第33話
バーコードヘアは、実はアメリカで特許が取得されている由緒正しいヘアスタイルである。
もし俺以外に元の世界の人間がこちらに来ているのであれば、彼らはバーコードヘアを見て懐かしさを感じるのではないだろうか。
こちらの世界のハゲは隠さない者が多い。
ハゲを誇らしいと感じているかどうかは知らないが、貴族や商人であれば後方に撫でつけるオールバック、冒険者や傭兵であればすべてを剃りあげるスキンヘッドが流行りのようだ。
元の世界でも近年はバーコードヘアが減少している印象が強かった。
しかし、少し前のどこぞの大統領や一部の芸能人、政治家やアスリートにもいまだに人気の髪型である。
世界的にも『頭髪の芸術』『髪の魔術師』と呼ばれるこのヘアスタイルを、久しぶりに目の当たりにした者は何らかの反応を示すのではないかと思っている。
それがこのカツラを作った最大の理由といっても過言ではないだろう。
因みに、バーコードヘアは和製英語で海外ではあまり通用しない。むしろ、「ひでぇ」と言って腹筋崩壊する者が多い言葉であると伝えておこう。英語では正しくはコムオーバーという。
さらに、このコムオーバー・ウィッグには仕掛けがあった。
髪の部分には魔力を流すと形状記憶合金のように元の形状に戻る材質が使われている。
これはある種の魔物の毛の特徴を利用して作られていた。普段はバーコードヘアなのだが、魔力を通すと二段に折り畳まれた髪が硬化して一方向に突出するのである。
簡単にいえば、拘束やヘッドロックされた場合に相手を攻撃する手段になり得るのだ。
実戦で試したことはないが突出したウィッグは厚さ二センチメートルの板を突き破るため、致命傷となるかはともかく相手にダメージを負わすことができる。
一度使うと使い捨てとなるため、なるべくなら使いたくはないが非常時には重宝するかもしれない。
冗談のように思えるかもしれないが、こういった小道具は意外性があった方が効果が高いのは、海兵隊で得た知識でも立証されている。
傍から見ればネタに思えても、命のやりとりをする本人からすれば大真面目なのは言うまでもないだろう。
もちろん、街中ではこのコムオーバー・ウィッグを装着することはない。
これはターゲットとなる貴族を処理する際に、目撃者に認識阻害を起こさせるために使う。
これに加えて仮面舞踏会で着用するようなベネチアンマスクで目もとを隠す。これはこちらの世界でも貴族が身分を隠すときに使うため、一般的ではないが市販されていた。
あとは口元をバンダナで隠し、ポンチョのようなコートを着込めば変装は完了する。
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