第91話
昨日、マイヤーはソフィアと名乗る執行官から不本意な勅命を受けた。
冒険者ギルド本部から出向してきた自分たちの現地サポートをしろというものである。
マイヤーは躊躇せずに「ここのギルドマスターを通せ」と返答した。
自分とて元はBランク冒険者だ。
例え本部と支部で権威差はあれど、自分が所属しているギルドの運営部を無視するような真似は沽券に関わると理解していた。
「そう。ここのギルドマスターと執行官には、背信行為の疑いがあるの。だから私が出向いてきたと言ったら?」
「なんだと?」
マイヤーはソフィアの発言が信じられなかった。
この支部のギルドマスターは、若い女性だが管理や運営能力に優れていると評判である。
さらに、最近になって着任した執行官のおかげで冒険者の不正は激減し、これまでは水面下にあったギルド内のハラスメントも抑制されたと思う者も多いのだ。
ギルド職員の中には「働きやすくなった」「風通しの良い職場になった」と言う者も多く、今のギルドマスターが行ってきた改革が多分に影響しているのはいうまでもないだろう。
それを目の前の執行官は、その功労者ふたりに対して「背信行為の疑いがある」と言っているのである。
「聞こえなかったの?あのふたりは査問にかける予定だと言っているのよ。」
査問というのは、組織に属する者の不正や過誤を問い質すということだ。
それをギルド本部の権限を持ってこの執行官が行うと言っている。
「信じられん。」
マイヤーは思わずそう答えた。
私的なつきあいはないが、少なくともギルドマスターが有能であることは妻からも聞いている。現在の職に就けたのも彼女の口利きがあってこそだ。
もちろん、面接や過去の実績について適正な評価をされたからに違いないが、妻からの相談を真摯に受けとめたギルドマスターには少なからず感謝の念があった。
「あなたにとってはそうかもしれないけれど冷静に考えなさい。こちらの要請に応えられない場合、あなたもあのふたりと共謀していると考えるから。そうなると、間もなく出産が控えているあなたの奥さんも精神衛生上よろしくないでしょうね。」
マイヤーは出会ったばかりのこの女に嫌悪を抱かざるを得なかった。
人の弱い部分につけ込み、自身の主張を押し通そうというのだ。
「俺も査問対象にするということか?」
「査問?そんな面倒なことはしないわ。あなたの立場なら逮捕して拘留という流れで十分でしょう。」
つまり、ヒラの職員に過ぎない自分には、査問という疑惑を解明するための機会すら与えられないということだった。
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