第64話
「そちらはまったく情報がないわ。」
衛生兵とはいえ、特殊部隊員であることに違いはない。
女性が毒物を精製し、男性が実行犯という固定観念は持たない方がいいということだ。
「こちらに協力要請は出したのか?」
「先ほどギルドマスターには依頼したわ。ただ、それを受けるかはあなた次第だと言われた。」
この支部に執行官は俺だけだ。
加えて、素性は極力明かさないようにしているので大々的な協力は難しい面がある。
「ただ、あなたも
バルドル人の双子は同志をメイトと呼んだ。しかし、ソフィアはバディと言う。
これはどちらもスラングである。
スラングとは俗語、簡単にいえばかなり砕けた表現のことだ。兵士が使う職業的な言葉もそれに含まれたりする。
バディとはアメリカ人らしい言葉だが、ここでなぜパルではなくバディと言ったのかが少し引っかかった。同志ならパルという方が一般的だ。
ただ、俺の固定観念がそう感じさせただけかもしれない。
バディという言葉はアメリカやカナダ人がよく使う言葉である。しかし、使うのは主に男性だという印象だった。女性であるソフィアが使ったのに違和感を感じたのだ。
これは少し懸念しすぎだろうか。いや、だからといって警戒は怠らない方がいい。
ちょっとした見落としや油断が命を左右すると思うべきだった。
「確かにその通りだ。同じ境遇の者が敵味方のどちらなのかは大きな意味を持つからな。」
ソフィアに対して今後どういった方針で接するかは決まった。
信頼しすぎないようにするべきだ。
同じ執行官という立場ではあるが、ほどよい距離の置き方が必要ということである。
この世界と自分たちの立場は、慎重かつ臆病でなければ長生きできないというのが俺の中の鉄則だった。
ソフィアを含めた三名がこちらの世界で何を行おうとしているかは、慎重に調査して見極める必要がある。
「それで、協力はしてもらえるのかしら?」
「問題ない。ただし、俺はあまり表立って行動はしない。」
「ギルドマスターから聞いているわ。執行官であることを公にしていないのでしょう。」
「そうだ。俺には君のような補佐官がいない。それに、こちらに来てからまだ日が浅いからな。」
「了解したわ。めぼしい情報があれば逐一連絡してもらえる?あと、いざというときに武力の供与を希望するわ。」
「承った。」
その後、現在わかっている情報の提供を受けてソフィアとの面談は終了した。
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