第94話

ビジネスや男同士の対話などそれくらいのものだろう。


もちろん、共に仕事をする時間が長ければそれなりの会話も増える。友情を深めた場合も同様だ。


しかし、職責上は周囲とそういったつきあいを余儀なくされるナオにとっては、その程度があたりまえだった。


手早くソフィアの両腕を後ろに回して拘束したナオは、武器などを回収してから彼女の体を軽々と抱えて馬車へと放り込んだ。


「尋問する。立ち会ってもらえるか?」


カレンだけでなく、マイヤーにも視線をやる。


「俺もか?」


「本部の執行官が相手だ。証人は多い方がいい。」


「わかった。」


証人といっても、マイヤーはこちらのギルドで就業する職員である。


本部との関係がこじれた場合は難癖をつけられる可能性が高かった。しかし、ソフィアが容疑者だと定めたカレンやナオだけよりも多少はマシというものだ。


特にマイヤーは現役時代にこの地域以外でも活躍していた冒険者だった。実直な性格を知る者が本部にいれば、心象も変わるかもしれない。


冒険者資格は広域で有効で、その実績は共有される。


反社会的な思想や信仰を持つ者、非常識な振る舞いや著しく人間性が欠落した者は別として、冒険者ギルドに残された履歴はこういった時に大きな信用となる。


元の世界でいえば、借金やローンを組む時の個人信用情報のようなものだと思えばわかりやすいだろう。


目の前の無愛想で不器用な元冒険者も、その実績はランクに見合った輝かしいものだといえるのである。




ソフィアはそれほど時間を置かずに意識を取り戻した。


さすがは元特殊部隊員といったところだろうか。


「さすがは殴り込み部隊出身ね。尋問も暴力で行うのかしら?」


不敵な笑みを浮かべながら、ソフィアはそう言った。


蹴りを入れた所が少し腫れている。痛々しいが、カレンの頬を見ると罪悪感など芽生えない。


「人を脳筋や武闘派のようにいうのはやめてもらいたいものだな。」


殴り込み部隊というのは海兵隊の別称である。


海兵隊は有事の際に先陣を切ることで有名だ。


敵地に陸軍が上陸できるよう先鋒を切る精鋭部隊といえ、即応部隊として位置づけられている。


もちろん、平時には人道支援や災害救助も行うが、初動対応部隊としての役割が大きかった。


ゆえに、陸軍や海軍からは切込み部隊や殴り込み部隊と呼ばれ、武闘派のイメージを持たれている。


「何をいまさら···」


そう呟いたソフィアの目は視線が定まっていなかった。


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