第44話

「そう思うでしょう。私たちも最初は目を疑ったわ。」


「冗談じゃなければ反地球ってやつか?」


試しに知っている単語を口にしてみた。


「誰かに聞いたの?各国の情報局ではカウンターアース、もしくはアンチクトンと呼称しているみたいだけれどね。」


反地球。


確か太陽の反対側には地球とそっくりな惑星が存在するという古代ギリシャから語られる空想である。


近代天文学で否定され、実際にはただの空想であるというのは既に周知の事実だが、高い人気を誇る仮説だったと記憶している。知人の天文学者がよく酒の席で話していたからすぐに思い出せた。


因みに、アンチクトンとは古代ギリシャ語である。


しかし、ミューフの言葉によると、やはり各国の情報局が絡んでいるようだ。


「一体、この世界は何なんだ?それと、元の世界との関連性についてわかっているなら教えてくれ。」


「その前に、先ほどあなたが話した内容に漏れはないの?」


「ない。人の負の感情が理外の存在を復活させるための贄になるから、理不尽な死を防ぎ人を救えといわれた。もし理外の存在が復活したなら、その世界は滅びるだろうとも。」


先ほど話した内容を再度口にした。


「本当にそれだけ?」


俺はさらに記憶を手繰って言葉にする。


「運が良かったら勇者が召喚されるかもしれないが期待するな。最悪の場合はピアスに魔力を通せば···」


ハッとしてアドルを見た。


「そのピアスって···」


「ああ、支給品だ。転生前に説明されていた場所に保管されていたのを回収した。」


「それに魔力を通したから全身タイツ姿になったのか?」


「···いちおう、あれはパワードスーツだ。」


マジか?


恥ずかしいパワードスーツだな。


「もしかして、俺のピアスもそうなのか?」


「それは知らない。ただ、日本の防衛庁とメーカーが共同開発したと聞いているぞ。耐火耐蝕防刃性に優れていて、通気性もかなり良い。」


なんだその無駄にすごくて意味のわからない装備は。日本の防衛庁とメーカーは何を目指した?


異世界でヒーローごっこでもしろと?


「あなたが知っているのはそれですべてということで良かったのかしら?」


「あ、ああ。そうだ。」


「それで愚直に人助けをしていたということね。」


「まあ、そういうことだな。」


「そう。あなたに重要な情報を何も与えなかったのは、現役を退いて長かったから。それと、極東の関連部署が杜撰だったからということね。ただ、あなたはそんな状況でも成果を出した。」


「成果?」


「あなたが担当した地域では負の感情は標準値以下なのよ。これはあなたが尽力した結果だと思うわ。」


「その負の感情はどこで測っているんだ?元の世界とコンタクトでも取れるのか?」



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