かすと、それは4人それぞれの手の上に置かれた。
「…中身は?」
レインが不信感丸出しで問いかける。
無理もない。気分で人の人生を変える奴の贈り物など、素直に受け取れる筈もない。逆に、レインとランスの隣で、言われるがままに開けようとするレミィとヴィーネの方がおかしいのだ。
『Xで冒険者として生きていく為の装備と、Xで使える通貨。5000Pね。』
「本当にそれだけ?」
『ええ。それだけよ。』
レインはそれでも暫く疑いの目を向けていたが、ランスの方に目を向けると、ランスは「もういいだろう。」というように頷いた。その動きを確認すると、念の為、互いに少し距離をとって箱を開ける。
開けてみると、本当に装備と通貨だけだった。装備はそれぞれデザインも性能も違うもので、4人とも装備の説明を一つ一つ見ていく。
レミィは、花が所々に散りばめられた装備で、蔓がベルトの部分に緩く巻き付けられていて、色とりどりの花が咲いている。武器は白い木材でできた扉がついた大盾。水と一輪の花が入った大きく透明な宝石がついている。
ランスは、胸にダイヤモンドが目立つ鎧と黒地に細く赤いラインが入った長いコートと同じデザインのフード。武器は刃がダイヤモンドで出来た短剣。柄の両方から刃が出ている。
レインは、白と水色の海兵のようなワンピースと、背中に大きな青い錨が刺繍された白いクローク。武器は、現実ではありえない程の大きさの真珠が嵌め込まれた魔導書。
ヴィーネは、神父やシスターのような服で、所々に十字架がデザインされていた。背中には小さな天使の羽が生えていて動かせるようだ。武器は、4人よりも大きい杖で、ヘマタイトが大きな十字架の形に象られている。
それぞれの装備には、ステータスの強化やスキルが組み込まれていた。
神に気に入られた不憫な4人へのせめてもの情けか、それとも、良い余興にするための準備かは知らないが、どちらにせよこの神が、4人にモンスターと戦って生きてほしいということ、それに対してランスとレインが怒りを覚えたのも分かった。
レベル1に合わない強力な装備を与えるところ、簡単に死なせる心算などないのだろう。
『その装備があれば、レベル1から最強みたいなものよ。ほら、よくあるじゃない。異世界チートっていうの。』
機械のような声だというのに、まるで笑っているかのように弾んでいるように聞こえる。
ランスは何度か堪えた怒りを爆散させようと一歩前に出るが、またレインが止める。レインも、怒りを必死に堪えている様で唇を強く嚙んで、無表情を突き通している。少しだけ不満そうにレインを見つめるが、ここで怒りをぶつけて、神の気に触れれば…そう考えた結果、ランスも必死に抑えることにした。
『さあ、精々楽しんできてね。
そして…
私を楽しませるのも、忘れずに。』
その楽しげな声を聞いてから、4人の意識は落ちた。
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