3作目 夜桜の下で、もう一度。

https://kakuyomu.jp/works/16818093075060019419

作者:森メメント様https://kakuyomu.jp/users/higuchi55


 第一印象が、「すごい作品が来たな」でした。重厚感あふれるテンポとそれらの背景に広がる広大な世界観が魅力的でした。幕末の設定ということで、現在と異なるため、込み入ったコメントができなかったのが申し訳なかったです。

 以下抜粋です。(元は4000字程度)


 この度は自主企画へのご参加ありがとうございました。


 今回は医療に関連する部分で、気づいた点をお知らせするのと、通常の意見・ご感想ということで承りました。とは言いましても、特に小説一般の内容につきましては非常に洗練されており、ほとんど指摘できる部分はありませんでした。私にできることは残念ながら、森メメントさまの作品の良さを改めて強調することになりそうです。医学に関連しましては言える範囲内で関連する事柄など、その他豆知識なども含めてお伝えできればと思います。


②冒頭部分

 「冒頭に死体を置け」とはよく言ったものですが、見事に死体が置けています。予想外のことが起き、しかも刺されている。出だしのインパクトは抜群です。敢えて改善案を絞り出してご提案するとすれば


"(傷は浅いが、痛むな)"


 は「浅い」と言ってしまっていますが、実際は浅かったとしても、読者にとっては伏せておくという方法もあります。数分後に死にかねない致命傷かもしれない、という可能性を残しておく方が引き込まれやすいと思われます。


"(よりによって●●か、さすがに痛むな)”

"(よりによって●●か、△△だったら避けられたんだが)”

など。


④"もはや以前のような若さを失っている源助にとっては癒えるまでに時間がかかりそうな傷でもあった"

 こちらも②同様、致命傷かもしれない、という可能性を残すという方法もあります。"癒える"と言ってしまうと、どうせ治るんだろう、という印象が強くなります。

"……若さを失っている源助にとっては軽く見過ごせるものではなかった"

 など。


⑤"非力な少女の力では脇差で肋骨を折ることができずに、そのまま体の外側の肉を裂くだけに止まる……少なくとも、源助の肉を幾らかそぎ落とすくらいには"


○〜△判定

 森メメント様のタッチが絶妙なため、この表現自体が正確に事実を説明しているのか、ある意味比喩というかニュアンスを含んでいるのか、良い意味でぼかされていると感じます。ですので、ここは正確性を追求しなくとも、いいかもしれません。「肉を切らせて骨を断つ」という言葉が本当に肉を切っているわけではないですからね。


 ただ敢えて考察しますと、

「肋骨を折る」

 ナイフ、包丁などの刃物で肋骨を折ることができるかというとかなり難しいように思えます。動物の骨も包丁で砕くのは難しいのと同じです。おそらく胸部に対し刃物で致命傷を与えるには刃物を肋骨に水平にして、肋骨を避けるように刺す必要があると思われます。それも斜めに入ると途中でやはり肋骨にあたるので、しっかりと水平に入れる必要があり、これを一発でこなすのはやはりプロでないと難しいように思われます。いわゆるめった刺しであれば何回かに一回は入るかもしれません。腹部(お腹)であれば肋骨がないので、ズブズブ入りたい放題です。


「肉を裂く」

 胸部の構造としましては外から皮膚、真皮、脂肪の層、筋肉の層、肋骨の間の肋間筋があり、胸膜などを経て、肺が入っている胸腔というスペースに到達します。ここでいう「肉を裂く」の肉がどれにあたるのか、疑問は残ります。「筋肉」が刃物で裂けることはないかと思います。

 しかしこれを正確に言おうとすると、興醒めするようにも思えます。一般的には脂肪組織のことを「余分なお肉」と言ったりしますし、ここで言う「肉」というのが比喩的に「自分の体の何らかの組織」を指すのであれば問題はないかと思います。


 森メメント様のように表現が滑らかで流れがスムーズですと、仮に少し現実的に正しくない表現でも、うまく勢いで持っていけてしまうのです。有名な映画や漫画、ドラマでもそういった現象は時折見られます。それはエンターテイメントとしては私は許容範囲だと思っています。


 敢えて代替案を提案差し上げるとしたら、

""非力な少女の力では脇差で内臓を突くことはできずに、そのまま皮膚を多少抉るだけに止まる。"

 などでしょうか。敢えて内臓という俗語を使うことによってぼかし、後半は他にも言い方はあるかもしれません。


 その他、少しでも思いつく豆知識を残しておきます。


「刺されてすぐ、『うっ』となって倒れることはないのではないか」

 ドラマで刺されてから、『うっ』といいながら、何もできずに即座にバタンと倒れるシーンがあります。あれはないんじゃないかと思っています。そもそも、バタンと倒れるということは頭の血液が足りなくなっているということですが、今まで普通に生きていた人が、そこまでいくにはよほど大動脈をしっかり破損しない限りは少なくとも数十分はもつと思われます。特に腹部を刺しただけでは大動脈を損傷させるのは難しいですから、それだけで数秒で倒れることはないかと思います。痛みで驚いて、迷走神経反射のような状態になることはありえるかもしれません。

 しかし拳銃は別です。以前優秀な若い警察官が、一発の銃弾で死んだというニュースがありました。安倍さんも記憶に新しいですよね。銃弾がただ肺を貫いたというだけであれば死に至ることはほとんどなかったでしょう。しかし、運悪く大動脈を貫いてしまうと、高圧洗浄レベルの圧がかかった血管に穴があいてしまうわけです。大量の血液が漏れ出し、今度はその血液が他の臓器を圧迫してしまいます。しかも治療法はその太い血管を人工のものに付け替えるわけですが、それが終わるまで大量の血液が流れ続けるわけです。何分もつのか、想像もつきませんが、1時間もかかっていたら、かなり危ないのではないでしょうか。

 

まとめ

 この作品を読まれた多くの方が、続きが気になるとおっしゃっているのと同じく、私もぜひ長編を読みたいと思いました。実際に書かれたのが4作品のみということが信じられないくらい洗練された作品と感じました。ぜひ多数のコンテストに応募していただきたいと思いました。これからのご活躍を期待しております。

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