第84話
執務室に届けられた封書を開けたカレンは、中の書面を読み終えて思考に耽っていた。
それは冒険者ギルド本部から届けられたものだが、ずいぶんと抽象的な内容だと眉を顰めるしかなかった。
何度となく重要な箇所を読み直して解読するように意味を捉え、ようやく送り主の意図を理解するに至る。
「···無茶ぶりもいいところだわ。」
軽くため息をつきながら、手もとにあるティーカップを口に運んだ。
すでに冷めてしまったハーブティーで口を潤すが、苦味やエグ味を感じてすぐに入れ直すことにした。
保温するための魔道具から鉄製のティーポットを取り上げ、カップに温かい中身を注ぐ。
それを手に執務机に戻ったカレンはナオの顔を思い浮かべた。
今朝顔を合わせたときに彼が言っていたことを思い浮かべる。
『本部からの執行官一行を信頼するな。』
危険だと言わなかったのはまだ確証がなかったからだろう。
しかし、彼のそういった勘はよく当たる。
いや、それはどちらかいうと彼が類稀な慧眼の持ち主であるということだ。
冒険者やギルド内の不正を暴くという面において、彼ほどその資質に優れた者を知らなかった。
何をどうすればそのような能力を身につけることができるのかはわからないが、執行官になる以前から盗賊か否かを見破る術に長けていたのは事実だ。
ナオが冒険者になる以前のことはあまり知らない。
それを話してくれないことに一抹の寂しさを感じているのは事実だが、あまり詮索するつもりもなかった。
彼が人に話せない過去を持っているかはわからない。
出会った頃からどことなく影があるのは気づいていた。しかし、犯罪者かどうかくらいは見極められる。
彼はそういったことに関しては潔癖だと思う。そして、そういった者に対して容赦のない男だということも知っていた。
また危険なことに巻き込まれてしまうのではないかと感じながらも、彼なら何とか切り抜けるだろうとも思っている。
そういったことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
この部屋を訪ねてくる者は限られている。
聞きなれないノックの音に少し警戒心を持ちながら、カレンはその場から返事した。
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