九頭竜ナオキ編

第28話 誤解

「静かだな」

 いろいろと騒がしかった土曜日から一転、日曜日はのんびりと過ごしたハジメ。

 月曜日。

 ハジメは、いつものように仕事場へと向かった。

 タイムカードの場所に誰かがいる。待ち構えていたのは、ナオキ。フルネームは九頭竜くずりゅうナオキ。神薙かんなぎの家に勤める医師だ。

「……」

「おはようございます」

 しかし、彼は何も言わずに去っていった。ハジメには何がなんだかわからない。


 モップの入れ物に水と消毒液を入れたハジメ。玄関の掃除そうじを終えたあと、掃除機そうじきを持って医務室の前に行った。

「ここの掃除そうじをしてもいいですか?」

「その前に、話がある」

「はい?」

 ナオキは、扉を閉めた。

 今日はほかに医師がいない。ちなみに、もう一人は女性だ。

「土曜日」

「土曜日?」

 ナオキの言葉に、ハジメは思い当たるふしがない。あるとすれば、二人の少女について。

「しらばっくれるな、あのツインテールの――」

「ああっ。まさか、あいつが何か迷惑を? 今度謝らせますから」

 ハジメは、すっかり保護者気分になっていた。マツはともかく、死神しにがみちゃんを野放しにしてはいけない。と、思い始めている。

「迷惑をかけているのはお前じゃないのか? 宝田たからだハジメ!」

わたしが、ですか?」

 ハジメは、職場ではわたしと言う。社会人の常識ならば“わたくし”なのだが、気恥ずかしさがあって言えなかった。

「いたいけな少女をつかまえて、お前は!」

 誤解されている。すぐに気づいたハジメ。

「何か誤解があるみたいですけど、違いますから。とりあえず、掃除そうじしますね」

「おい、話はまだ――」

 掃除機そうじきの音で、ナオキの声はかき消された。


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