第52話

バルドル人の双子との出会いから三ヶ月近くが経過している。あれから特に連絡はないが、俺も気にしてはいなかった。


やっていることはこれまでと変わらない。


異なるのは同志メイトと呼ばれる同郷 ・・の者がこちらにいるという事実である。


あれから視界に入る人々の仕草や言動などをより細かく見るようになった。


こちらの世界には存在しないであろう言語、文化、体術における動作などを注意深く観察するのである。


同じ境遇の仲間を集めるのが目的ではなく、敵に回られると面倒だからというのが本音だ。


冒険者や盗賊、騎士などにも対人戦闘に長けた奴はいくらでもいる。しかし、剣よりも短い間合いでのやり取りや破壊工作、罠や情報操作などは元の世界の軍人の方が圧倒的に多くの引き出しを持っていた。


最強と呼ばれる特殊部隊出身者などは、基本となる身体能力や技能などにおいてこれ以上にないほど研鑽を積んでいる。


そんな類の人間がこちらの世界において仲間を募り、鍛えあげた場合はどうなるか?


それを想定するだけでも憂鬱な気持ちになってしまうのである。


やはり専従者などを探して戦力補強しておくべきだろうか。戦闘力に限らず、索敵能力の高い人間でも重宝するはずだ。


ここしばらく何度となく感じたことである。しかし、それに必要な人材確保は難しかった。いや、それどころか候補者すらいない。


いっそのこと、カレンが提案するように執行官であることを半ば公にしてしまうのもひとつの手段だった。


執行官はあまり面割れしていない方が何かと都合がいいというのは事実だ。ただし、それはソロの場合に限られた。


執行官であることを大々的にアピールして、目立つように振る舞うことはある種の抑止力となる。そして、その背後に別の執行官や職務を補佐する者がいれば、注意を引きつける役も担えるのだ。


とはいえ、その体制にするためにはやはり人員が必要なため、今のところはなんの目処もたっていなかった。


「エール追加で。」


飲み干した木製ジョッキを掲げてエールのおかわりを注文する。


「はい、喜んで!」


にこやかな笑みを見せるウェイトレスが元気よく返事した。


さすがに週に何度も通っていれば顔馴染みになるため、扱いは他の客よりもよくなっている。


因みに、ここの酒場がお気に入りという訳ではなく、流浪の冒険者や行商人などの利用率が高いため情報収集を兼ねて通っていた。


常連で賑わう酒場でも情報を得ることはできる。しかし、生きた情報が入手できる割合は、余所者の出入りが激しいこちらの方が圧倒的に上だった。



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