第9話呪い耐性

「――よし、勝負だ!」




 俺は目の前に落ちた茶色の鳥を見ながら宣言した。


 俺がほくほく顔で鳥を掴み上げると、アズマネ様が喜んだ。




「お手柄! バンジ。今日の昼飯はその鳥じゃな!」

「えぇ、ここには少しですけど野菜もありますから、焼き鳥かなんかにしてみますか!」




 俺はこの鳥をどう料理するかを考えながら、この世界の自然の豊かさに思いを馳せた。




 この世界に来てはや五日。この世界は獣が豊富であるのか、あまり労せずに獲物は獲れ続けて続けていた。


 おかげでまだ人里にも降りていないのに、俺のアイテムボックスには様々な獣や野菜が並び、調味料さえあれば食うに事欠かない生活を送っていた。




「どれどれ、今のでレベルは上がったかな……」




 俺は期待しながらステータス画面を開いた。




【名前】西根萬治


【Lv】23


【職業】無職


【所属】なし


【獲得スキル】解体、精肉、料理、道具加工、初級魔法Lv.3、呪い耐性


【固有スキル】隠密、斥候、精密射撃




「うーむ、レベルは23か……結構上がったなぁ……」




 俺は唸り声を上げて己の成長を目にした。


 どうやら、この世界では獣を仕留める度にレベルが上がっていくものらしい。


 アズマネ様に呆れられた通り、俺にはあまりRPGゲームの知識が乏しいのだけれど、それでも便利なものだと唸らざるを得ない。




「しかし、この呪い耐性ってなんだ?」




 俺は画面を見ながら首を傾げた。


 そう、結構成長したと思える己のステータスの中でも、ひときわ目を惹くそれ。


 確かこれはあのツノウサギを狩り、そして食べた後から追加されていたと思うのだけれど……。




「アズマネ様、この呪い耐性ってなんなんですか?」

「文字通り、の意味じゃろ。そなたは何らかの呪いに対して耐性を獲得した。それ以上は妾にもようわからん。この世界は妾が監督する世界ではないのでな」

「はぁ、アズマネ様にもわからない謎のステータスかぁ。いつ獲得したんだろうなぁ」




 俺はその謎のステータスを見ながら考えた。


 最初の邂逅以来、俺はあのツノウサギのような異世界の動物には出会っていなかった。


 今までの五日間で獲ってきた生物は全て色や形は違えど、大きさや習性は普通の動物のもので、あれほど巨大で、あれほど凶暴な動物はいなかった。




「もしかして……あのツノウサギみたいな獣を食べたからこのステータスが増えたのか?」




 畢竟ひっきょう、俺はその結論に達しかけていた。


 何しろ、あのツノウサギは間違いなく俺を殺そうとしていたし、大きさも尋常ではなかった。


 あのツノウサギを倒したらレベルが一気に五も上がったし、その肉を食べたことで謎のステータスも追加された。


 よくわからないが――あのツノウサギはこの世界においてもかなり特殊な獣であるらしい。




 うーん、まだまだわからないことばっかりだな、この世界は。


 まぁいい、今はあまり根を詰めて考えても仕方がない。


 いずれわかるようになるさ、と楽観しようと決めた――その時だった。




 キャーッ! という、まるで絹を引き裂くような悲鳴が聞こえ、俺ははっと虚空を仰いだ。




「え、何だ……!?」




 今のは、明らかに人間の悲鳴だった。


 俺は思わず傍らにあった村田銃を手元に引き寄せると、ウオッ! とアズマネ様が吠えた。




「おお、今のは女子おなごの悲鳴じゃの! どうやらこのへんでようやっと異世界チート無双の始まりのようじゃな!」

「い、異世界チート無双……!? アズマネ様、何言ってるんですか!?」

「何を申すか! 何を言っとるかわからんのはそなたの方じゃぞバンジ!」




 アズマネ様は興味津々、という目の輝きと共に俺を見た。




「異世界に来たらチートなスキルで敵をちぎっては投げちぎっては投げして俺TUEEEと無双するもんじゃろうが! 全く、そなたは本当に転生のさせ甲斐のない男じゃのぉ! 一番盛り上がるところではないか!!」

「え、えぇ……!? そ、そんな風に怒られるの人生で初めてなんですけど……! っていうかやっぱり横文字多ッ……!」

「とりあえず征け、バンジ! 人の悲鳴じゃぞ! チート無双じゃチート無双! 妾にも早う見せてみよ!」

「ま、全く、なんか調子狂う山の神様だな……! くそっ、とりあえず行って見るか……!」




 俺は命綱である村田銃を両手に抱えたまま、悲鳴が聞こえた方へと駆け出した。







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