第32話

マオルヴルフの習性を頭に叩きこみ、あらためて策を練る。


後に貴族絡みでもめないためには事故を装うのが一番だった。


証人や目撃者を残さず、問題となるような物証も発見されないようにしなければならない。


やっていることは完全犯罪を目論んでいる犯罪者と変わらないが、一応は人助けという倫理観がある。ターゲットである貴族にとっては犯罪者でも、他の多くの人たちにとっては救いなのだと自己暗示を施す。


倫理観や道徳などは不変ではない。場所や時代、それに立場が変われば大きく変化するものなのである。要は、俺にとって納得できる行動指針であればそれでよかった。


一通り必要な知識と今後の方策を頭に入れてから街へと出た。


活用できそうな品を買い揃え、計画のタイミングを検討する。


いつもと変わらない作業に気負いなどはなかった。


いかに効率よく、後に禍根を残さないよう処理するかが重要である。


俺の専門は冒険者ギルドや街が抱える厄介事ばかりだ。ただ、そこにはいつも信頼できる者がいる。


いつだったか、辺境の地で街の顔役にあたる人物から依頼を強要されたことがあった。そのときは当時のギルドマスターが間に入っていたのだが、半ば脅しのような言葉で依頼を受理させようとしたため反発したことがある。


そのときは顔役のスキャンダルを辺境伯に漏らして社会的に破滅に追いやった。


ギルドマスターは平謝りしてきたが、そのときから俺はサポート役として支えてくれたカレンを窓口にするよう要求したものだ。


カレンは腕も立ち度胸も座っている。それ以来だろうか、半ば互いの意図を汲み取り行動するようになったのは。遠慮がなくなったと言いかえても良いかもしれない。


現在でも、彼女は俺にとって公私に渡るかけがえのないパートナーである。




口の堅い技師に作らせた魔道具を取り出す。


これはコムオーバー・ウィッグと俺は呼んでいるのだが、変装用の小道具として重宝していた。


コムオーバーは、直訳するとバーゴードハゲである。


人の印象というのは髪型や口もとで大きく変わる。そして普段はフサフサの髪を、わざわざ禿げて見える様にする奴などこちらの世界にはいなかった。


そんな奴は元の世界の芸人かコメディアンの類だろう。


因みに、バーコードハゲはこちらの世界では普及していないヘアスタイルだ。


なぜそんなカツラを用意したかについては深い事情があった。


まず、俺であることがバレないための変装であること。見た目のインパクトが強めなバーコードヘアは、その印象だけを残し人物像をボヤけさせる。


そして、こちらの世界にいるかもしれない元の世界の出身者を割り出すためでもあった。


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