第34話
マオルヴルフを狩ろうとしている貴族たちの狩場近くまで来ていた。
外見は既に変装しているため、俺の姿は怪しさ満点である。
バーコードハゲが黒のベネチアンマスクとバンダナで顔を覆い、同色のポンチョ風コートで身を固めているといえば想像がつくだろうか。
おそらく街中で出会うと良くて不審者、悪くて変質者という装いだろう。
基本的には姿を隠しながら行動するため、万一目撃された場合の備えにすぎない。
そもそもがターゲットとしている者たちは全滅させるつもりでいる。偶然にも居合わせてしまった第三者や討ち漏らしがない限りは何の問題もないのである。
ただ、過信して備えを怠ることは愚でしかない。
身バレして権力者に疎まわれるとともに、冒険者からも裏切り者として距離を置かれる可能性もあるのだ。
他の冒険者と仲良しごっこをするつもりはないが、下手に警戒されると情報の取得や臨時的な協力体制が取れなくなる可能性もあるため、慎重にならざるを得なかった。
執行官というものは誤解を招きやすい存在だ。
人によっては「冒険者の粗探しをする嫌な奴」と言う者もいる。
実際には冒険者の地位向上と円滑なギルド運営のために必要な職務であるにも関わらず、現場の冒険者からは理解されにくい立場なのだ。
こういった部分で軋轢や確執、そして摩擦が生じることは仕方がないのかもしれない。
しかし、あまり大きな問題へと発展すれば、それは冒険者ギルドやその管理者に対する不信や不満につながってしまうのである。
個人的な感情は別にして、ギルドマスターが微妙な位置に立たされると、執行官の活動が阻害される以前にギルド制度自体に変革が望まれるようになるだろう。
そして、それは必ずしも良い方向へとは転がらない。
冒険者ギルドは中立をうたってはいるが、資金源の一部に国や貴族、有力商人の金が混じっている。さらにいえば、商業ギルドなど他の組織と資金の持ち合いすら行っているのである。
有事の際に協力体制を敷くためといえば聞こえはいいが、実際には主導権や発言権の取り合いとなることは想像に難くない。
執行官や
以前に「なり手となる対象者がいない」といった問題から、受験資格のハードルや合格ラインを下げたことがあったらしい。しかし、それによって起こったのは、新人執行官の殉職率や背任行為数の増大という笑えない結果だったそうだ。
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