第69話

俺がカレンに依頼されたのは、このふたりに冒険者としての必要最低限のノウハウを教えることだった。


剣技や魔法などの習熟度を見て、適性をアドバイスするのはおまけみたいなものだ。


もちろん、ふたりには俺が執行官であることは告げていない。


信頼できる者、かつそれなりに高ランクであることから対象をしぼると、あまり選択肢がなかったのかもしれない。


パーティーを組んでいる冒険者が大半であることから、個別にこういった依頼をするのはスケジュールの調整も難しい。また、それほど魅力的な報酬があるわけではないので、快く引き受ける者も少ないのである。


「ふたりはどこで剣術を習ったんだ?」


ともに同じ流派で修練を重ねたのだと言う。


ただ、動きの端々に少し癖を感じた。


バルドル人の双子と出会い、同じ世界から来た者が他にもいることを知ったからか、少し神経質になっているのかもしれない。


しかし、人のこういった感覚はバカにできないものである。


第六感や虫の知らせというものは、脳の無意識の情報処理の結果だそうだ。感性を磨き、推理の経験を積み重ねると、常人離れした感知能力を身につけることも可能だった。


実際に俺はその種のトレーニングを受けたことすらあるぐらいだ。


「このナイフを振り回してくれないか?」


俺は腰につけているナイフを鞘ごとディルクに手渡した。


「わかりました。」


彼は何気にナイフを抜いた。


「···兄さん。」


ナイフの刃部分を凝視するディルクを見て、ミアがたしなめるような口調で彼を呼んだ。


「あ、ああ···あまり見かけないタイプのナイフですね。」


「そうだな。珍しさで衝動買いしたナイフだ。使いやすいし結構気に入っている。」


俺はそう言って、似たようなサイズのナイフを取り出して軽くディルクに突き出した。


「!?」


瞬時に反応したディルクは難なく俺のナイフを弾く。


「ナイフの心得もあるようだな。冒険者にとってナイフは重要なツールだ。獣の皮をはいだり、食材を刻んだり、時には剣の代わりに武器としても使う。その小さな刃物の取り扱いが上手い奴は長生きしやすい。」


俺は不自然さが出ないようにそう言った。


「なるほど。勉強になります。」


ふたりは少し困惑した顔をしていたが、やがてそのような返答をした。


「良かったらそのナイフはやるよ。切れ味も使い心地もなかなかのものだ。」


「良いんですか?」


「かまわない。俺の使い古しだから、気に入らなければ捨ててくれても大丈夫だ。」


俺がそう言うと、ディルクは嬉しそうにしていた。


その傍らでミアは複雑な表情をしている。


俺の意図を確認したいが、下手につつくとやぶ蛇だとでも思っているのかもしれなかった。



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