第136話

「残念ながら、元々の常連様ではないようです。直近の数回のみのご利用しかございません。」


予想していた通りの回答だった。


「そうか。手間をかけた。」


ドルトはそのままシャンデリアにあった封書に向き合うことにした。


「席を外しましょう。」


黄昏亭のオーナーが、ペーパーナイフを卓上に置きながらそう言った。


「すまないな。」


何か、ただ事ではないと感じたのか、オーナーはメイドと共に退室した。


こういった気遣いが彼の業績を支える一端なのだろうなと思いながらも、素直に感謝する。


念の為、開封前に封書を確認しておいた。


封書の重さや手触りに違和感はない。中に入っているのは普通の便箋だろう。


ペーパーナイフで慎重に開封し、便箋を取り出した。


内容によってはまたオーナーから話を聞かなければならない。この封書や便箋を使用したであろう人物についての詳細だ。


ゆっくりと便箋を開き、文章に目を通した。


相変わらず、独特な文字が並んでいる。


おそらく、わざと角張った文字を書いているのだろう。


昨今では筆跡鑑定が犯罪などの捜査に使われる。それ対する対策を講じているということだ。わざわざ文字を偽装しても、その端々に個人を特定する何らかの特徴が残るのではないかと思うが、今の世にはそこまでの技術はないそうだ。


そもそも、比較する対象物がなければ鑑定もできないのだから、根本的に難しいはずである。


まぁ、それが可能だとしても、この相手は正体がバレるような愚を犯さない気がした。


「・・・・・・・・・・・・」


ドルトは手紙を読んで息を潜めた。


オーナーやメイドに退室してもらっていなければ、顔の変化を読み取られたかもしれない。


特に恫喝めいたことや非常識な取引について言及されているわけではないが、その内容は頭を冷静にし、表情をなくさせるに足るものだった。


『金鷲騎士団長ドルト・テッケンガー殿

芝居じみた接触となり、大変恐縮に思います。かねてより情報提供させていただいている者ですが、貴殿と同じく公共の秩序を保つために暗躍しているため、正体を伏せる必要があることをご了承いただきたい。また、当方は個人の利益を追求するものではなく、公的な機関に属する公僕であることをご理解ください。貴殿が仕える御仁が国政などにも影響を及ぼす重鎮であることは重々に承知しております。しかし、その権力に興味はなく、ただ互いの希望をかなえるための一時的な連携者として情報を活用いただければ幸いに思います。今回の封書で当方からの発信は最後となるため、事案の解決まで円滑に行われることを切に願うと同時に、これまでの御協力に感謝の念を添えさせていだだき結びの文と致します。』



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