第二章 魔王

2-1 魔王誕生

 その少年は黒髪に黒い瞳をしていた。

 両親は茶色の髪に青い瞳の母、赤みを帯びた茶色の髪に琥珀色の瞳の父。

 その祖父母も朝焼けの髪色に茶色の瞳であり、誰も少年の色を持っていなかった。

 闇に溶け込むとその白い顔だけが浮かび上がる。

 気味が悪い。

 村の誰も、少年と同じ色を持つものはいなかった。


 少年は家族からも虐げられ、家を追い出されることはなかったが扱いは、奴隷のそれだった。

 新しい服など買ってもらえず、服は小さくなり、ところどころ破れていた。

 水浴びをたまにしても黒い髪は、うなり、蛇のようで、家族から村の皆から嫌われ虐げられていた。


 殴られ、蹴られ、食事は腐っているものか、家畜にやるようなもの。

 寝る場所は家畜と同じ。


 怪我をしても心配してくれるものなどおらず、痛みをこらえて地面を転げるのみ。


 そうして彼は生きてきた。

 ある時、少年は誤って長老の孫が大切にしている置物を割ってしまった。

 街から取り寄せた貴重な置物で、孫はとても大切にしていた。

 怒る狂った孫は薪を切るための斧で、少年を切りつけた。

 力仕事を人に任せてきた孫には力が足りない。

 おかげで、斧は少年の頭を勝ち割ることなく、その肩に深々と刺さった。血が噴き出し、孫は不意に我に返って悲鳴を上げた。

 その声に反応して、長老が、その息子夫婦が、村人が家から出てきた。

 血を噴き出して、地面に倒れ込む少年。

 同情する者などいなかった。

 ただ皆驚いた顔をしていた。


「こ、こいつが悪いんだ。俺を殺そうとして!」


 孫がそう言い、驚きから長老の顔が憤怒に代わる。それは息子夫婦、村人に伝染していく。


「殺せ、殺せ!」


 殺気だった者たちはそう叫び、それぞれ己の得物を持ち寄る。


「……お、れ」


 肩に斧が刺さった状態で、少年がゆっくりと立ち上がる。そして全身が黒色に染まっていく。


「ひぃい!」


 孫が最初に悲鳴を上げ、その恐怖は伝達する。

 得物を持ちながら震える村人。

 その中で長老だけが我を保ち、剣を振りかざし、少年に切りかかった。

 少年の頭から首にかけて大きく剣を振り下ろす。完全に致命傷を与えたはずだった。

 しかし、少年は倒れなかった。


「おれ、は、死なない」


 少年だったもの、黒い人型のものがにやりと笑い、今度こそ村長が悲鳴を上げた。


「ま、魔物だ!」


 村長が我先に逃げ始め、先を争うように村人が駆け出す。


「ダ、ダメダ。コロス。ミンナ、コロス」


 黒い異形は瞬時に村長の前に回り込み、その首を掴む。そしてへし折った。


「ツギハ、オマエカ」


 黒の異形は背中から黒い羽根をはやす。宙を飛び逃げ惑う村人に襲い掛かり、頭をつぶしたり、首を刎ね飛ばしたりして、殺していく。

 そうして死体の山を築き上げるのだが、その死体は色を変えていき、黒色に塗りつぶされていく。そうして、異形となり一体、また一体と立ち上がる。

 それを見た生き残った村人はさらなる悲鳴を上げて、逃げた。


 その日、魔王が誕生し、魔物がこの世界に生み出された。


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